特集 抗ウイルス・清潔・衛生/高まる清潔・衛生への意識
2025年11月27日 (木曜日)
新型コロナウイルス禍を経て、清潔・衛生に対する意識は社会に広く定着した。繊維製品に対しても、従来のファッション性や快適性だけでなく、抗菌や抗ウイルスといった機能が標準的に求められるようになりつつある。こうしたニーズの高まりを受け、清潔・衛生関連の素材開発や加工技術、そしてその性能を客観的に確認する検査機関の役割が、一段と重要性を増している。
〈33年に180億ドル超えか/世界の抗菌繊維市場〉
消費者の衛生意識の高まりを背景に、世界の抗菌繊維市場が拡大を続けている。調査会社のフォーチュン・ビジネス・インサイトやビジネス・リサーチ・インサイト、マーケットリサーチセンターなどの最新リポートから、その市場動向を探る。
世界の抗菌繊維市場は、2024年時点で100億ドル前後の規模と推定される。今後も年平均成長率4~6%台で堅調に推移し、32年から33年には167~184億ドルを超える規模に達すると予測されている。
市場成長をけん引する最大の用途は医療分野だ。病院内での医療関連感染のリスク低減が重要視され、手術着やベッドリネンなどで抗菌繊維の採用が不可欠となっている。
次いで、アパレル分野の存在感も大きい。特にスポーツウエアで需要が拡大しており、汗による微生物の増殖とそれに伴う不快臭を抑制する機能が消費者の支持を集める。
素材別に見ると、34年にかけて、綿とポリエステル、ナイロンが主要なシェアを占めるとみられる。通気性が高く快適な綿はヘルスケア用途で、耐久性に優れるポリエステルはユニフォームで、高強度なナイロンは靴下や医療用途でそれぞれ強みを発揮する。
地域別では、北米が最大の市場を形成している。23年時点で約37億ドル規模、市場シェアの3割以上を占めるとの推計もあり、高度な医療システムが市場を支える。アジア太平洋地域も急成長中で、中国やインド、韓国などで日用品に対する衛生意識が高まり、製造拠点に加えて、消費市場としても急速に拡大している。
市場拡大の一方で、一部の化学物質に対する安全性への懸念など課題も存在する。これに対応するため、キトサンやアロエベラといった植物由来の抗菌加工へのシフトもトレンドになり、環境負荷を抑えつつ効果的な機能を提供する技術開発が、今後の競争力を左右するとみられる。
〈繊技協/特定タンパク質を低減/3社がSEKマーク取得〉
機能性繊維製品の性能を示す「SEKマーク」を認証する繊維評価技術協議会(繊技協)は、今年から新たなマークとして「特定タンパク質低減加工SEKマーク」を設定した。アレルギーの原因物質と考えられている特定タンパク質の働きを繊維上で抑制する加工として注目が高い。小松マテーレ、積水マテリアルソリューションズ、シキボウがマークを取得している(25日現在)。
特定タンパク質低減加工SEKマークは、繊維上の花粉・ダニ由来タンパク質の働きを低減する機能加工の性能を評価するもの。国際標準規格「ISO4333:繊維製品上の花粉やダニ由来タンパク質等の減少度測定方法」に基づき評価・認証する。試験対象タンパク質はスギ花粉由来、コナヒョウダニの排せつ物由来と虫体由来の3種類だ。
特定タンパク質はアレルギーなどの原因物質と考えられているだけに、その働きを抑制する機能を示すマークへの関心は高い。衣料品だけでなく掃除機や空調機、空気清浄機などのフィルター材といった資材用途でも活用が期待されている。
2025年度の認証委員会は11月と26年2月にも開催され、現在も認証作業の最中だ。複数の繊維企業が申請しているとみられ、近日中にも結果が明らかになる。今後もマーク取得企業が増加する。
また、繊技協会員企業から認証試験対象となる特定タンパク質の種類拡大への要望も寄せられた。特にペット由来特定タンパク質への要望が多い。このため繊技協も対象特定タンパク質の拡大を検討し、マークのさらなる普及を目指す。
〈カケン/特定タンパク質低減性など強化/“生き物係”的存在に〉
カケンテストセンター(カケン)の大阪事業所生物ラボは、特定タンパク質低減性や抗菌・抗ウイルス、防ダニなどの試験を請け負う“生き物係”的存在だ。キャパシティーなどで大きな規模を誇り、納期をはじめとする対応力に自信を示す。新たな試験・検査にも積極的な対応を図っている。
生物ラボが力を入れている試験の一つに、特定タンパク質低減性試験がある。2025年4月に「特定タンパク質低減加工SEKマーク」の認証がスタートし、カケンもSEKマーク制度の指定試験機関に登録されている。同2月にマーク用の試験受託を始めている。
花粉やダニ(ふん・死骸)などを由来とした特定タンパク質は抗原として作用する。これらの物質が原因となる花粉症やダニアレルギーにより健康に影響を及ぼすことが報告されている。寝装品やインテリア、衣料関連でも注目する企業が増えてきた。
抗菌試験や抗ウイルス試験も安定した需要がある。特に抗菌試験は新型コロナウイルス禍が落ち着いた今もコンスタントに試験依頼がある。条件にもよるが、顧客の多様な要望に応えられるとし、最近はミクロコッカスなどの依頼も増えていると言う。
抗菌・抗ウイルス試験で強みと言えるのが、試験能力の大きさ。他よりもキャパシティーが大きく、東京事業所のバイオラボや中国の上海でも対応が可能。アパレル企業の商品開発のサイクルが短くなる中、「納期面で顧客を支えられる」とした。
新たな分野にも積極的に進出しており、海洋生分解性の試験についても取り組みを始めている。
〈QTEC/抗ウイルスで国際活動/社会貢献や技術向上〉
日本繊維製品品質技術センター(QTEC)は、抗ウイルス分野に関する国際的な活動に力を入れている。同分野を先導する存在としての社会貢献に加え、QTEC自身の技術レベル向上や職員の経験に結び付けており、「それが消費者の安心・安全につながっていく」と強調する。
今年9月に参加したのが、経済産業省が提案し、採択されたAPECプロジェクト「抗ウイルス製品とその性能評価方法ISO21702に関する能力構築」。抗菌製品技術協議会(SIAA)と協力し、技術に関する講演や試験方法のデモンストレーションを担当した。
プラスチック製品などの抗ウイルス性を評価する「ISO21702」は、QTECが中心になって作った。今回の講演と現場実習についてもQTEC西日本事業所神戸試験センターで実施し、中国とインドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムから11人が参加した。
そのほか、9月には海外の抗ウイルス認証団体からの要請を受けてSIAAと協力して認証や技術に関する講演と試験方法のデモンストレーションを行った。また、今月2~7日に中国で開催されたISO/TC38国際会議総会にも出席。TC38/WG23の議長としてワーキンググループに参加した。
抗ウイルス・抗菌試験は、清潔・衛生への関心の高さもあって一定の需要を保っているが、新型コロナウイルス禍時の勢いはない。そうした環境下で神戸試験センターは技術で存在感を示す。他の検査機関が実施していない試験を増やすだけでなく、「他の検査機関も実施している試験では精度を高める」と強調した。
〈サンワード商会/健康関連などが好調/臭い対策での需要も増える〉
サンワード商会(大阪市中央区)のハイブリッド触媒「ティオ・ティオ プレミアム」は、健康グッズ向けなどの拡大で、販売数量を伸ばしている。足元は臭い対策での注目も高く、吹付施工のほか、ユニフォームなどでも新しい案件を獲得している。
ティオ・ティオ プレミアムは大阪大学産業科学研究所と共同開発したハイブリッド触媒で、抗菌、消臭、抗ウイルス、帯電防止などの機能を持つ。新型コロナウイルス禍での特需の収まりとともに、抗ウイルスでのニーズは一服したが、消臭や抗菌防臭、安全性など多機能性への注目が高まっている。
2025年の販売は、紳士服用などが低調だが、健康グッズ向けが順調に伸びている。ユニフォームも底堅く、学生服用は減っているが介護関連や別注などが伸びている。
猛暑対策での需要も堅調に推移する。電動ファン付ウエアで、臭い防止のための採用が増え、涼感機能を加えたタイプが肌着などで伸びている。
輸送用機器製造大手の日本フルハーフ(神奈川県厚木市)と組んで展開するトラックのコンテナ内への吹付施工も伸びている。肉や魚など臭いが強いものを運ぶ物流業者では、臭い移りで帰り荷が積めない、清掃作業が大変などの悩みがあるが、ティオ・ティオ プレミアムをコンテナ内に使うことで悩みを解消する。吹付施工での効果を実感し、日本フルハーフが工場などで着用するユニフォームをティオ・ティオ プレミアム使いに切り替えるなどの広がりも出ている。
新たにスプレーの展開も始める。建物賃貸の大手と組んでの展開で、住人が入れ替わる際、前の入居者の痕跡を消すために使われる。抗ウイルスでは、農林畜産関連での需要もあり、畜舎に付けるフィルターなどで開発を進めている。





