技術の眼/住金鉱山/積水ナノコートテクノロジー/帝人フロンティア/東京エンゼル本社/愛知県の技術センター/東レ

2025年11月14日 (金曜日)

 「技術の眼~NEW WAVE GENERATING TECHNOLOGY~」では将来的にニューウェーブを巻き起こし得る重要な技術にスポットを当て、紹介する。

〈住金鉱山/独自素材で次世代作業服〉

 住友金属鉱山は、多用途展開を進める独自のナノ微粒子素材「ソラメント」を活用した次世代ワークウエアのコンセプトモデルを制作した。電動ファン(EF)を搭載し、環境温度28℃時に衣服内を最大19.3℃低下させる。

 このワークウエアの心臓部となるのが、同社が特許を持つ素材技術「ソラメント」。主成分のタングステンなどから成る金属ベースのナノ微粒子を、ポリエステル生地の繊維に練り込んでいる。その含有率はわずか1%未満だが、温度上昇の主原因となる太陽光の近赤外線を吸収・遮断する一方、明るさを保つ可視光は透過させる特徴を持つ。そのため衣服の表面は熱くなるものの、肌に近い内側への熱の侵入は防ぎ、涼しさを保つ。

 コンセプトモデルは、生地の効果を最大限に引き出すため、上着とズボンに計四つのEFを搭載。EFが衣服内に空気を取り込むことで、肌と生地の間に空間が生まれ、ソラメントが吸収した熱を効率的に外部へ排出し、常に涼しい状態を保つ。

〈積水ナノコートテクノロジー/生地にナノ金属の薄膜形成〉

 染色加工の積水ナノコートテクノロジー(愛知県蒲郡市)は、生地にナノサイズの金属をコーティングする加工技術「masa」(マサ)の提案に力を入れている。生地の風合いを損なわず、織物やニット、不織布など幅広い素材に対応。カラー展開も進めておりファッション向けの拡大も目指す。

 半導体を製造する際に用いる、金属の薄膜を作る技術「スパッタリング」を応用した。真空にした装置内で金属材料にプラズマをぶつけることで空気中に金属分子が飛散する。その上を生地が通ることで金属分子が堆積し、ナノサイズの超薄膜ができる。金属分子が飛散するスピードは超高速のため生地と強く密着する。

 膜が薄いため柔軟性があり、生地の風合いをそのまま生かせる上に、ひび割れが生じることもない。素材は合繊に限られるものの、織物からニット、不織布まで対応可能だ。シート状でロールにできるものであれば、繊維に限らずフィルムなどにも加工できる。

〈帝人フロンティア/シート中わたでマザーブランド〉

 帝人フロンティアは、環境配慮と機能性を両立したシート中わたを開発した。「サーモフロント」というマザーブランドを設定し、スポーツ・アウトドアからカジュアル衣料まで幅広い用途に提案する。付加機能ごとにサブブランドを設け、国内外で販売を開始した。

 再生ポリエステル繊維「エコペット」を70%以上使用することで環境に配慮した。中空断面短繊維による高い保温性も特徴だ。独自の不織布設計技術とシート加工技術を活用することで、使用する原綿が持つ機能性を最大限に発揮させる。

 第1弾として販売するサブブランドは、「サーモフロント OA」「同SL」「同BE」の三つ。OAはかさ高軽量性を付与し、再生ポリエステル使用率は100%。SLはソフトな風合い、形態回復性、保温性、ボリューム感などが特徴。BEは、キュプラ繊維「ベンベルグ」を使用。ベンベルグの吸放湿性によって蒸れ感を軽減する。再生ポリエステルとキュプラ繊維の使用率は97%。

〈東京エンゼル本社/現場の変化に応えた患者着〉

 介護ウエア製造卸の東京エンゼル本社(東京都足立区)は、工業洗濯での高い耐久性と快適な着心地、管理のしやすさを追求した新しい患者着「トリコット コンフォート ウェア」を開発した。新型コロナウイルス禍以降に変化した医療・介護現場のニーズに応えるもので、展示会などでの反響を見ながら2025年の発売を目指す。

 新製品は、肌に優しく伸縮性がある綿混トリコット素材を採用。縫製を工夫することで肘や膝の動きに自然にフィットし型崩れしにくいデザインとした。繰り返しの工業用洗濯でも縮みやシワが出にくく、ストライプ柄のデザインは色落ちしやすい濃色部分をポリエステル100%素材にすることで鮮やかな色合いを長期間保つ工夫が施されている。

 ラインアップは、パジャマ、ワンピース、ラップの3種。洗濯頻度が高いボトムスの色落ちが目立ちにくいよう、ワンピース以外は上下で色が異なるセパレートタイプを採用した。パジャマの襟元は、見た目のきちんと感を保ちつつ、洗濯時の傷みを防ぐために縫い付けた付け襟仕様。

〈愛知県の技術センター/高吸水と抗菌性のガーゼ〉

 あいち産業科学技術総合センターは三河織物工業協同組合などと共同し、高吸水性かつ生乾き臭などの原因菌を抑える三河木綿ガーゼを開発した。セルロースナノファイバー(CNF)を活用することで吸水性と抗菌性を両立させた。

 同組合のほか、イチオリ(愛知県蒲郡市)、水野金属商事(同豊田市)と連携した。三河産地の伝統織物「三河木綿」に最先端のCNF技術を融合することで、使う人や環境に優しい「三河の知恵が生んだ機能布」として開発を進めた。

 綿は植物性のため、合繊のように繊維へ抗菌剤を練り込む加工が使えない。そこで、表面に抗菌剤をコーティングする加工を用いた。樹脂バインダーで固着させると吸水性が損なわれるため、代替として植物由来で吸水性を備えるCNFを使用した。

 完成したガーゼハンカチの吸水性試験では、市販の樹脂バインダーを使ったガーゼに比べて吸水性能が高く、未加工ガーゼとほぼ同等の性能を示した。抗菌性試験でも基準以上の効果が認められており、洗濯50回後でも抗菌性能を持っていた。

〈東レ/CFRP再生で新技術〉

 東レはこのほど、熱硬化性樹脂を使った炭素繊維複合材料(CFRP)を分解し、炭素繊維の強度や表面品位を維持しながら再利用できるリサイクル技術を開発した。この技術で得た高品位なリサイクル炭素繊維(rCF)を用いた炭素繊維不織布も開発した。

 CFRPは航空機や風力発電設備で使用が拡大しており、廃棄CFRPのリサイクルが大きな課題となっている。これまでrCFの用途として鉄鋼炉の還元剤としてケミカルリサイクルが進められており、CFRPを高温で熱分解してrCFを回収・再利用するマテリアルリサイクルの技術開発も進んだ。ただ、さらなる用途拡大にはrCFの熱損傷や樹脂残渣(ざんさ)を制御し、あらゆるCFRPに適用できるリサイクル技術が必要とされていた。

 こうした課題に対して東レは、蓄積した有機合成・ポリマー重合の知見を生かし、三次元架橋された難分解素材である熱硬化樹脂に対して、従来技術より低温で分解可能な新規分解剤による廃棄CFRPの分解を実現した。