合繊メーカー/稼げなければ事業継続不可/背景に設備の修繕・更新コスト
2025年10月29日 (水曜日)
近年、大手合繊メーカーを中心に繊維事業の一部譲渡や縮小・撤退など構造改革が加速している。ただ、従来のような不採算による赤字解消ではなく、収益性向上のためのポートフォリオ変更を目的とした再編が主流となってきた。繊維事業は“稼げなければ事業継続不可”と判断される時代に突入している。(宇治光洋)
日本の合繊メーカーは、これまでも繊維事業の一部譲渡や縮小・撤退といった構造改革を続けてきたが、多くの場合は採算低迷による恒常的な損失が発生していたことが原因だった。今年、ユニチカが繊維事業から撤退したのも、このパターンに当たる。
ところが近年、黒字を維持しながら構造改革の対象となる事業が増えてきた。例えば三菱ケミカルグループが2024年にトリアセテート事業を譲渡したことや、クラレが生産子会社のクラレ西条(愛媛県西条市)でのポリエステル長繊維生産を26年12月末までに停止することなどがこれに当たる。
こうした動きの背景にあるのが、資産効率を重視した企業経営が一段と求められていることがある。例えば東レは現在、投下資本利益率(ROIC)を重視した経営戦略を推進している。東洋紡も衣料繊維事業を東洋紡せんいとして分社して以降、不採算・低採算事業の縮小を進め、今後は衣料繊維事業で自己資本利益率(ROE)10%以上を目指す方向性を明確にした。
こうした傾向は、単純に株式市場からの要望に基づくものではないことに注意が必要だ。無視できないのが、生産設備の維持という物理的要因。日本の繊維産業は歴史が古いため、国内外とも工場設備の老朽化が進んでおり、継続的な修繕・更新が欠かせない。また、世界的な環境規制の強化によって、設備の改造や環境関連の付帯設備への新規投資も増加が避けられない。
こうした設備の修繕・更新や新規投資が可能な利益率を確保しなければ、繊維事業の継続は、それこそ物理的に不可能になる。また、昨今の人手不足を背景に、人件費の上昇も続く。従業員に十分な賃金を支払えるだけの利益率を確保できなければ人員の確保も難しくなり、やはり事業継続ができなくなる。日本の繊維産業は、“稼げなければ事業継続が不可能”となる時代に突入した。
利益率重視の経営が一段と重視されることで、繊維事業の生産品種も一段と高度化を進める必要がある、また、拡大が見込みにくい国内市場だけでなく、海外を主戦場とする必要性も高まってきた。
スポーツ素材を中心に海外メガブランドへの差別化素材販売で成果を上げている帝人フロンティアは、「日本で生産する以上、利益率の高い高級ゾーンに特化するしかない」と強調し、「全世界を見れば、高級ゾーンだけで日本の生産能力を上回る市場規模がある」とも指摘する。
“高付加価値化”と“グローバル販売”、日本の繊維産業が“稼ぐ”ための道筋が、これまで以上に明確になりつつある。





