繊維ニュース

技術の眼/YKKヨーロッパ/小松マテーレ/シキボウ/都立大/セーレン/帝人

2025年12月05日 (金曜日)

 「技術の眼~NEW WAVE GENERATING TECHNOLOGY~」では将来的にニューウェーブを巻き起こし得る重要な技術にスポットを当て、紹介する。

〈YKKヨーロッパ/ファスナーじか付けの新技法〉

 衣料用パーツのYKKヨーロッパは欧州のワークウエア市場に向け、衣料品の身頃に直接ファスナーを付ける新たな技法を提案している。

 一般的なファスナーには縫い代部分になるテープがあるが、これをなくすことで衣料品を従来より軽くできる。テープがないことでファスナー部分にも身頃の生地の風合いや質感を生かせる。この技法で取り付け可能なファスナーを「エアリーストリング」の名称で販売する。身頃にじかにファスナーを取り付けるにはJUKIとYKKが共同開発した専用ミシンが必要で、日本の幾つかのスポーツアパレル工場でも既に導入されている。

 YKKヨーロッパは、欧州でワークウエアの軽量化やカジュアル化、着心地の良さの向上が進む流れの中、ハイエンド商品に対してエアリーストリングの提案を強めている。

 このほどドイツで開かれた、「A+A2025国際労働安全衛生展」では、耐火性のある難燃ファスナー、止水ファスナーに加えエアリーストリングといった独自性の高い商材も提案した。

〈小松マテーレ/濡れても外観変化しない「クアトローニTK」〉

 小松マテーレはこのほど、高透湿防水生地「クアトローニ」シリーズの新タイプとして、水に濡れても外観変化が起きにくい「低膨潤性」を実現した「クアトローニTK」を開発した。

 透湿防水生地は一般的に透湿性を確保するために親水性無孔膜を使うため、水に浸ると膜が膨潤(水膨潤)し、表面に凹凸が生じて外観が変化する現象が起こる。また透湿性を確保するための親水性の維持と水膨潤を抑えることはトレードオフの関係にあるため、両者を両立することは難しいと考えられてきた。

 こうした課題を克服して開発したのがクアトローニTK。膜の原料やラミネート加工プロセスを見直すことで、親水性無孔膜を採用しながら、水膨潤を大幅に抑制することに成功した。水と接触した後でも外観変化がほとんど生じない。また、透湿防水性と洗濯耐久性は従来のクアトローニと同等の性能を確認している。

〈シキボウ/紙おむつ再資源化で実証開始〉

 シキボウは、特殊鋼材販売のサハシ特殊鋼(名古屋市港区)と連携し、使用済み紙おむつを再資源化するマテリアルリサイクル事業に取り組んでいる。このほど刈谷記念病院(愛知県刈谷市)で、使用済み紙おむつを粉砕しながら乾燥する技術と、シキボウの臭気対策剤「デオマジック」の消臭効果を検証する実証実験を開始した。

 この取り組みではサハシ特殊鋼が開発した摩擦乾燥機を活用。使用済みおむつを分別・洗浄せずに投入し、130℃以上の摩擦熱で粉砕と乾燥を同時に行う。得られた残渣(ざんさ)はバイオマス原料として再利用される。

 これまでの噴霧型では高温環境下で効果が低下する場合があったため、今回は綿製品を粉砕したセルロースマイクロファイバーとデオマジックを組み合わせたパウダータイプを開発した。同製品は、香料成分と悪臭成分をペアリングさせて良い香りに変換するメカニズムを持つ。

〈都立大/ポリエステルを“ほぼ100%”再原料化〉

 東京都立大学・大学院理学研究科の野村琴広教授らの研究グループは、ペットボトルやポリエステル繊維をアルコールと混合・加熱するだけで、化学原料(モノマー)に“ほぼ100%”変換できる高性能鉄触媒を開発した。PET廃棄物や衣料廃棄物など実サンプルでも収率99.7~99.9%を確認。安価で入手容易な鉄を用い、従来法より温和な条件で反応する。

 プラスチックごみのケミカルリサイクルは、高温で過剰な酸・塩基や添加剤が必要となり、品質低下や高コストが課題だった。今回の鉄触媒は、ポリエステルとアルコールを混ぜるだけでテレフタル酸ジメチル(DMT)やエチレングリコールを高純度で回収でき、後処理も単純。衣料リサイクルで難題となる混合繊維の処理にも成果を示し、ポリエステルのみを選択的に分解しつつ、綿繊維などをそのまま回収することに成功した。工場スケールでの試験でも触媒性能の低下は見られず、産業利用への実装が期待される。

〈セーレン/PU不使用でも高伸縮〉

 セーレンは27春夏スポーツ素材で、ポリウレタン(PU)不使用の新たな高伸縮丸編み生地「モーションムーブ」を投入する。従来のストレッチ素材の課題であった重さ、コストを解消し、快適性と安定性を高い次元で両立させた。

 同社は8方向への伸縮性を持つ生地「フレックスムーブ」を展開しているが、PUの混率が高いことから素材が重くなり、コスト面で課題を抱えていた。

 モーションムーブは、これら課題を解決するために開発した。最大の特徴は、特殊加工を施したポリエステル糸によって、ポリウレタンを使わずに優れたストレッチ性を実現した点にある。これにより、従来のPU混素材と比較して大幅な軽量化を達成。縦・横・斜めの8方向へ自在に伸びるだけでなく、伸びた後にしっかりと元に戻る高いキックバック性(回復性)も兼ね備えている。開発に当たり、担当者自らがゴルフなどのシーンでひと夏を通して着用テストを実施。洗濯を繰り返しても寸法が安定しており、その高い快適性と実用性を実証した。

〈帝人/新炭素繊維基材を開発〉

 帝人は、高機能繊維の編組技術を持つ米A&P Technology(A&P)と共同で、新たな炭素繊維基材「IMS65 PAEK Bimax」を開発した。高い物性と柔軟性を兼ね備えているため、さまざまな展開が可能としている。

 新製品は、帝人の炭素繊維強化熱可塑性プラスチックのうち、一方向性の炭素繊維プリプレグを用いて、A&Pが組みひも構造に加工した後にシート状にする。一般的に、テープ状の炭素繊維プリプレグをシート化すると素材本来の強度や弾性が低下する傾向にあるが、新製品は高い物性を維持する。

 組みひも構造のシートは多方向への柔軟性があるため、さまざまな方向に曲がっている複雑な立体形状にも対応できる。また、空気の抜けが良いという特徴を持ち、成形工程では、VBO成形法を用いることが可能なため、製造時間の短縮が実現できる。