特集 環境ビジネス(2)/東レ/素材力で農業の課題解決へ/害獣侵入防止などで実績も
2025年12月16日 (火曜日)
東レは、農業分野への素材・製品供給を強化している。独自の技術を駆使した開発と提案によって農業分野が抱えている課題の解決に貢献する。農業関連資材の販売はこれから成長を図っていくが、害獣の侵入を防ぐネットや遮熱シートで実績も出てきた。新製品開発にも力を入れている。
第1次産業向けの製品として水産業分野に漁網などを展開している同社だが、農業分野向けの製品の拡大はまだこれから。農業には、動物や鳥類の侵入による被害、高温障害といった課題があり、素材力や技術力によってそれらの課題・問題の解決に寄与する。
需要が多いとするのは、害獣や害鳥の侵入を防ぐネット。各種ネットを販売するナカダ産業(静岡県島田市)と連携して製品を展開(販売はナカダ産業)しているが、スーパー繊維や熱融着技術の活用によって性能を高めている。リサイクルやリユースなどのサステイナブル対応にも力を入れていく。
害獣対策のネットにはさまざまな要望があり、高い性能が求められる用途については「養殖網などで培った技術やノウハウの応用を考えないといけない」との認識を示している。人命に関わるケースもあり、簡単ではないとしつつ、「多様な商品の開発の検討はしていきたい」とした。
製品の認知向上にも取り組んでおり、国内で開かれている関連展示会にも出展している。
〈獣害保護策/中型動物や鹿の侵入防止/熱硬化性ポリエステル使用〉
イノシシ、鹿、猿などの野生動物が農作物や農業施設に与える被害が全国各地で問題になっている。農作物が食べられたり、ビニールハウスが破損されたり、直接的・間接的な被害が発生している。その対策として東レが提案しているのが、害獣の侵入を防止するシステムだ。
ナカダ産業と開発した「NAKADA かたまったくん」は、中型動物侵入防止システム。野生生物研究所「ネイチャーステーション」の代表が考案した「楽落くん」を改良した製品で、動物の習性を利用する。NAKADA かたまったくんを壁と認識した中型動物が探査行動を行い、感電して逃げるという仕組み。
ネット部分に東レの熱硬化性ポリエステル「シュメルツェン」を使用している。熱によって硬化するためネットが自立するほか、軽さや耐久性といった特徴を持つ。耐摩耗性にも優れており、タヌキなどのかむ習性が強い動物にも対応する。
NAKADA かたまったくんよりも太く強い網設計によるネット「NAKADA 鹿たまったくん」は、鹿の侵入を防止する。従来のステンレス線入りの防獣ネットと比べて耐摩耗性が向上し、かみ切りによる破網を防ぐ。通常の非硬化繊維よりも耐候性に優れている。
〈「クロウシラズ」/独自素材使い高機能化/二つの効果で視認性減〉
カラス侵入対策では、テグスやワイヤーを用いた方法が浸透している。そこに新しい提案を行うのが、カラス侵入防止対策線「クロウシラズ」だ。弾性ポールを用いてカラスの視界から消えるつや消し黒色の軽量防護線を水田や農地の天井部に張ることでカラスの侵入を防ぐ。
この対策線に使用しているのが、高強力の液晶ポリエステル繊維である「シベラス」。直径0・5㍉という極細化を図っているほか、特殊な凹凸を持ったナイロンコーティングによって光を乱反射させてつや消しを実現した。この二つの効果によって視認性を大幅に減少している。
シベラスの高耐振動性によって風の影響による屈曲疲労にも強い。強度を担保する芯糸をコーティングしているため、紫外線をはじめとする環境要因による劣化も抑制する。液晶ポリエステルとナイロンを組み合わせているので、軽量で設置しやすいのも特徴になっている。
また、従来技術と比べて垂れにくく中間支えの距離が伸ばせる。省力化につながり、経済的としている。
〈「クールネクスト」/独自開発の農業用遮熱シート/赤外光遮蔽し可視光透過〉
東レが独自に開発した製品も市場に投入している。その一つが農業用遮熱シート「クールネクスト」で、2025年に販売を開始した。ビニールハウスに被覆すると赤外線を遮断してハウス内の温度上昇を抑える。一方で、光合成に必要な可視光は透過する。
近年の温暖化によって、夏季はビニールハウス内が高温になり、農作物の品質低下や収穫量の減少などの問題が起こっている。クールネクストは、こうした問題を受けて開発した。農作物の高温に対するリスクの軽減に加え、ハウス内作業従事者の熱中症リスクの回避・軽減などの労働環境の改善も期待される。
可視光の透過性が高く、赤外光を吸収・反射する遮蔽(しゃへい)性に優れた機能材を見いだし、それを添加したフラットヤーン(フィルムを短冊状に裁断した糸)を開発した。製品重量や取り扱い性を考慮した織物も設計し、高採光性と高遮熱性の両立を実現している。
実証試験では、可視光透過率約60%以上を維持しつつ、ハウス内温度の上昇を抑えることに成功した。同社によると、無被膜ハウスと比べて最大で7・5℃低くなり、従来の被膜ハウスとの比較でも3・4℃低くなった。
〈畜産用消臭シート/トドマツ抽出成分応用/エステーと連携し開発〉
東レは、農業関連資材の新製品開発にも積極的に取り組んでいる。現在、日用雑貨を製造・販売するエステーとの連携で畜産用アンモニア臭分解シートの商品化を進めている段階にある。エステーの「クリアフォレスト」を応用し、従来品と比べて高い消臭効果を付与する。早い段階での販売開始を目指す。
クリアフォレストは、北海道のトドマツから抽出した「機能性樹木抽出成分」で、抗酸化機能や消臭、森林浴などの効果があるとされる。同成分には天然森林オイルなどがあるが、今回は天然針葉粉体を活用している。森に放置されている未使用の枝葉を有効利用しているため、自然にも家畜にも優しい。
畜産の現場で問題となっているアンモニア臭を分解し、従来品と比べると約2倍の効果を発揮するという。使用する環境によって異なるものの、トリメチルアミン、低級脂肪酸、メチルメルカプタンにも効果があるとしている。
目付は260㌘で、従来品と比較して約40%の軽量化にも成功している。これによって設置作業の簡素化や作業効率の向上にもつながる。





