2025年秋季総合特集(6)/Topインタビュー/帝人フロンティア 代表取締役社長執行役員 平田 恭成 氏/事業利益拡大へM&Aも/商社とメーカーの一体化
2025年10月27日 (月曜日)
帝人フロンティアが収益力を高めている。2025年度(26年3月期)が最終の中期経営計画では、事業利益110億円(帝人の繊維・製品セグメントの数字)の安定確保を志向し、その目標は達成できる見通し。来年度には新たな中計が始動するが、平田恭成社長は「150億円を安定して計上することが次のステップになる」との認識を示した。次期中計も大きな方向性は変わることがないとし、収益力の拡大に向けて引き続き注力する。工場への設備投資は実施する考えだが、成長拡大の施策としてM&A(企業の合併・買収)も検討課題の一つに挙げる。
――独自性を出すために、これまで何を磨き、足りない部分をどのように補ってきましたか。
当社は、繊維商社として出発した企業です。長い歴史を持ち、さまざまな変遷を重ねる中で、ポリエステル素材のチームが加わり、自前の生産拠点も持ちました。自らのサプライチェーンを構築するなど、商社とメーカーが一体の企業になりました。一体感が顧客にも認められ、他社とは違った強みが出せています。
帝人が積み重ねてきた環境配慮型商品を受け継ぎ、諦めずに提案を続けてきたことも大きいと思っています。環境への意識が少しずつ高まり、われわれが展開する素材にも目が向けられるようになってきました。長年にわたって培ってきた知見が、今後の展開に役立つと信じています。
――一体化や融合は、予定よりも早く進んだのですか。
私のように商社出身の人間側からすると、素材メーカーと商社の一体化によるシナジーは描きにくかったのですが、10年ぐらい経過して顧客や市場に徐々に認められるようになってきました。「何年間で」という目標を立てず、目の前のことに取り組んできた結果です。「もっと早くできた」とは思っていません。
素材にこだわらず顧客に近い場所に立ってモノ作りを行って価値を提供するという機能に、素材がうまく組み合わされたのが今の状態です。これからはプラスアルファの何かがないかを模索していきます。素材メーカー系商社が他にもある中で、存在感を示していければと考えています。
――事業を取り巻く環境をどのように捉えていますか。
全体的な観点で言うと、市場は今期に入ってからもそれほど悪くはないという認識を持っています。とはいえ、「暑すぎる」気候が衣料品市場にどのような影響を与えるかは不透明です。アパレル企業のMDの変化がわれわれにどのような作用をもたらすのかは分かりません。ただ、暑熱対策などの機能素材が注目される可能性はあります。
産業資材分野は、自動車関連で回復が遅れています。自動車メーカーによって動向は分かれるのですが、生産台数を含めて、全体としては厳しく、不安要素が残っています。トランプ関税の影響も今年度後半から顕在化してくると言われています。実需にどのような影響を及ぼすのか、注視が必要でしょう。
中国の経済も回復の遅れが指摘されていますが、当社の拠点である南通帝人と帝人商事〈上海〉は健闘しています。スポーツ関連で特需的にオーダーを入るなど、昨年ができすぎた部分もあります。その分だけスローダウンは見られるのですが、急激に悪化しているというわけではありません。
――今期の業績は。
繰り返しになりますが、前期は中国関連が大きく寄与しました。今期は中国関連が若干落ち込むと予想しています。このため衣料繊維がスローダウンしますが、産業資材が伸びてカバーし、前期を少し上回る180億円の事業利益を見込んでいます。産業資材では、水処理フィルター向けポリエステル短繊維と生活雑貨がけん引役です。
この180億円という数字ですが、帝人フロンティアの実力通りであるとは思っていません。現在の中計では、想定外のことが起こったとしてもコンスタントに110億円の事業利益を計上することが目標でした。これは達成することができましたので、次のステップは150億円ぐらいになると考えています。
――下半期が現中計の仕上げになります。
衣料部隊は、上半期は順調か、それ以上のペースで推移しています。25秋冬の商戦は見えていますので、26春夏の商売をどれだけ取れるかにかかっています。テキスタイルは北米向けが堅調な動きを維持しています。これからトランプ関税の影響が顕在化した時に、現在の調子を維持できるのかがポイントです。
産業資材の自動車関連は、前半の厳しさは織り込み済みで、少しずつ盛り返すという計画でした。それがまだ見えていないのが懸念点です。生活雑貨は除湿剤が前年に比べると動きが良くないのですが、全体で前年並みを見込んでいます。水処理フィルター向けポリエステル短繊維は前年クリアを期待しています。
水処理フィルター向けポリエステル短繊維は中計を上回る水準で数量が伸びていますので、タイでポリエステル繊維の製造・販売を行っているテイジン・ポリエステル〈タイランド〉の増設計画を若干前倒しで進めていきます。
――次期中計の方向性は。
現段階では大きな路線変更はないと考えています。衣料繊維は、ASEAN地域の生産基盤強化を図るほか、繊維to繊維リサイクルの下地を一つ一つ構築していきます。産業資材では、現中計で思惑通りにいかなかった自動車関連はきちんと安定化させたいです。
共通して言えるのは、M&Aを検討することです。衣料繊維では、OEMにプラスの味付けを加えられるような何かを模索していきます。産業資材では、加工技術の強化がポイントです。ニッチでも強い企業と組めればと考えています。
〈ごはんのお供/知っている人は大好き〉
「健康のために最近は炭水化物を取らないようにしている。白米は何日かに1回」と話す平田さんだが、「白米を食べる時は昆布がおいしいと思うようになってきた」と言う。お薦めの品は、大阪市内に本社を置く舞昆のこうはらの昆布。「知っている人はみんな大好きで、実家の母に買って帰ると喜んでくれる」とのこと。平田さんは元々白米が好きなため、どんどん食べてしまうので自重している。新米の季節を迎えている。新米と昆布、みそ汁の誘惑はけっこう強いが……。
【略歴】
ひらた・やすなり 1985年日商岩井入社、2005年NI帝人商事繊維資材本部繊維資材第二部長、13年帝人フロンティア繊維資材本部繊維資材第二部長、14年繊維資材本部長、18年取締役執行役員、20年取締役常務執行役員などを経て、21年4月から代表取締役社長執行役員





