特集 環境ビジネス(1)/企業力・素材力で世界をリード/多様な角度で取り組み
2025年12月16日 (火曜日)
環境・サステイナビリティーを意識する繊維関連企業の姿が目立っている。繊維が環境負荷の大きい産業と言われる中、各社はさまざまな角度から取り組みを深め、新たな製品やサービスを生み出している。環境対応・サステ対応は欠くことができない要素になっており、企業・組織の力、素材の力で世界をリードする。
繊維製品は多くの環境負荷をもたらすと指摘される。原材料調達から製造、利用、廃棄の過程で多くの温室効果ガス(GHG)を排出し、化学物質の使用や水資源の消費、合成繊維を由来とするマイクロプラスチック(ファイバーフラグメント)の海洋流出といった問題があるからだ。
環境省も国内に供給される衣類の製造に関するネガティブインパクトを示している。例えば、国内に供給される衣類(原材料調達から廃棄まで)から排出される二酸化炭素(CO2)は9500万㌧と推計され、世界のファッション産業から排出される量の4・5%に相当する。
水消費における問題も大きい。国内に供給されている衣類の生産に必要な水の量は、83億8千万立方㍍に達すると推計されている。これは世界のファッション産業で消費される水の9・0%に当たる。水消費全体のうち、原材料調達段階での使用量が全体の91・6%を占めている。
これらを背景に、環境省は大量生産・大量消費・大量廃棄から脱却し、循環経済を実現することが不可欠とする。環境省と経済産業省が設置した「繊維製品における資源循環システム検討会」(2023年1~9月)で課題と方向性が取りまとめられた。
同検討会の結果を踏まえ、「繊維製品における資源循環ロードマップ」が示された。30年度をターゲットとし、「家庭から廃棄される衣類の量を20年度比で25%削減」することが目標として掲げられた。使用済み衣類回収システム構築に関するモデル実証事業などが行われている。
生活者へのアンケートでは、衣服は「可燃ごみ・不燃ごみとして廃棄」される割合が高く、資源としての回収への協力や自主的なリユースの取り組みの実施の割合は低い。衣類を大切に使用し、排出する場合には「資源である」という認識から適切な排出方法を選択することが求められる。
〈新たな取り組み始まる〉
こうした状況の中で新たな取り組み、素材も登場している。その一つが、帝人フロンティア、地球環境産業技術研究機構(RITE)、クラボウ、東レ、日清紡テキスタイル、ニッケの6者で設立したコンソーシアム「CFT2」だ。繊維to繊維の技術開発、評価手法などの検討を進め、循環型社会の実現を目指す。
6者は、これまで再資源化が困難だった未利用資源である複合繊維素材の廃棄利用品を用いて、酵素による選択的分離や微生物を用いた繊維原料への再資源化の技術開発を進める。これまで培ってきたメカニカルリサイクルやケミカルリサイクル技術を活用、天然繊維と合繊の両方に対応した衣料品の循環システムの構築を目指す。
繊維素材に目を移しても新たな素材を見ることができる。健康食品を製造・販売するファーマフーズ(京都市)が卵殻膜繊維「オボヴェール」の本格展開に乗り出している。卵の内側にある薄い膜(卵殻膜)を加水分解し、レーヨンに10%配合した繊維で、滑らかな風合いや吸放湿などの特徴を持つ。
〈RITE/バイオ研究など推進/果たす役割は大きく〉
廃棄衣料品を繊維として再利用する「繊維to繊維」の資源循環を目指して立ち上がったコンソーシアム「CFT2」。帝人フロンティア、クラボウ、東レ、日清紡テキスタイル、ニッケのほか、地球環境産業技術研究機構(RITE)が参画する。同機構は一般には知られていないが、果たす役割は大きい。
1990年に米国で開催されたヒューストンサミットで日本は「地球再生計画」を提唱した。産業革命以降、さまざまな負荷を与えて変化させた地球環境を、100年かけて再生することを目指す構想。具体化のための活動が「革新的な環境技術の開発」と「二酸化炭素吸収源の拡大」で、この二つを国際的に推進する中枢機関がRITEだ。
90年7月に設立され、35年の歴史を数える。2025年10月1日時点で195人の職員が在籍し、今年度の年間予算は約64億円。東京大学の山地憲治名誉教授が理事長を務める。研究は、システム研究グループ、バイオ研究グループ、化学研究グループ、CO2貯留研究グループの四つに分かれる。
システム研究グループは、地球温暖化への対応方策や政策の方向付けなどに関するシステム的研究などを行う。化学研究グループは、CO2分離回収・有効利用技術の研究開発・社会実装を推進。CO2貯留研究グループは、CO2地中貯留技術の実用化に取り組んでいる。
バイオ研究グループは、微生物の能力を活用して各種の燃料や化学品を作る技術の開発を推進。非可食バイオマスから糖を取り出し、コリネ型細菌に栄養源として取り入れさせ、有用化学品への変換を図る。細菌の遺伝子を組み替えることでバイオ燃料やアミノ酸などが作れる。
この技術は、複合繊維素材の分離にも有用で、CFT2でも廃棄衣料品の再資源化のための産業用酵素・微生物開発プラットフォームの構築、繊維バイオリサイクル技術の確立・高度化を担当する。そのほかRITEでは、大気中のCO2を原料とする次世代バイオモノ作りにも取り組んでいる。





