特集スクールユニフォーム(9)/素材メーカー/独自素材で市場切り開く

2025年10月22日 (水曜日)

 学生服市場の変化を受け、素材メーカーは独自性を生かした提案を強化している。環境配慮や循環型の取り組みに加え、快適性・意匠性を高めた素材開発で多様化する学校現場のニーズに応える。教育分野との連携や一貫生産体制の整備など、新たな価値づくりへの挑戦が始まっている。

〈ニッケ/制服に“循環”の意識を/教育×素材で市場深耕〉

 ニッケは「循環」「教育」「環境配慮型素材」を柱とする提案を加速している。ウール製品の循環プロジェクト「WAONAS」(ワヲナス)、ウールの価値を伝える出張授業「ウールラボ」、環境配慮型生地「エミナル」の3本柱で次世代型制服を提案。ワヲナスでは不要になった制服を回収し、再び原料化する仕組みの構築を進めている。

 2021年から私立駒場学園高等学校(東京都世田谷区)の協力を得て「循環型学生服」の実証実験を開始。昨年4月から、卒業生の制服から再生した糸を使った制服を新入生が着用している。全国でも標準服の導入と連動し、再資源化を検討する自治体も幾つか出てきた。

 教育分野ではウールの特性や環境負荷の低さを学ぶウールラボが好評で、「制服を教材にする発想が新しい」と教員からも関心を集める。30、31日に開催予定の「近畿地区中学校技術・家庭科研究大会」に参加し、教育現場でのウール素材の認知度向上につなげる。

 素材ではCO2排出を25%削減し、マイクロプラスチック脱落を75%抑えるエミナルの販売が好調。フッ素系化合物(PFAS)フリー撥水(はっすい)加工「ロハスコート」との組み合わせも進む。

 エミナル使いの使用済み制服を再び生地化する試みも始動し、教育と連動した循環型制服づくりを広げる。

〈東レ/製品OEMとニットで需要捉える/合繊の快適と機能前面に〉

 東レは、製品OEMとニットの提案を柱に、合繊素材の快適性・機能性を前面に打ち出しながら、シェアの巻き返しを図る。

 制服モデルチェンジ(MC)ではブレザー化が一段と進み、主力としていた詰め襟服地の需要の縮小で販売面では厳しい状況が続く。一方で、ポリエステル100%の梳毛調織・編み物「マニフィーレ」に代表されるウールライク素材や、ケア性を重視するニーズは根強く、「高付加価値素材を軸に市場を広く捉える」構えだ。

 製品OEMでは、東レアルファートと連携し、素材開発から縫製・納品までの一貫体制を整備。生地調達から海外拠点を活用した一貫生産も見据える。素材単体では伝わりにくい特徴を製品提案で可視化し、販売力も高める。

 ニット分野でも海外の編み立て・染色・仕上げ設備を活用し、ポロシャツや体操服など通年需要のある製品を中心に供給を強める。軽量・ストレッチ素材「ライトフィックス」など他分野の人気素材を応用し、猛暑対応など新たな素材開発にも取り組む。

 さらにインクジェット捺染による柄物生地の試験供給を開始し、小ロット・短納期対応で在庫リスクを抑制する体制も見据える。「柔軟な生産体制が今後の学販に不可欠」として、採用拡大を目指す。

〈東洋紡せんい/素材の力で快適性追求/編み地開発や製品事業に力〉

 東洋紡せんいのスクール事業部の上半期(2025年4~9月)は前年同期比減収減益だった。長引く学生服メーカーの生産調整の影響を受けた格好となったが、「素材の力でユーザーの快適性を追求する」ことを使命に改めて開発、提案に力を入れ、業績拡大を目指す。

 織物から編み地、綿からポリエステルへの転換は同社にとって追い風であり、前期、前々期などはそれが業績にも反映されたが、生産調整局面が続く中、上半期は風に乗り切れなかった。

 「今は我慢の時。在庫調整が終わるタイミングに向けて商品開発と提案に力を注ぐ」(松村修取締役営業本部スクール事業部長)。酷暑対策として高通気と透け防止を兼ね備える「レイブロック」、吸水速乾性とストレッチ性を備えた「Zシャツ」などの提案を強めるとともに、中東向け民族衣装用生地の技術から着想し開発した速乾性・ノーアイロン・耐久性に優れる新商品「ToV(トーブ)シャツ」などを訴求していく。

 製品供給は近年伸びており、今後も伸ばす。インドネシアでの生地から縫製までの一貫生産体制が強みになるとし、「顧客の選択の幅を広げる取り組み」として機能強化を図る。

〈東亜紡織/柄企画力で攻勢/開発体制が充実〉

 東亜紡織は、柄の企画力を強みに提案を強化する。制服のブレザー化で男女兼用のミニチェックなど柄物需要が高まる中、「柄の企画力を磨いてきた」(澤田真啓第1営業本部スクールユニフォーム営業部長)という長年の取り組みが競争力に結び付いている。多彩な柄のデザインでシェア拡大を目指す。

 今期(2025年12月期)から3カ年の中期経営計画が始動した。前期までの制服モデルチェンジ(MC)特需の反動で減収減益の計画としたが、通期の利益は確保できる見通しだ。

 同社の企画力を象徴する意匠権付き素材「制服物語」は、毎年90~100柄を更新する。企画専任者がデザインし、製造本部と協力工場が連携する迅速な見本生産体制が、提案力を支えている。

 ストレッチ素材「デュアルアクティブ」や高耐久の「フェルテラ」など、差別化織物の提案に力を入れる。上着向けに、意匠性の高い丸編み地の開発にも乗り出し提案の幅を広げる。尾州産地のソトーなどと連携する「グリーンウールバリューチェーン」(GW)の取り組みも継続し、サプライチェーン全体でトレーサビリティーを確保できる体制が、顧客からの信頼獲得につながっている。

〈シキボウ/機能素材で提案拡大/快適性と環境配慮を軸に〉

 シキボウは、機能素材の開発に注力し、学販分野への提案の幅を広げている。今月、大阪と東京で開く展示会で新素材を発表し、快適性と環境配慮の両面から用途拡大を目指す。

 ニット製品のOEMでは、新たに体操服用途でも対応を始める。スポーツウエアブランド用途で培ったプリント技術を応用し、提案力を強化する。スクールシャツも堅調で、ポリエステル100%のトリコットなど、合繊素材の比率が高まりつつある。防シワ性や消臭機能を付与するなど付加価値を訴求する。

 洗濯時の速乾性と部屋干し臭の原因菌に対する抗菌効果を備えた「ルームドライ」は、室内干しに適した機能で人気を集め、堅調に販売を伸ばした。

 主力の高通気素材「アゼック」は、企業向けユニフォームの採用が好調に推移する中、スクール用途でも需要を維持している。今月の展示商談会では、V&AJapan(大阪市西区)の生分解性ポリエステル「クラフトエボ・リーテ」とアゼックの共同企画を発表し、環境対応型の新たな提案を打ち出した。

 特殊な糸使いと編み組織で汗染みを抑える「スエットコントロール」や、着用汗臭の原因となるマイクロコッカス菌の増殖を抑制できる「汗DRY DEO」なども披露。快適性を高めた素材を通じて多様化する学校現場のニーズに応えていく。