2025年秋季総合特集(7)/Topインタビュー/東洋紡せんい 社長 清水 栄一 氏/“理”と“利”を追求/プロダクトアウト型重視
2025年10月27日 (月曜日)
「“理”と“利”のある商権にヒト・モノ・カネを集約させる」――東洋紡せんいの清水栄一社長は強調する。素材メーカーとしての開発力・技術力、商社としての調達力に磨きをかけ、一格上のゾーンに向けた提案を進める。そのために、マーケットインだけでなくプロダクトアウト型の開発・提案も改めて重視する。
――独自性に磨きをかけるためには何が必要でしょうか。
当社の場合、“理”と“利”のある商権にヒト・モノ・カネを集約させるようにしています。“理”とは、当社がその商品や用途を手掛ける合理的な理由や社会的な意義、そして“利”とは持続的な事業運営が可能な収益性です。この二つを同時に追求しており、単純に売り上げ規模を求めるのではなく、資本効率を重視した事業運営を進めてきました。そうしたことができる事業とは何かを見極め、どの市場で、どういった商品で戦うのかを考えることでしょう。
もう一つ、これまではどちらかというとマーケットイン型の事業運営が強かったのですが、今後はプロダクトアウト型への転換が必要ではないかとも考えています。もちろんマーケットイン型には意味があります。しかし、どうしても過当競争に陥りがち。当社の本当の強みはプロダクトアウト型にあるのではないか。特に川上分野では素材メーカーとして原料や素材の開発力に強みがあります。規模を縮小したとはいえ、国内に工場を残した理由です。そこに商社として調達力が加わります。この強みを磨くことで、一格上のゾーンを狙うことが可能なのでは。そういったゾーンでは急激な規模の拡大は難しいでしょう。ですから、当社も既にKPI(重要業績評価指標)から売り上げ規模を外しています。売り上げ規模ではなく、利益を重視した事業運営が重要です。
――2025年度(26年3月期)も上半期が終わりました。
今期から東洋紡STCから機能資材事業と工業材料事業が移管されたので、直接比較できませんが、その影響を考慮した数字で比較しても売上高はほぼ横ばいながら増益で推移しています。製品OEMを中心に不採算・低採算商権を縮小したことに加え、新規案件を獲得している効果です。
輸出織物事業は中東民族衣装の堅調が続いており、生産能力増強も検討しなければなりません。欧州向けのナイロン高密度織物もケミカルリサイクル原料使いの販売が伸びました。マテリアル事業はインナー素材に依然として勢いがありませんが、原糸販売が健闘しています。こちらもリサイクル綿糸「さいくるこっと」などへの引き合いが増えています。ユニフォーム事業はニット生地を中心に備蓄アパレル向けで健闘していることに加え、別注も拡大しました。
一方、スクール事業とスポーツ事業は苦戦です。スクールは流通在庫の増加から調整局面となっており、販売数量が減少したことで利益率も低下しました。ただ、ある程度は想定していました。スポーツは生地販売が好調ながら、やはり製品が苦戦です。国内の縫製工場を縮小し、海外移管を進める過渡期にあることも影響したと考えています。
――今期から移管された2事業は。
工業材料事業は防水材や土木資材が、機能資材事業はメディカル分野が伸びています。いずれも海外での調達力が強みの事業ですが、もう一つ別の強みが欲しい。そこで独自の開発力を強化しなければなりません。
――今後の課題は。
先ほど述べたように、プロダクトアウト型の事業展開を強化します。また、ニット生地を中心に海外で現地アパレル向けの販売を拡大したい。26年度から新しい新中期経営が始まりますが、最終年度となる28年度にはROE(自己資本利益率)10%以上を目指します。
それともう一つ。下請法が改正され、中小受託取引適正化法として来年1月1日から施行されます。新たに下請け企業の定義に「従業員300人以下」が追加されたことで当社も適用対象となりました。このため一部の販売先に対しては代金受領までの期間が最大60日に短縮されます。取引先のキャッシュフローに負担をかけることになるので、丁寧に説明して、理解を求めたいと思います。
〈ごはんのお供/全種類を家に常備〉
「長い海外赴任を終えて日本に戻ってくると、改めて白ごはんがおいしく感じるようになった」。そんな清水さんにとってごはんのお供と言えば、「久世福商店の『ごはんのお供』シリーズ」と即答。なんと家にはシリーズ全種類を常備しているのだとか。「小瓶から大瓶までそろっているのがいいね。最初は小瓶で試して、気に入れば次に大瓶を買うことができるから」。最近では人に贈るお土産にも愛用している。
【略歴】
しみず・えいいち 1986年東洋紡績(現・東洋紡)入社。生活テキスタイル事業部ワーキングサービスグループマネジャー、グローバル推進部主幹兼東洋紡インドネシア社長などを経て2021年執行役員東洋紡STC社長、22年東洋紡せんい社長、24年4月から東洋紡常務執行役員機能繊維・商事本部長を兼務





