秋季総合特集Ⅱ(6)/Topインタビュー/シキボウ 社長 鈴木 睦人 氏/“繊維起点”で独自性と強みを再構築/大きな挑戦を飛躍へ

2025年10月28日 (火曜日)

 シキボウは今期(2026年3月期)から3カ年の中期経営計画を始動している。「成長への変革」を掲げて収益構造の再構築と事業の高度化を進める中、柱となるのがユニチカグループから引き継ぐ衣料繊維事業で、来年1月の統合に向け準備を加速させる。鈴木睦人社長は「販売力の強化なくして生き残れない時代。今回の譲受は大きな挑戦であり、飛躍へのチャンスでもある」と語る。繊維技術に、独自性の発揮、海外展開、デジタル技術で企業を変革するDXなど、それぞれを連動させながら、持続可能な成長を目指す。

――独自性を出すために、何を磨き、足りないところをどう補ってきましたか。

 事業ポートフォリオを見直す中で、改めて繊維の技術を経営資源の軸足に置くことを明確にしました。当社の各事業は繊維を起点としており、その技術や資産を強化することが独自性の確立につながると考えています。

 繊維部門では、抗菌・抗ウイルスなどの「衛生加工」や「消臭加工」といった開発力に強みがあります。近年は猛暑に対応する高通気性素材「アゼック」や、電動ファン(EF)付きウエア向け生地、汗染み防止加工などを強化してきました。 一方で課題であった海外での販売力を補うため、ベトナムや台湾に販売拠点を整備してきました。

 産業資材部門は、ドライヤーカンバスなどで培った特殊な広幅織物技術が強みです。しかし、主要市場である製紙業界の縮小という変化に対応するため、海外への市場開拓やリサイクル素材の開発を進めています。

 機能材料部門は、これからの大きな成長の柱となってきます。食品・化成品では食品用増粘安定剤のブレンド(粉体の混合)製品の生産能力、品質向上のために立ち上げたシキボウ堺(堺市)の新工場が稼働しつつあります。複合材料は航空機エンジン部品が軌道に乗り、技術力が求められる航空宇宙分野で存在感が高まっています。

 また、ファッションブランド「アンリアレイジ」との協業や、中東で人気のスポーツ、パデルのスポンサー活動といった、ブランド価値を高めるための新たな取り組みも活発にしています。

――4~6月は増収も営業減益でした。ただ、繊維事業は利益が大きく改善し、黒字化しました。

 中東の民族衣装向け生地輸出に加え、猛暑を背景にアゼックの販売を伸ばしています。アゼックは大阪・関西万博のNTTパビリオンのユニフォーム素材として採用されるなど、広がりを見せています。また、ベトナム現地での原糸販売も収益に貢献し始めています。

 産業資材部門は、紙需要の減少から軟調な市況が続いていますが、工場の生産性を高めてコストダウンに取り組んでいます。また、比較的需要のある段ボールを製造する工程で使用されるコルゲーターベルトでは、基布に繊維層を特殊針でニードリングした「Nドライ」の販売を強化しています。

 機能材料部門では、シキボウ堺が本格稼働に向けた準備段階にあり、これから数字に表れてくると期待しています。複合材料は、顧客の生産計画による多少の波はあるものの、航空機エンジン部品が堅調に推移しており、設備増強も進めています。

 不動産・サービス部門では、シキボウリネン(和歌山県上富田町)がインバウンド需要に支えられて非常に好調です。一部で懸念された中国へのパンダ返還後の影響も軽微で、増収の見通しです。

――下半期以降の方針は。

 中計で掲げた「稼ぐ力の向上」「新中核事業の成長拡大」「経営基盤の強化」「サステイナビリティー経営の取り組み」という四つの方針に沿って、各種施策を着実に進めていきます。

 コスト上昇に対応するための生産効率化や、海外を含めた新規市場・顧客の開拓は全部門共通のテーマです。また、経営基盤強化の面では、老朽化した基幹システムの刷新をはじめとするDX化を推進し、データ活用と業務効率化を図ります。併せて、人材確保に向けた人的資本経営の取り組みも強化します。

 国内外の製造拠点との連携をさらに深め、より効率的な生産・販売体制を追求していきます。

――下半期最大の課題は、ユニチカの連結子会社ユニチカトレーディング(UTC)およびその海外子会社が手掛ける衣料繊維事業の譲受に向けた準備になります。

 この事業譲受は、当社の中計が掲げる「成長への変革」のまさに“一丁目一番地”と位置付けています。これまで当社は海外に生産拠点を整備してきましたが、日本向け販売が中心でした。アパレル業界のグローバル化が進む中で、海外での販売力を強化することは長年の課題であり、今回の譲受はわれわれにとって大きな挑戦であり、飛躍のチャンスだと捉えています。

 譲受するのは、ユニフォーム、寝装品、シャツ地、プリントの各事業で、当社の主力分野と重なり、大きなシナジー効果が期待できます。特に複重層糸「パルパー」などの有力ブランドや、ベトナム、中国、インドネシアの海外拠点も一体で引き継ぐことで、グローバルな販売網を一気に拡大できます。

 譲り受けた事業や人員は、別会社とせず、当社の繊維部門に完全に統合し、一体となって運営していきます。21年から協業関係にあったため、互いをよく理解しており、スムーズな融合ができると信じています。今年12月末に譲り受けを完了し、来年1月から新体制でスタートする予定です。現在、社内にプロジェクトチームを立ち上げ、中計への反映も含め、詳細を詰めている段階です。

〈ごはんのお供/三島食品のふりかけ〉

 「実は、ご飯に何かをかける習慣があまりなくて……」と悩みつつ、鈴木さんは二つの回答を披露。一つはシキボウの従業員100人に聞いた社内アンケートで、1位は梅干しや野沢菜などの「漬物」。「佃煮」「納豆」が続いた。もう一つは出張先の広島で出会った三島食品のふりかけ「ゆかり」シリーズ。「ひろし」「かおり」など種類の多さに驚き、全種類を買って長野事業所で“ふりかけバー”を開くと2日で完売。「刻んだきゅうりと和えても美味しい」とアレンジも教えてくれた。

【略歴】

 すずき・よしひと 1988年シキボウ入社、2014年マーメイドテキスタイルインダストリーインドネシア社長、16年タイシキボウ社長、18年繊維部門開発技術部長兼グローバル事業推進室長、19年執行役員繊維部門開発技術部長兼営業第一部長兼富山工場長、20年同繊維部門開発技術部長兼シキボウ江南社長、21年同機能材料部門複合材料部長、24年同コーポレート部門副部門長〈経営戦略・中期経営計画担当〉、25年6月に代表取締役社長執行役員に就任