秋季総合特集Ⅲ(2)/アイデアマンに聞く“開発のイロハ”/開発による強靭化/帝人フロンティア 技術・生産本部衣料テキスタイル・製品開発部長 尾形 暢亮 氏

2025年10月29日 (水曜日)

 スポーツ素材を中心に欧米のメガブランドからも高い評価を得ている帝人フロンティア。近年では高バランス合繊ニット生地「デルタ」がロングセラーとなっている。デルタの開発者で、その後も次々と個性的なテキスタイルを開発し続けている尾形暢亮衣料テキスタイル・製品開発部長に“開発のイロハ”を聞いた。

――2006年に発表した「デルタ」誕生のきっかけは。

 実は以前から野球練習着用の合繊長繊維ニット生地でスナッギングが発生しやすいという課題が寄せられていました。そこで耐久性の高いニット生地の開発を目指したのですが、なかなかうまくいきませんでした。そんな時に、たまたま資材用に開発されていた非常に編み目の詰まった生地を見つけます。これを応用すれば衣料用でも耐久性の高いニット生地ができるのではないかと試行錯誤を経て生まれたのがデルタです。発表当初は地味な素材だと思いましたが、いち早く評価して採用してくれたのは海外のアウトドアブランドでした。

 よく市場のニーズに応える開発と言われますが、一つの生地に求められるニーズは相反するものが多く、実現するのは簡単なことではありません。それこそニーズをとらえてから開発していては、まったく間に合わない。一方で当時からプロダクトアウト型の開発は徹底的にやっていました。そこで蓄積していたシーズがニーズと一致したときに新しい商品ができる。デルタがまさにそうでした。

――ニーズとシーズを一致させるには。

 現在、他の国にもあるような生地では日本の素材が採用される可能性はゼロです。だから、プロダクトアウトを死ぬほどやって、引き出しをいっぱいにした上で取引先との商談からニーズの流れを読み取り、ほかに存在しない生地を作るしかありません。それと機械・設備も重要です。いまも毎週、北陸産地に足を運び、産地企業が持っている設備を見ながら、どんな生地を作ることができるのかを一緒に考えています。海外と比べて日本の繊維産業は設備の新しさや資金力の面で劣るのですから、その分をチームのマインドで補うしかありません。また、自分で着用することで、消費者の視点を忘れないことも重要です。

――今後の素材開発で重要になるは。

 やはり人材を含めたソフト面でしょう。とにかく作り場は人手不足ですから、個社だけでなく日本の生産チーム全体を盛り上げるという大きな視点が必要です。量を追えなくなっている以上、単価の高い商品をやるしかありません。売り先も国内だけでは苦しい。

 一方で世界を見れば、トップゾーンだけでも日本の生産スペースを埋めるには十分なのでは。それと、原糸から特殊なものを作って生地開発しているのは日本だけです。汎用(はんよう)糸による生地開発というのは本当に難しい。だからこそ海外から“日本には何かある”と今でも思われているわけです。そうした期待に応え、常に“見たことのない生地”を世界に向けて見せ続けることが重要です。