秋季総合特集Ⅱ(5)/Topインタビュー/クラボウ 社長 西垣 伸二 氏/コア技術の磨き上げ/過去の延長線では生き残れない
2025年10月28日 (火曜日)
クラボウは、今期(2026年3月期)から始動した3カ年の中期経営計画で成長分野へのシフトを加速している。西垣伸二社長は「過去の延長線では生き残れない」と語り、コア技術の深化で新たな価値創出を狙う。繊維事業では安城工場(愛知県安城市)を閉鎖し、海外への生産移管でグローバル体制を再構築。化成品事業では熊本イノベーションセンター(熊本県菊池市、KIC)の新棟を稼働させ、半導体分野の成長を確実に取り込む。構造改革と成長投資の両輪で、28年3月期にROE(自己資本利益率)10%の達成を目指す。
――独自性を出すために、何を磨き、何を補ってきましたか。
全社的には、四つの重点項目に取り組んできました。第一は「ビジョンの共有」です。19年に策定した「長期ビジョン2030」を6年ぶりに見直し、変化した事業環境に合わせてグループの進むべき方向を明確にしました。ROEは前期実績で7・6%でした。長期ビジョンで10%の目標を掲げていましたが、28年3月期に前倒しでの達成を目指しています。
第二は「コア技術の磨き上げ」です。化成品事業では樹脂の配合・加工技術、環境メカトロニクス事業では画像処理やセンシング技術など、各事業固有の強みをさらに深化させています。第三は「顧客・サプライチェーンとの関係強化」、第四は「人材育成と組織エンゲージメントの向上」です。
一方、課題は、自前主義にとらわれず外部連携を柔軟に進めること、デジタル技術で企業を変革するDXによる生産性の向上、多様な人材が活躍できる風土づくりを強化することです。
繊維事業では、「過去の延長線では生き残れない」という強い危機感を共有しています。単なるモノ売りから脱却し、顧客体験や物語性を織り込んだビジネスモデルへの転換が不可欠です。その核となるのが「わたを改質する技術」であり、これを基にした高機能糸「ネイテック」は好調に推移し、糸事業売上高の約3割を占めるまでに成長しました。機能性とサステイナビリティーの両立こそが当社の独自性の源泉です。
今後は「スピード重視の開発」と「グローバルサプライチェーンの強化」に力を入れます。衣料品の輸入浸透率が98%を超え、価格競争に陥らないためにも、安城工場の閉鎖を機に、タイやインドネシアの拠点を活用したグローバル供給体制を再構築し、付加価値型のビジネスを展開していきます。
―――上半期までの進捗(しんちょく)は。
第1四半期(4~6月)は、安城工場の閉鎖や中国の自動車内装材事業の譲渡といった構造改革、さらに半導体市況の回復遅れで、減収減益でのスタートとなりました。部門ごとに差はあるものの、全体としては計画通りに進捗しています。
化成品事業では、懸念していた半導体市況の回復が想定より遅れています。人工知能(AI)関連の設備投資は堅調ですが、汎用(はんよう)品は回復が半年ほど後ろ倒しの状況です。ただし、半導体市場が成長分野であることに変わらず、技術開発に注力し、次の成長に備えています。
環境メカトロニクス事業では、FA(ファクトリーオートメーション)設備などが堅調で、利益をけん引しました。4月にライフサイエンス事業を立ち上げました。バイオとロボットビジョンの技術を統合した新組織にリソースを集中させ、成長を加速させます。
繊維事業は、安城工場の閉鎖準備に伴う一時費用が響き、第1四半期は赤字となりました。ユニフォームやカジュアル分野は顧客の在庫調整で減収基調にありましたが、第2四半期からは回復基調にあります。
――下半期方針は。
大きな軌道修正は考えていません。上半期で見えた課題を一つずつ着実に実行していくことが重要です。中でも繊維事業は、安城工場から海外拠点への生産移管を確実にやり遂げることが最優先です。一部に遅れはあるものの、計画は順調に進んでいます。原料開発から製品までを一貫して手掛けるグローバル供給体制を早期に構築し、競争力を高めていきます。
新たな取り組みも始めました。ユニフォーム事業では、7月にワークウエア専門の電子商取引(EC)サイト「ニューライフワーカーズ」を開設しました。単なる製品販売ではなく、自社開発素材を使ったオリジナルブランド「GOROKU」(ゴロク)などを通じてエンドユーザーの声を直接捉え、素材開発に生かす仕組みとしています。
また、暑熱環境下の体調管理システム「スマートフィット」は、6月の熱中症対策義務化を受けて採用企業が急増しました。大口案件の導入時期が一部後ろ倒しとなったため、今期の売り上げ貢献は限定的ですが、問い合わせは多く、来期以降の拡大を見込んでいます。
組織面では2期連続で過去最高益を更新したクラボウインターナショナルとの連携を強化します。カジュアル部門の立て直しに加え、本体社員が最終製品を学び、インター社員が糸や生地を学ぶといった双方向の交流を進め、新たな活力を生み出していきます。
――成長への投資も加速しています。
4月から新棟が稼働したKICでは、半導体製造装置向け高機能樹脂製品の需要拡大に対応し、生産・開発能力を約2倍に引き上げました。特に重視しているのが「クリーン化」です。エンドユーザーから製品内の微粒子や金属イオンの混入防止が厳しく求められています。業界でも例の少ないクラス100の高水準クリーンルームも導入し、信頼性の高い製品づくりを徹底しています。
繊維事業では、海外生産体制の再構築を年内には完了させ、顧客ニーズや市況を見極めながら、最新鋭の紡績機械の導入も検討します。
〈ごはんのお供/カニみその瓶詰〉
「何を隠そう、大の白米好き」と明かす西垣さん。ご飯のお供はカニみその瓶詰で、兵庫県北部の実家に帰るたび地元の鮮魚店で購入するという。「これがあればご飯が何杯でも進む」と笑う。「家族全員が好物なので、いつもあっという間になくなるのが少し残念」とも。ほかにピリ辛とニンニクの風味が食欲をそそるニンニク肉味噌漬けや、サメ軟骨のコリコリ食感と梅の酸味が絶妙な梅水晶もお気に入り。「どれもおいしく、つい食べ過ぎてしまうので健康管理には注意している」
【略歴】
にしがき・しんじ 1986年クラボウ入社、2014年化成品事業部産業資材部長、18年兼熊本事業所長兼務、執行役員、22年常務執行役員、23年取締役常務執行役員、24年6月から社長





