秋季総合特集Ⅱ(1)/人材育成・働き方改革による強靭化
2025年10月28日 (火曜日)
〈アルムナイ制度/組織風土活性化に期待/繊維関連企業で事例増〉
ライフイベントやキャリアチェンジを理由に会社を退職する人は多い。辞めて初めて会社の良さが分かる場合があり、退職者(アルムナイ)が再入社するケースも珍しくなくなっている。受け入れる企業側も組織の柔軟性や知識基盤の拡充、組織風土の活性化が期待できると前向きな姿勢を見せる。東レとGSIクレオスの事例を紹介する。
東レはこのほど、「アルムナイ専用ウェブサイト」を開設した。中期経営課題の基本戦略の一つとして掲げる「人を基本とする経営の深化」に基づいた新たな取り組み。同社を退職した人材を対象に会社情報や採用情報を発信し、ネットワークを構築する。
日本では、新型コロナウイルス禍を機に人材の流動化が起こる。元々従業員の定着率が高い同社も例外ではなく、若手従業員の退職者が見られるようになった。以前は退職者が再入社するケースはほとんどなかったが、仕事に対する価値観が変わる中、退職者も人材と位置付けるようになった。
実際、コロナ禍以降で約10人がカムバックした。キャリア採用で問われる即戦力性と専門性を持ち、「一度社外の“景色”を見たことで新たな視点が加わるのが大きい」(人材開発・企画部)と話す。同社は組織風土の改革も打ち出しており、カムバック制度がそのエンジンの一つになると考え、システム化した。
アルムナイ専用ウェブサイトでは、同社を退職した後も関心を持ってもらえる人との関係構築を目指し、登録者に経営層からのメッセージや社内のニュース、インタビュー記事などを発信する。互いのニーズが合致すれば再入社できるよう採用情報も掲載する。
GSIクレオスは、戦略人事「GROWプロジェクト」を始動した。吉永直明社長は「近年は収益への投資が主体で人材投資ができていなかった」とした上で、「人的資本が企業価値向上の資源になる」と強調し、新プロジェクトの立ち上げで人事政策の見える化を図った。
プロジェクトでは、「グローバルマインドセット」「リスキル」「オポチュニティー」「ウェルビーイング」の四つに力を入れる。奥山由美子執行役員戦略人事専任はウェルビーイングについて「社員満足度だけではエンゲージは上がらない。社員幸福度をいかに満たすかになる」と話した。
さまざまな施策を進めるが、採用関連の施策として退職者フォロー・アルムナイネットワーク制度を強化する。同社には、カムバックした人材の活躍も多いが、「これまで退職者は個人のつながりだった。公式につながりを持つには制度化する必要があった」(吉永社長)とする。
制度の登録者には、アルムナイ用ニュースを発信するほか、プレスリリースや同社の方向性、業績などをメールなどのツールを通じて届ける。希望があれば採用に向けた面接の場なども用意する。制度の運用はまだ始まったばかりだが、新たな視点に期待したいとしている。
〈JAFIC/「女性活躍」も新たな課題/少ない執行役員、取締役〉
日本アパレル・ファッション産業協会(JAFIC)はこのほど、会員企業における女性管理職の比率が約30%になったと発表した。大手アパレル企業で女性の活躍が目立ち、キャリア形成や復職の制度設計が進んでいる。その一方、新たな課題も浮上し、女性活躍は次のフェーズに入っている。
30%という数字は高い水準と言える。日本全体の女性管理職比率は、課長相当職以上で約12・7%(厚生労働省・2023年度調査)と低く、国際的にも低水準になっている。アパレル業界も例外ではなく10年ほど前までは、長時間労働や転勤、出産・育児によるキャリアの中断で離職するケースが多かった。
JAFICで女性活躍推進小委員会委員長を務める須賀利行氏(ルックホールディングス執行役員人事総務部部長)は「アパレル業界の女性就業人口が約50%なので、30%でも高くない」と話す。大手アパレルで部課長クラスの管理職は増えているが「執行役員や取締役になると極端に少なくなる」。
女性の社外取締役を登用するのが主流になった一方で、JAFIC会員企業で生え抜きの女性取締役はほぼいない。会員企業と顔を合わせることが多い、JAFICの川口晴人専務理事は「中小企業では女性社長も増えつつある。登用の数値目標を掲げる企業もあるので、大手アパレルも女性の取締役が増えるのでは」と読む。
22年から女性の経営幹部候補育成を開始し、執行役員が増えているオンワードグループ、24年2月時点で女性管理職比率が46%になったバロックジャパンリミテッドなどが具体的な事例となっている。
重要な戦力である販売職(店頭社員)についても、出産・育児休職からの復帰率は高くなった。しかし、常態化する人手不足の中、店頭でシフトを組むのが難しくなっている。復帰後は土曜日や平日の夕方に働けない販売職が増え、どうしても周囲の負担が大きくなる。
一部の企業は手当を増やす対応を実施しているものの「先進的な対応ができていないのが現状。復職した女性が周囲に負担を掛けてしまっていると悩むケースがある」(須賀氏)と言う。少人数でシフトを組む小型店では、より周囲の負担が増えることもある。
JAFICでは、約3年前に「女性活躍推進サイト」を開設した。女性がキャリアを築く上での障壁やリーダーシップを執るために必要なマインドを動画で指南。協会事務局でサイト開設に関わった川名由加氏は「反響もあるがサイトの広報活動が課題。消費者や学生にも周知したい。閲覧数をさらに増やしたい」とする。





