特集 北陸産地(1)/環境変化に素早く対応/産地を取り巻く環境が変化/新しい取り組みがカギに
2025年12月23日 (火曜日)
北陸産地の2025年は昨年後半からの景況悪化が続き、全体では明るい話題に欠ける年となった。需要面ではスポーツ・アウトドアや自動車、ユニフォームなど堅調な用途がある一方、国内のファッションやインテリアなど低調な用途もあり、月を追うごとに先の不透明感が増した。合繊メーカーの繊維事業再編など産地を取り巻く事業環境が大きく変わった年でもあり、来年に向けては環境の変化への素早い対応などがキーワードになりそうだ。
昨年は元日に能登半島地震があり、需要面でも欧州アウトドア・ユニフォームでの在庫調整や中国市場の不振、自動車メーカーの不正問題などがあり、産地のスペースのタイト感が緩みだした年だった。今年はアウトドアなどが順調に推移し、ユニフォームや自動車なども回復したが、インテリアは低調が続きファッション用途も低迷。全体としてまだら模様で勢いに欠ける形となった。
インテリアはコロナ特需からの回復が見られない中で海外生産シフトの影響も見られる。ファッション用途は、売り残しを避けるための期近発注や小ロット化が進む中で作り方が変わってきたことや、長い猛暑と春・秋期間の短縮による気候変動、染色加工のスペースがタイトな中での海外シフトの検討など事業環境が変わってきたことを指摘する声もある。需要の勢いを欠く中で織り・編みや撚糸のスペースが空く一方、染色加工はタイトなど構造的な課題も出てきている。
〈生産量は若干の回復〉
北陸3県の織物生産量は新型コロナウイルス禍の影響を受けた後に、22年、23年と回復したが、24年は再び減少に転じていた。25年の1~9月は若干の回復が見られ、石川県が1億9172万平方メートルで前年同期比4・4%増、福井県が1億1488万平方メートルで同0・4%減となっている。一部では廃業もあって産地のスペース縮小は進んだものの、アウトドアなど好調な用途もあった。
石川県はポリエステルが6・2%減と落ち込む一方、ナイロンが30%増と大きく拡大。産地での増設もあったほか、24年の前半は能登半島地震の影響があったことも背景とみられる。一方、福井県はポリエステルが前年比1・5%増と回復したものの、その他の素材での落ち込みが響き、全体では微減となった。ナイロンが5・8%減となり、アセテート系の市況低迷もあった。
10~12月は両県ともまだ統計が発表されていないが、産地の景況は厳しい状況が続いている。スポーツ・アウトドアなどは順調が続き、カーシートなど自動車用途も車種によるが堅調に推移している。一方、国内のファッションやインテリアは低迷が続き、ユニフォームも一部で失速が見られる。海外では中国市場の低迷が続き、好調が続いていた中東民族衣装用も減速感を指摘する声が出ている。
来年の市場環境については、インテリアやユニフォームなどの落ち込みを予想する声のほか、好調だったスポーツ、アウトドアや中東向けなどの減速を懸念する声も増えている。国内のファッション用途や中国市場なども当面は低迷が続くとみる声が多く、高付加価値化や新商品・新用途の開発など新しい取り組みが重要性を増している。
〈素材メーカーの再編進む〉
25年は北陸産地と関係が深い素材メーカーの再編がさらに進んだ。昨年に発表された三菱ケミカルのGSIクレオスへのトリアセテート繊維「ソアロン」事業売却は今春に完了。ソアロン社として新たなスタートを切り、三菱ケミカルは繊維事業から撤退した。昨年末に発表されたユニチカの繊維事業撤退も、セーレンやシキボウなどへの事業譲渡で決着し、新しい形への移管が進められている。
今年はさらに、クラレトレーディングがクラレ西条でのポリエステル長繊維生産を停止し、グループ外での委託生産や調達に切り替えることを決めた。12月には帝人フロンティアと旭化成アドバンスの合併が発表され、産地を取り巻く事業環境が大きく変わっていくことを実感させた。
素材メーカーの繊維事業の再構築が進む中で、産地企業も事業環境の変化に合わせた取り組みが求められている。26年は引き続き廃業によるスペース縮小が進む懸念はあるが、新しい産地の姿に向けての取り組みも加速するとみられる。
産地全体で、将来を見据えた生産体制の整備は強化されている感があり、企業によっては将来に備えた設備更新や新しい商品・用途開発に向けた投資も進みだしている。
個社での取り組みとともに、産地での水平・垂直連携の機運も高まっており、デジタル技術を活用した連携による効率化や産地の競争力向上、企業間連携による開発や受注対応などさまざまな面で連携が進んでいくとみられる。
ある企業は、「この数年で今までにない変化が起こっている。何が起きてもおかしくないと考え、スピード感を持って対応していくことが重要」と話し、来年は環境の変化に合わせた素早い対応がさらに重要になると指摘。別の企業は「自ら動くところでないと生き残れない」とし、自販の強化や新しい柱の構築を急ぐ考えを示す。
「今は変化している最中」との見方も多く、26年の取り組み方が重要視されている。





