特集 環境ビジネス(6)/各社が創る環境・サステの今/レンチング/伊藤忠商事

2025年12月16日 (火曜日)

〈幅広い観点で高評価得る/産業持続にも取り組む/レンチング〉

 レンチングは、木材由来素材のサプライチェーンを環境保護の観点から格付けする「ホットボタンレポート」の2025年版で、最高評価を得た。

 同レポートはカナダの森林保護非営利団体である「キャノピー」が16年から発行しており、多くの大手ファッションアパレルが素材調達の指標としている。

 25年版は40点満点のうち34・5点を獲得しており、古代の森、絶滅危惧種がいない森から原料となる木材を調達していることなど、レンチングの森林保全への取り組みやフェアな取引、透明性の高いトレーサビリティーなどが高く評価された。

 同社は世界各国で資源保護や繊維産業の持続可能性につながる活動を進めており、オーストリア、アルバニア、ブルンジ、ブラジル、中国、コンゴ民主共和国、タンザニアでの生物多様性保護に向けた積極的な取り組みも高評価につながった。

 日本国内では和歌山ニット産地との連携を深めている。

 同産地の編み地メーカーや染工場で構成される「和歌山ニットプロジェクト」と連携し、再生セルロース繊維「テンセル」を使った編み地の共同開発を進めている。

 この連携によってテンセルの国内産地での需要拡大につなげる。この連携と開発された生地は、オーストリアのレンチング本社から高く評価されている。生地のサンプル帳が作られ、「プルミエール・ヴィジョン」などの生地見本市で披露されている。

 和歌山産地との連携は日本国内の繊維産業の持続可能性につながることから、今後も継続、世界に向けて発信する。

〈混紡品の再資源化が成長/海外にも広がる循環の輪/伊藤忠商事〉

 伊藤忠商事が推進する、廃棄衣料を使用済みプラスチックと共に再資源化する「アルケミアプロジェクト」は今年、大きな進展を見せた。企業からの需要は旺盛で、行政からの引き合いも増えている。そうした中、大阪・関西万博で使用されたユニフォームの循環を手掛け、社会的認知度を高めた。欧州企業からの受注も生まれ、同社が描く循環の輪が海外にも広がり始めた。

 樹脂加工・機能性化学大手のレゾナック(東京都港区)との協業で進める同プロジェクトは、同社のガス化処理技術を活用して廃棄物を低炭素アンモニアなどの化学製品に再生させる。従来のケミカルリサイクルでは困難だった混紡品の再資源化が実現した。

 伊藤忠の繊維カンパニーは、回収業者を通じて集めた廃棄衣料から固形燃料RPAFを生み出し、レゾナック川崎事業所(川崎市)のプラスチックケミカルリサイクルプラントに供給する。RPAFを使って作られたアンモニアからは、肥料やアクリル繊維原料などができる。精製工程で発生した二酸化炭素(CO2)を回収し、ドライアイスや液化炭酸に再生させることも可能だ。

 国内では住宅、金融機関、物流、空港関係から回収した使用済みユニフォームの再生で実績を積み重ね、競輪選手のユニフォームまで手掛けた。

 オランダのユニフォームアパレルから受注した案件では、難燃アクリルを取り扱う。事業の範囲が海外に広がっただけでなく、難燃アクリルの再生のノウハウを生かし、防災品に向けた提案へとつながる道筋をつけた。

〈タイ工場で不織布用わた/2026年に量産を開始〉

 レンチング(オーストリア)は、タイ・プラーチーンブリー県にある精製セルロース繊維「テンセル」リヨセル工場で、不織布用わたの生産を開始する。従来は紡績用わたの生産を主力としていたが、1ラインを2系列化する。2026年中の量産開始を目指し、取り組みを進めている。

 タイの工場は、同県の工業団地に約4億ユーロを投資して建設された。19年に工事が始まり、新型コロナウイルス感染症が発生するなどの想定外の事態もあったが、22年3月に計画通りに立ち上がった。年間の生産キャパシティーは約10万㌧を誇っている。

 現在は、オーストリア工場の不織布用わた生産のノウハウと技術を移管している段階にあると言う。実機は26年1~3月に稼働を開始する予定で、同じ品質のわたができるかどうかの検証を進める。同年4~6月にはユーザー評価へと移り、同年中に量産に入る計画を立てている。

 通常の不織布用わたをタイで製造し、オーストリアでの差別化わたの開発・生産とすみ分ける。日本などのユーザーの近くで生産することのメリットは多く、例えば、地政学リスクの問題で2カ月半から3カ月かかっている納期が、1カ月弱程度にまで短くなる。輸送に伴う二酸化炭素排出量も削減できる。

 再生セルロース繊維は、世界的に需要の高まりが期待されるが、競争激化という側面もある。同社は「プレミアム」「サステイナブル」「技術」の三つを軸に勝ち残りを図る方針を打ち出している。