2025年秋季総合特集(10)/Topインタビュー/クラレトレーディング 社長 山田 武司 氏/原糸から縫製を一貫で/サプライチェーンで付加価値

2025年10月27日 (月曜日)

 「20年以上の時間をかけて原糸から縫製までの一貫体制を作ってきた」と、クラレトレーディングの山田武司社長は話す。使用する原糸も従来のポリエステル繊維だけでなく、ビニロン繊維や高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」などクラレグループの独自素材の活用も強化した。「原糸から縫製まで“ピカピカ”に磨き上げる」と話す。

――独自性を磨くために何が必要でしょうか。

 クラレの衣料用テキスタイル事業やポリエステル長繊維生産部門が当社に移管されてから20年以上の時間をかけて原糸から縫製までの一貫体制を作ってきました。これは簡単なことではなく、実際に移管当初から組織も大きく変えてきた経緯があります。現在、ようやくその成果が目に見える形になっているわけです。

 ただ、課題も少なくありません。一つは人材。どうしても縫製分野に人手を取られてしまいますので、原糸分野を担当する人材が不足しがちとなり、素材の開発力が弱くなってしまいます。また、ポリエステル長繊維生産は製造設備の老朽化が進んでいますが、現在の合繊糸の国際競争の状況を考えると国内生産で設備の修繕・更新コストを賄えるだけの利益率を確保できないという問題があります。

 このためクラレ西条(愛媛県西条市)でのポリエステル長繊維生産を2026年12月で停止し、海外でのOEMに切り替えることになりました。今後はOEM先企業に対してノズルなど設備の提供だけでなく、原糸分野の技術者も派遣し、技術指導だけでなくポリマーや原糸の共同開発にも取り組む考えです。ポリエステル長繊維の自家生産を停止するのは残念ですが、OEM先企業が保有する新鋭設備も活用できるようになりますから、これを機会に原糸の開発力を改めて強化します。

 また、ポリエステル繊維以外にまで素材を広げていかなければなりません。クラレグループにはビニロン繊維やベクトランといった独自素材がありますから、その活用のためにもっと素材や開発について勉強する必要があります。

 ただ、原糸だけで差別化するのには限界があります。やはり縫製まで含めたサプライチェーン全体で付加価値を創っていくことが欠かせないでしょう。

 一方、マーケットを見ると現在は国内と中国が中心ですが、これも広げていかなければなりません。例えばインド市場などは可能性があります。これは縫製拠点という意味だけでなく、市場としても有望ですから内販にも挑戦したい。ただ、これも具体的な成果がそれなりの数字になるには5年、10年かかると思いますが。

――25年度(12月期)も第4四半期(10~12月)に入りました。

 上半期(1~6月)は決算も過去最高の数字となるなど絶好調でしたが、下半期に入ってから、ややトーンダウンしています。通期ではなんとか前年並みの数字にしたいところです。スポーツ用途は全体としては堅調ですが、学販体育衣料が依然として流通在庫の増加から受注が低迷しています。また、アウトドアは受注を大きく伸ばしていますが、縫製、染色のスペースがタイトになっており、納期が長期化していることが業績にも影響していると考えられます。そのほか、メディカル用途も貼付剤基布などが、いまひとつ勢いがありません。

――26年度に向けた課題と戦略を。

 原糸から縫製までの全ての工程をピカピカに磨き上げる。素材開発、縫製、サプライチェーン全体を強化しなければなりません。そのために、例えばベトナム子会社でミシンやプリント設備の更新や増強を続けてきました。こうした設備投資を継続します。その上で、海外市場の開拓に取り組みたい。東南アジア地域での内販などに挑戦したいですね。

 当社は来期が中期経営計画の最終年度ですから、次期中計に向けた方向性を考えなければなりません。やはり、このあたりがテーマになります。先ほども述べたように、当社には多様な素材を使いながら縫製まで担うことができるという強みがあります。こうした強みを一段と発揮します。

〈ごはんのお供/北陸で初めて食べた味〉

 「干物や漬物が好き」という山田さん。お気に入りが北陸地方の郷土料理「へしこ」(青魚を塩漬けにし、さらにぬか漬けにしたもの)。特にサバのへしこがお気に入りだ。「若い頃、仕事で福井に出張した際に、産地の取引先の人に初めて食べさせてもらった」のだとか。関西出身のため、全くなじみのない食べ物だけに「繊維産業で働いていたからこそ北陸に行く機会があり、へしこの味も知ることができた」と振り返る。

【略歴】

 やまだ・たけし 1984年クラレ入社、クラレトレーディング衣料カンパニーテキスタイル部長、同カンパニースポーツ部長、衣料・クラベラ事業部副事業部長、可樂麗貿易(上海)総経理などを経て、2015年クラレトレーディング取締役、18年常務、18年常務繊維事業統括兼衣料・クラベラ事業部長、20年から社長