孤高の道程~中国市場を開く日系ブランド② /ゴールドウイン 後編

2025年12月17日 (水曜日)

“本物”を消費者に提供

 中国市場の攻略の鍵は、広大な国土の地域差を理解することにある。齊藤董事長は「北と南では全く異なる国のようなアプローチが必要」と語る。前述の瀋陽や北京など北部は、冬の寒さが厳しいため、高機能なダウンやコートが売れる。一方で南の深圳などは温暖で、冬物需要は限られる。

 地域ごとのニーズに応えるため、今年から中国独自の企画商品の投入も始まった。例えば、瀋陽のような極寒地で不可欠な、お尻まで隠れるロングダウンコートや、一枚で暖かい厚手のパンツなどは、日本のラインアップでは不十分だ。

 これらを日本本社のデザインチームが企画し、生産は中国の協力工場で行うというスキームを構築したことで、現地のニーズに即した商品をタイムリーに供給可能となった。今後は帝人フロンティアなどの現地素材メーカーとも連携し、素材の現地調達比率も高める方針。これにより、リードタイムの短縮とコスト競争力の強化を図る。

 マーケティングにおいても、マス広告に頼らない独自の手法をとる。重視するのは、ブランドの哲学を深く理解してくれるファンのコミュニティー作りだ。その象徴的な取り組みとして、来年3月には上海でプロモーションイベントの開催を計画している。「アートと音楽、そしてプロダクトが融合した唯一無二の空間を創出したい」。こうした「場」の体験を通じて、感度の高い層にブランドの真価を伝えていく狙いだ。

 今後の展望について、齊藤氏は「2026年には15店舗体制を目指す」とする。既存エリアの増店に加え、武漢、長沙、鄭州、広州といった「新一級都市」への進出を計画しており、広州では今月、期間限定店によるテストマーケティングを始めた。中国全土から富裕層が集まる海南島での展開も検討している。

 現在の課題は、人気商品の欠品による機会損失だ。在庫を持たない高効率経営を目指しているがゆえの悩みだが、今後は需要予測の精度を上げ、期中の追加生産スキームを確立することが急務となる。

 地場アウトドアブランドも力を付けているが、ハイエンド市場においてはブランドの歴史や物語が依然として重要視される。「ゴールドウインにはスキーを起源とする確固たる歴史がある。中国の消費者は今、そうしたブランドの『魂』や『パーパス』(存在意義)を求めている」と齊藤氏は力を込める。

 「アークテリクス」が減速し、「カイラス」が台頭するなど、市場は過渡期にある。消費者は次の新しい“本物”を探しており、歴史と技術に裏打ちされた同ブランドにとってチャンスと言える。

 中国市場の規模と成長性、そして現在の立ち位置を考えれば、「2033年3月期までに売上高300億円」は現実的な目標だ。「焦らず、しかしスピード感を持って」――。プレミアムスポーツブランドとしての地位の確立に向けた挑戦が続く。

(上海支局)