秋季総合特集Ⅱ(8)/Topインタビュー/大和紡績 取締役 青柳 良典 氏/存在意義は“他社がまねできない”/原料から製品の一気通貫で価値創出

2025年10月28日 (火曜日)

 大和紡績は、ポリプロピレン(PP)やレーヨンといった原料段階からの開発力を強みに、持続的な成長戦略を描いている。青柳良典取締役は「他社が簡単にまねできる技術ではない。当社の存在意義はそこにある」と強調する。原料開発から製品設計まで一気通貫で担う体制を生かし、化粧液保持性を高めたフェースマスクなど高付加価値製品を次々と生み出している。研究開発機能を備える播磨研究所(兵庫県播磨町)を軸に、機能性素材の提案を国内外で加速し、グローバル市場での存在感も着実に高めていく。

――独自性を出すために何を磨き、足りないところをどう補ってきたのですか。

 当社がこの5年、10年と追求してきたのは、徹底した事業の“選択と集中”です。その根幹には二つの大きな方針があります。一つは「コスト競争力のない汎用(はんよう)品からの撤退」、もう一つは「最終製品に近い『末端』への接近」です。

 例えば、糸売りや生地販売からは、おそらくほかの綿紡績大手の中で最も早く縮小・撤退を進めたのではないでしょうか。今年3月には合繊紡績が主力のダイワボウスピンテック(松江市)の事業を終了しました。既に国内で織布設備を持っていませんでしたが、紡績設備も全てなくなりました。これは大きな決断でしたが、汎用品のコスト競争から脱却するために不可欠な判断でした。

 その一方で注力してきたのが、いわゆる“製品化”です。中国やインドネシアに自社の縫製工場を構え、インナーやTシャツなど最終製品に近い形でお客さまに価値を提供する体制を構築してきました。大ロット生産が前提となる紡績業では、国内生産でのコスト競争は極めて厳しい。そこからいち早く脱却し、川上から川下まで一貫して付加価値を提供できる事業モデルを築いてきたことが、現在の収益基盤につながっています。

 今後の成長戦略の核となるのが、研究開発拠点となる播磨研究所であり、原料から生産する強みを持つ合繊・レーヨン事業です。ここには人、モノ、金の経営資源を集中的に投下しています。

 特にPP繊維においては、いつの間にか国内でトップクラスの生産量を誇るメーカーになりました。ただ、汎用の原料を衛生材料向けに販売するだけではありません。

 当社の強みは、国内で唯一レーヨンを生産するメーカーでもあることです。このPPとレーヨンを複合させるなど、他社にはない独自の技術で高付加価値な商品を開発しています。その代表例が、女性向けのフェースマスクです。通常、PPは水を吸わない素材ですが、レーヨンとの複合や独自の構造設計により、化粧液をしっかりと保持できるようにしました。原料から自社で開発・生産できる体制があるからこそ実現できた商品で、市場でかなりのシェアを獲得できていると自負しています。最近ではインバウンド需要の回復も追い風になっています。こうした、お客さまの製品価値を飛躍的に高めることができる提案こそが、一番の強みとなります。

――産業資材事業、製品・テキスタイル事業の現状はいかがですか。

 産業資材事業は、かつては製紙会社向けのカンバス・メッシュベルト事業が主力でしたが、ペーパーレス化という大きな流れを受け、現在はフィルター事業へ完全に軸足を移しました。

 特にカートリッジフィルターは、一時期の半導体バブルで供給体制の構築に苦労しましたが、現在は安定し、数量ベースでも前年を上回って推移しています。今後は、電子材料分野の深耕に加え、塗料や飲料といった新たな分野への展開を加速させます。そのため、より高性能な製品開発に向け、播磨研究所との連携強化や、新たな設備投資も検討中です。

 製品・テキスタイル事業では、合繊・レーヨン事業との“協業”が成功の鍵となります。当社の強みである機能性原料を活用し、付加価値の高いカジュアルウエアやインナー製品を開発、提案しています。単なるデザイン性だけでなく、機能性を重視する傾向が強まっていますので、われわれが積極的にアプローチすべき領域だと考えます。

――上半期(4~9月)の商況は。

 第1四半期(4~6月)こそ計画を上回る順調な滑り出しでしたが、第2四半期は想定外の要因が重なりました。記録的な猛暑による屋外工事の停滞や、物価高騰を背景とした国内の衣料品消費の冷え込みが直撃し、特にカジュアルウエアや土木資材が影響を受け、やや苦戦しました。上半期としては計画に対して若干厳しい着地となりそうですが、収益性はしっかり確保できています。

――下半期から3カ年の中計の折り返しに入ってきます。

 苦戦している事業の課題を早期に解決し、巻き返しを図っていきます。既に動きだしている新商品の投入や、顧客の在庫調整が一巡することによる回復も見込んでいます。特にけん引役である合繊・レーヨン事業は堅調に推移しており、全社一丸となって計画達成を目指していきます。

 中計で掲げる「世界マーケットにチャレンジするグローバル企業への転換」という目標は不変です。売上高に占める海外比率を前期の15・4%から20・8%へと引き上げ、来期には23・2%の目標を掲げています。その中心は、やはり合繊・レーヨン事業となってきます。原料は国境を越えて供給しやすく、海外売上比率を高めていく上での主力となります。

 また、インドネシアの生産拠点から欧米や東南アジアへの製品輸出も強化していきます。人口減少が進む国内市場だけに頼るのではなく、海外で成長していく。そのための布石を着実に打っていきます。

〈ごはんのお供/「金のつぶたまご醤油たれ」〉

 東京への「単身赴任が通算15年くらいになる」と青柳さん。朝食は、休日に炊いて冷凍しておいたご飯を温め、納豆とインスタントみそ汁で済ませるのが定番。関西出身だけに納豆が苦手だったが、東京勤務が長くなるにつれ、食べる機会が増え、「残すのは嫌いな性分」もあって、「だんだん慣れてきた」(笑)。今では朝の食卓に欠かせない存在に。お気に入りは「金のつぶたまご醤油たれ」。「手間がかからず、おいしいのが一番」。最近は豆腐と一緒に食べることも多いとか。

【略歴】

 あおやぎ・よしのり 1983年ダイワボウホールディングス(旧大和紡績)入社。2010年ダイワボウノイライフスタイル部長、11年同社取締役、14年ダイワボウプログレス取締役、16年同社常務、20年4月大和紡績取締役(現任)