秋季総合特集Ⅳ(3)/Topインタビュー/豊島 社長 豊島 晋一 氏/AI活用の提案スタイル/新たな顧客体験創り出す
2025年10月30日 (木曜日)
豊島は9月から新体制がスタートした。豊島晋一社長が半七前社長(現会長)からバトンを受け継いだ。かじ取りを担う豊島新社長は従来のOEM/ODMを柱としながらも、「素材」「付加価値製品」「ライフスタイル商材」「DX・AI」を軸に独自性を高めていくことに力を注ぐ。特に人工知能(AI)については、「新しい顧客体験ができるようなAIを活用した提案スタイルを作りたい」と意気込む。その上で「どれだけAIが進化しても人が扱うツールであるべき。人が持つ感性や価値観を高めることが重要」と強調する。
――会社として独自性を出していくために磨いていきたいことを教えてください。
大きな柱はOEM/ODMですが、そのプラスアルファが独自性につながると考えます。具体的には四つあり、その一つ目は素材です。歴史的にも当社の強みとしてきた部分ですが、今後も環境素材と機能性素材の2点を追求していきたい。幅広いネットワークを生かし、開発を進めます。
二つ目は付加価値製品の展開です。ペルチェ素子式ウエアや電動ファン付きウエアなどワーキング分野のほか、リカバリーウエアなどのウェルネス分野も需要が底堅く、世界的にもテーマになっています。競合が多い分野ですから、他社とは異なる打ち出しも必要です。
三つ目は雑貨など生活を彩るライフスタイル商材です。ちょっとした便利グッズなど生活の質を向上できるような商品群を訴求していきます。世の中の環境変化に合わせて継続的に提案していきます。
最後の四つ目はAIやデジタル技術で社会を変革するDXの活用です。特にAIの進化は目を見張るものがあります。BtoBならではの「顧客体験」ができるようなAIを活用した提案スタイルを確立したいです。
――具体的にはどのような提案スタイルでしょうか。
当社製品の生成AIで3次元モデルに着装させるシステム「バーチャルスタンダード・ファブリックジーニー」と、柄を生成AIで制作するサービス「バーチャルスタンダード・AIパターン」を組み合わせると、その場でパターンを選んでモデルが着用した3D画像が作れます。今までにない体験をしながら、かつ服作りの工程も効率化できる。商談がお客さまにとっても楽しい体験になるのではと思います。
――AI活用についての方針は。
社外向けは「AIパターン」「ファブリックジーニー」、そしてAI自動採寸装置「バーチャルスタンダード・AIメジャー」の三つを打ち出しています。自律型のAIエージェントも登場していますので、そこにつなげていく可能性はあると考えます。
今後はさらにいろいろなモノにAIが導入されていくでしょうが、人が扱うツールであるという軸が揺らいではいけません。あくまでAIは人の可能性を広げるための道具です。AIが人の知能をしのぐ転換点とされるシンギュラリティー(技術的特異点)を迎えたとしてもそれは変わりません。AIのことを知れば知るほど、人が持つ感性や価値観を高めていくことが重要だと実感しています。当社の社員は個性派ぞろいですから、そうした時代が到来しても上手くAIを活用し、ビジネスで活躍できると思っています。
――今期(2026年6月期)の重点施策は。
素材部門は引き続き輸出に力を入れます。欧州や中国などへ生地販売を進めます。もちろん国内への提案も手を緩めません。新販路訴求に向けて素材だけでなく製品の知恵も入れながら提案していきます。
製品部門は前期で落ち込んだ主力取引先向けを回復させることが先決です。主力先の中では海外から直接仕入れる動きが進んでいますので、当社だからこそ提供できる商品群やアイデア、コスト提案をしていきます。
――改めて豊島入社前の経歴を教えてください。
大学卒業後に勤めた会社では主に財務経理や経営企画を経験してきました。有価証券報告書の作成やM&Aの実行などに携わったほか、実働部署へ応援に行くこともありました。書類上の数字をただ見るのではなく、その数字がどういうプロセスを経て、作り上げてきたのかという現場の苦労も経験してきました。
会社全体を見渡せる立ち位置でしたので、その時の経験は今も役立っています。その後の会社でも主に財務畑を歩んできました。会計の勉強もしてきましたので、その部分は自分の強みとなっています。
――繊維業界をどのように捉えているのでしょうか。
日本を支えてきた重要な産業と考えています。日本を代表する企業の中には繊維を母体に発展や成長を遂げた会社が幾つもあります。私自身がこの業界に関われたことは大変光栄なことであると感じています。世界的な経済の流れで浮き沈みはありますが、厳しい中でも誇りを持って仕事をしている方は多くいます。そうした方たちとコミュニケーションを取ると良い刺激になります。繊維業界を支えてきた60~70歳の大先輩方の考え方も勉強になります。
――今後の抱負や目標を教えてください。
責任の重さを痛感していますが、与えられた役割はしっかり果たさないといけません。自分の意識をしっかり切り替え、まい進していきたいと強く考えています。会長が築いたライフスタイル提案商社という方向性はぶらさず、そして社是でもある誠実と信頼をベースにした経営を守り続けていきます。
〈ごはんのお供/おにぎり具材ナンバーワン〉
「あさりのしぐれ煮があれば、ご飯は何杯でもいける」と話す豊島さん。幼少期から好きで、忙しい社会人になってからは、朝食でおにぎりにしてよく食べていた。大抵のスーパーマーケットに置いてあるため独身の頃も重宝した。「おにぎりの具材ナンバーワンはもちろんあさりのしぐれ煮」と言い切る。一方で「当たり前に食べているのが納豆。これはお供というより、ご飯そのもの」と笑う。お供という意味ではあさりに軍配が上がる。
【略歴】
とよしま・しんいち 2021年豊島入社、同年5月総務部付監査担当。9月監査役、22年9月取締役兼財務部部長、23年7月専務取締役を経て、25年9月から現職





