不織布新書25秋(2)/スパンボンド不織布/構造改革で規模縮小/海外生産拠点を含めて

2025年09月30日 (火曜日)

 合繊メーカーがスパンボンド不織布(SB)事業で、構造改革を進めている。かつては日本の不織布産業をけん引する存在だったが、好事魔多し。今や収益の足を引っ張り、規模縮小や事業売却などが相次ぐ。

 経済産業省の生産動態統計によると、2023年(24年から製法別は未公表)のSB・メルトブロー不織布(MB)の生産量は前年比15・5%減の6万5938トンとなった。これは製法別の中で、最も落ち込みが大きく、ピークであった15年(11万192トン)に比べると、約40%も減少している。

 23年の不織布生産量が7・8%減の27万284トンであったことからすると、かなり大きな減産。製法別ではいまだに最大規模であるため、全体に与える影響は大きい。SB・MB生産は24年、25年1~6月も落ち込んでいる可能性が高く、国内生産だけでなく、日系の海外生産も現地企業との競合で苦戦を余儀なくされ、かつての勢いはもはやない。

〈衛材向け合理化進む/ポリエスSB最大手は売却〉

 アジア最大規模を誇る東レは、韓国、中国、インドネシア、インドで製造販売するポリプロピレンSB事業を特定事業・会社の構造改革(ダーウィンプロジェクト、略称・Dプロ)に位置付け、生産規模最適化に着手する。

 一部設備休止など生産体制の見直しによる固定費削減や、差別化の推進、新規用途開拓、生産規模の適正化などを進めており、特に韓国・中国子会社の生産規模を縮小し、25年度上半期で同事業の黒字化を計画する。

 日系で東レに次ぐ規模を持つ三井化学と旭化成の合弁会社、エム・エーライフマテリアルズ(東京都中央区)も衛材向けポリプロピレンSBの合理化を進める。旧三井系、旧旭化成系のタイ子会社2社では管理部門を一本化し、調達、物流の合理化も進める。国内製造子会社のサンレックス工業(三重県四日市市)も競争力のない一部設備を休止した。現・旭化成傘下のスパンボンド工場(滋賀県守山市)とも銘柄統合を進める。

 この2社は紙おむつなど衛生材料が主力。少子化の影響で国内の乳幼児用は需要減、一時隆盛を極めた中国では日本製の紙おむつも失速し、日系衛材メーカーの中国販売の苦戦や中国企業との競合で収益が低迷する。

 一方、ポリエステルSBも動きがある。国内最大手(公称能力は2万トン)のユニチカは、セーレンに、SBを含めたポリエステル関連事業を26年1月に売却する。セーレンは不採算品から撤退する意向を示しており、SB縮小の可能性がある。

 その他、中国など海外企業への生産委託を進める企業もあり、国内生産の縮小は避けられない状況にある。海外生産拠点も現地企業との競争に打ち勝てるかどうか。SB事業は大きな曲がり角を迎えている。

〈SL撤退相次ぐ/輸入との競合激化/低採算で設備更新難〉

 日本のスパンレース不織布(SL)の撤退が相次ぐ。各社に共通するのは使い捨ての生活資材や衛生材料が主力である点。これらの分野の多くはレーヨン短繊維使いSLが多く、中国からのSL輸入の増加、同SLを使用した製品輸入との競合激化が背景にある。さらにこの数年、続く原燃料価格の高騰などが収益を圧迫していたこともある。

 SL撤退の口火を切ったのはクラレ。子会社の旧クラレクラフレックス(大阪市北区)で製造販売していた乾式不織布(SLを中心にケミカルボンド不織布なども含む)を24年12月末で生産休止、25年3月末に販売を終了した。同社はMBの生産能力も大幅に縮小している。

 クラレクラフレックスの事業報告書によると、24年12月期は売上高72億円、営業損失4億円と2期連続の赤字で20年12月期の売上高88億円、営業利益8億円に比べると売り上げが落ち込み、収益が悪化していた。

 続いてユニチカが綿100%使いを主力とするSLの撤退を昨年11月に発表。

 25年12月26日付で、紙おむつ・生理用品など衛生材料製造機械製造を手掛ける瑞光へ売却(譲渡価格22億円)することが決まった。SLの売り上げ規模は40億円。

 同じく綿100%使いSLが中心の日清紡テキスタイルも25年12月末で生産を休止する(一部販売は外注生産で継続)。

 SLではないが、用途展開がよく似ているフタムラ化学(名古屋市中区)の湿式短繊維スパンボンド法による「TCF」も26年3月末で撤退することを明らかにした。世界で唯一の不織布の一つが消えることになる。

 SLの用途では国内のフェースマスク用が急拡大しており、猛暑に伴う制汗シート需要も旺盛だが、輸入品との競合激化が著しいことが撤退の背景にある。

〈レーヨン不織布輸入増/25年も14%増の高水準〉

 財務省の通関統計によると、急激にSL設備能力を拡大した中国からのレーヨン短繊維不織布の輸入量は17年が3万6191トンであったが、24年は約2倍の6万4355トン。25年も13・9%増と高水準で推移する。

 SLはレーヨン短繊維などを主要原料に、水流で繊維を交絡させて不織布化する。最も織・編み物に近い風合いが特徴だが、大量の水を使用し、乾燥工程など他の製法に比べてエネルギー消費量が大きい。加えてこの数年の原燃料高に伴う価格転嫁もあり、輸入品への切り替えが進んでいるとされる。このため、生産量が落ち込み、採算が悪化していたとみられる。

 さらに設備が老朽化している企業も多く、定期メンテナンスを行っているところでも限界が近づいており、事業継続には設備更新が不可欠となっていたこともある。

 採算が厳しい中で、多額の設備投資を行うには、リスクが大きい。SL撤退企業はそう判断したと考えられる。

〈セーレン/100億円投じ維持・更新/不採算撤退で規模半減〉

 セーレンが承継するユニチカのポリエステル繊維・スパンボンド不織布(SB)関連事業は、岡崎事業所(愛知県岡崎市)で生産し、ユニチカとユニチカトレーディングで販売してきた。セーレン傘下で各事業は今後、どのように変化するのか。9月10日に行われたセーレンの川田達男会長の会見から読み解く。

 ユニチカは25年12月26日付で譲渡事業の新会社を設立し、その株式を26年1月1日付でセーレンに売却する。譲渡価格は78億円。従業員約500人の雇用を維持し、3年間はユニチカ時の処遇とする。新会社の社長には結川孝一特別顧問(セーレン元社長)が就く予定。

 承継するのはSB、ポリエステル高強力糸、同長・短繊維、同重合を含め売り上げ規模は約500億円。これを200~300億円の約半減に絞り込む。承継事業は年間11億円近い赤字であり「将来性がない商品は需要家に迷惑が掛からないようにして撤退する」。コストに合わない品種が半分近くあるということだ。

 中でも衣料用糸売りや輸出は採算が合っておらず、これらは撤退し、資材用繊維やSBに集中する。ただ、ポリエステル短繊維は、品種が多いのも特徴だった。不織布用ポリエステル短繊維の中には別注に近い特殊品もあり、ロットも小さい。価格が伴えばよいが、採算に乗っていない品種もあったはず。そこにもメスを入れる。その面で、不織布関連の需要家がどのように対応するのか注目される。

 セーレンでは赤字事業の絞り込みなどで3カ月間の26年3月期は収支均衡、本格的な初年度となる27年3月期は黒字化計上を目指しているが、川田会長によると「直近は更新投資が行われていない異常な状態。50年を超える設備もあり効率が悪い」。このため、継続事業の設備維持・更新に3年間で100億円を投じる。老朽化対策に加え、自動化、合理化にも資金を投じる構えで、この中にはインフラ関連も含まれる。SBはS&Bを検討すると同時に「可能性がある事業であり、伸ばしたい」と意気込むとともに、糸・わた、SBとも加工度を高める考えも示した。

 一方で、岡崎事業所の経営資源(敷地面積32万平方メートル)を生かし、グループで強化する成長分野(車両資材や炭素繊維、建設資材、半導体)の新規投資を3年間で、100億~120億円(グループ全体で300億円)計画する。

 6月の基本合意書締結の際にも明らかにしていたもので「新規に土地や工場を取得するには時間がかかる。その面で岡崎事業所の譲受はスピーディーな事業展開に有効」と川田会長は改めて強調した。新規事業に加え、物流拠点としても活用する考えも示した。承継事業の一部撤退で生じる余剰人員も新規事業に活用。生産設備も50~60%の規模となるため、その建屋も新規事業に活用する計画という。

 「変えよう、変わろう」「自分の城は、自分で築く」とのスローガンも披露した。果たしてどう変わるのか。注目される。