ニッケ/「WAONAS」発進/循環衣料で“輪”を創る

2025年11月26日 (水曜日)

 衣料品の循環を実現する新しい動きが広がり始めている。その中心にあるのが、ニッケが進める衣料品回収・循環プロジェクト「WAONAS」(ワヲナス)だ。繊維業界で世界的に抱える衣料の大量廃棄問題が深刻化する中、リユースやリサイクルへの関心が高まる。こうした状況を受け、「資源を循環させる新しい仕組みを作りたい」との思いから、2024年10月にワヲナスを立ち上げた。長年培ってきた紡績技術を生かし、資源を次の時代へつなぐ仕組みづくりに挑む。

〈“理念”でつながる輪/鍵は共感と連携〉

 ワヲナス最大の特徴は、誰でも理念に共感すれば参加できる“開かれたプロジェクト”という点にある。アパレルメーカーや販売店だけでなく、企業、学校、自治体、個人など、立場を問わず参加できる。

 特定の学校や企業に向けて服を再生する「マンツーマン方式」は採らず、参加者全体で循環の仕組みを共有する。例えば、複数の学校で回収した制服を一つの資源としてまとめ、新たな製品に再生する仕組みを採る。回収量や品質のばらつきを抑え、循環の輪を安定的に回すことを可能にする。

 参画メンバーは、それぞれの立場から役割を担う。制服設計の段階でリサイクルを見据える企業もあれば、まずは使用済み衣料を回収するところから関わる企業も存在する。「できる企業から始めていけばいい」――そうした柔軟な発想の下、緩やかなアライアンス構想として大きな輪を描く。

 構想の基盤には、ニッケが1998年から手掛けてきたウール衣料回収システム「エコネットワーク」の存在がある。ダイドーリミテッド、ダイトウボウの3社で協力し、回収した衣料を自動車内装材などに再利用してきた。付属品の分別や、衣料として再生できない部分を産業資材へ転用する仕組みも整い、「回収した服を一枚も無駄にしない」循環の体制を築いた。

 服から服へのリサイクルは、全ての素材で容易にできるわけではない。現時点でコストバランスを取りながら循環できるのは、サーキュラーエコノミーの観点からウール製品が中心となる。ニッケは「ウール業界の強みを最大限に生かし、現実的で持続可能な循環モデルを作る」ことを目指している。「この輪を動かすには、理念に共感してもらうことが欠かせない」――一過性の活動で終わらせず、実績を積み重ねて確かな成果を残すことが、ワヲナスの成功に向けた鍵となる。

〈“輪”を支える革新技術/品質の安定化を実現〉

 ウールと他繊維の複合回収原料を衣料用の糸に再び戻すには、高度な技術が求められる。ニッケが長年培った製造技術が、ワヲナスの循環を支える。

 回収された衣料は、岐阜工場(岐阜県各務原市)と印南工場(兵庫県加古川市)で反毛・紡績・生地まで一貫生産する。不織布・フェルト製造グループ会社のエフアンドエイノンウーブンズ(FANS、大阪市中央区)の反毛設備の活用も視野に入れ、最適な再資源化ルートを整える。

 再資源化の技術の要となるのが、革新精紡機によるサイクロンスピン製法によって生まれた紡績糸「ブリーザ」。ウールとポリエステルを均一に絡ませる特許技術を持つ紡績手法で、生地の耐摩耗性に優れ、毛玉を抑制し、洗濯後の型崩れを防ぐ。光が乱反射することで、色に深みを与え、奇麗な発色が持続する。

 改良を重ね、糸に反毛わたを最大15%まで混入させることが可能になった。縦糸にバージン原料を使用し、緯糸に反毛わた15%混の糸を使用することで、生地全体では7・5%の混率を実現する。今後は品質を維持しながら、段階的に混率を高める。

 私立駒場学園高等学校(東京都世田谷区)との実証実験では、試紡と試織を何度も繰り返し、改良を重ねてきた。当初は糸が硬く、制服用途には適していなかったが、試作を重ねることで柔らかさと耐久性を両立し、学校制服にも使える品質へと進化した。

 再生のもう一つの課題は「色の安定化」。回収衣料はさまざまな色が混ざるため、仕上がりにばらつきが生じやすい。「色を安定させることも品質の一つ」として、薄い色は薄い製品へ、濃い色は濃い製品へと仕分けし、試紡と染色を繰り返して精度を高めてきた。こうした積み重ねにより、再生素材でも安定した色味を実現するノウハウが蓄積された。

〈国内初の循環型制服/駒場学園高校と実現〉

 ワヲナスを具現化した初の事例が、駒場学園高校との「循環型制服プロジェクト」だ。2024年4月から、卒業生の制服から再生した糸を用いた制服を新入生が着用している。駒場学園の協力により、ワヲナスの正式発表へとつながった。

 この活動は21年に同校からSDGs(持続可能な開発目標)の探求学習の一環で「制服をリサイクルできないか」との相談が発端となった。卒業生の思いを感じ取れる“寄贈”という表現で呼び掛け、79着集めた。

 これらを反毛し、新入生の制服生地の一部として再生することに成功。日本初の「服から服へ」の事例となった。単なるリサイクルにとどまらず、卒業生から新入生に託す「愛校心の循環」も実現したとして、教育的な観点からも評価されている。

〈国の後押しで広がる輪/NEDO採択で加速〉

 ワヲナスの取り組みは、国の資源循環政策とも連動している。25年8月、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「バイオものづくり革命推進事業」の新たな研究開発テーマとして「繊維to繊維の資源循環構築の実現に向けた研究開発・実証」が採択された。

 ニッケ、帝人フロンティア、クラボウ、東レ、日清紡テキスタイル、公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)が参画。各社が持つ技術や知見を結集し、混紡品から効率的に原料を分離・回収し、再び高品質な繊維として再生する革新的な技術開発を進める。今後は、ウールとポリエステルを分離する技術や、色を抜く脱色技術など、さらに高度な研究開発を推進。分離したウールをバージンに近い白さと品質に戻し、再び高付加価値な素材として生まれ変わらせることも目指す。

 素材そのものを再利用できる仕組みを確立し、持続可能な繊維産業の基盤作りを進める。NEDOの採択を契機に、自治体や教育委員会から反響が寄せられるなど、社会的な関心が一段と高まった。

 今後は、ビジネスユニフォームの分野で展開が加速するとみられる。企業が主体となって導入を決定するため、取り組みが企業イメージの向上やCSR活動の一環として受け入れられやすく、社会に発信しやすい土壌がある。

 ニッケは、制服やユニフォームといった“循環の仕組みを作りやすい領域”で確実に実績を積み重ね、将来的には一般衣料への展開も視野に入れる。環境配慮への意識が高まる今こそ、共感の輪を広げる好機と捉え、持続可能な未来へ向けた新しい流れを生み出していく。

〈WAONAS Trivia/もう一つの由来〉

 ワヲナスには三つの意味がある。回収循環の「輪」と、持続可能な社会の実現に向かって人々が協力する「和」と、廃棄衣料を減らす活動を通して地球環境保全に貢献する「環」。アパレルやサプライヤー、ユーザー、回収選別業者、メーカーなど皆で一緒になって取り組む“和のプロジェクト”でありたいという願いが込められている。

 ネーミングには驚きを表す英語の感嘆詞「わお!」という遊び心もあったと言う。元々は別の社内プロジェクトで使われていた名称が、新たな資源循環の象徴として引き継がれた。いつか公式な由来にも驚きの「わお!」が加わる日が来るかもしれない。