2025年回顧/紡績/合繊メーカー/生地商社/商社
2025年12月24日 (水曜日)
〈紡績/相次ぐ工場閉鎖/不採算事業の撤退/非繊維が業績支える〉
綿紡績大手の2025年は、繊維事業の構造改革が一段と加速した。上半期は半導体関連など非繊維事業が好調を維持した一方、本業の繊維事業は苦戦が目立った。各社は“稼ぐ力”の回復に向け、国内工場の閉鎖や不採算事業の撤退など、体制の最適化を急ぎ、下半期の巻き返しを図っている。
国内工場の閉鎖が相次いだ。クラボウは安城工場(愛知県安城市)を閉鎖し、生産の海外移管を進めている。国内拠点は開発機能を強化し、独自技術で高付加価値糸を生み出す体制を整えた。大和紡績は3月にダイワボウスピンテック(松江市)の生産を停止し、国内紡績から撤退。IPO(新規株式公開)の実現に向けて、柱とする合繊、産業資材、製品テキスタイルの3事業の強みを磨き上げる。
富士紡ホールディングス(HD)は小坂井工場(愛知県豊川市)の繊維生産を年内に停止し、好調な研磨材事業へ人員を再配置する。日清紡HDも綿スパンレース不織布「オイコス」の生産を年内に終了。繊維リサイクル技術の確立など、新たな価値の創造に注力する。
日東紡の上半期(4~9月)は、繊維を含む資材・ケミカル事業は減収となったものの、電子材料事業が好調に推移。非繊維事業が業績を支える動きが一層鮮明になった。
撤退や集約が加速する中、上半期(4~9月)に営業黒字を確保したシキボウは、ユニチカトレーディング(UTC)の衣料繊維事業を譲受する。「成長への変革の一丁目一番地」と位置付け、来年1月の新体制始動へ向け準備を進めている。規模拡大にかじを切った同社の動向に大きな注目が集まる。
〈合繊メーカー/繊維事業の再編続く/企業系列超えた統合も/サプライチェーン延伸〉
2025年も合繊業界は変革の波が続いた。ここ数年の流れである繊維事業の再編が今年も継続し、業界地図が大きく書き換えられようとしている。
24年末に繊維事業からの撤退を発表したユニチカによる事業譲渡が具体化した。ポリエステル繊維・スパンボンド不織布事業などはセーレン、衣料繊維事業はシキボウ、スパンレース事業は瑞光(大阪府茨木市)への売却が進められている。
そのほかにも事業の再編が進む。クラレは生産子会社のクラレ西条(愛媛県西条市)でのポリエステル長繊維生産を26年12月までに停止すると発表。東洋紡はアクリル繊維事業子会社である日本エクスラン工業(岡山市)で汎用(はんよう)アクリル短繊維生産から撤退する方向を明らかにした。
現在、日本の株式公開企業は資本市場から資本効率を問われていることに加え、合繊業界は設備の修繕・更新や新規投資を継続する必要性に迫られている。それが可能な利益率を確保できない商品や用途は撤退せざるを得ない。
さらに帝人フロンティアと旭化成アドバンスは26年10月に経営統合すると発表し、業界に衝撃が走った。企業の系列を越えた再編によって収益性の強化を目指す動きも顕在化したといえよう。
一方、サプライチェーンの延伸も続く。東レはスリランカの企業と合弁でインドに縫製子会社、トーレ・MAS・アパレル・インディア(TOMA)を設立した。グローバルオペレーションは中国や東南アジアだけでなくインドにまで広がり、さらにアフリカも視野に入れる段階に突入している。
〈商社/ワールド傘下のエムシーファッション始動/伊藤忠、完全子会社化したデサントが利益貢献/大阪・関西万博を支えた多彩な商社機能〉
ワールドは2024年11月、三菱商事ファッション(MCF)を完全子会社化すると発表した。ファッション事業の総合化へ向け、商社機能を加えるためだった。
25年2月、MCFはエムシーファッションに社名変更し、ワールドのグループ企業として再スタートを切った。同社の幸晋也社長は「PMI(統合プロセス)は順調に進んでいる。ワールドグループの多角的な視点や機能を得たメリットは大きい」と強調する。
伊藤忠商事は24年、完全子会社のBSインベストメント(東京都港区)を通じ、デサントにTOB(株式公開買い付け)を実施して完全子会社化した。
その後のPMIは着実に進展し、伊藤忠繊維カンパニーの25年4~9期決算でも、デサントの利益貢献が伝えられた。同カンパニーは26年3月期の純利益の見通しを、期初計画の380億円から400億円に上方修正した。
7月には、建て替えを行った水沢工場(岩手県奥州市)の稼働が開始し、高付加価値な商品の開発が進んでいる。
4~10月に開催された大阪・関西万博では、各商社がさまざまな形で運営を支えた。
会場案内スタッフのユニフォームのデザインは、豊田通商グループの豊通ユニファッション(名古屋市南区)のデザイナーが手掛けた。
伊藤忠商事は、公式キャラクター「ミャクミャク」の商品展開に携わった。また、廃棄衣料を使用済みプラスチックと共に再資源化する「アルケミアプロジェクト」の手法を活用し、一部使用済みユニフォームの循環を担った。
〈生地商社/国内向け総じて低迷/輸出も一部除き停滞/生産への関心高まる〉
生地商社にとっての2025年は、SDGs(持続可能な開発目標)も背景に“売り切りご免”へとかじを切るアパレルからの生地発注総量がさらに減った一年だった。例外を除き、直近業績で国内向け生地販売を伸ばしたケースがほとんど見られなかったのはこの現象の影響だ。
少子高齢化も相まってこの傾向は今後も続くと確実視されている。それに伴い、改めて高まっているのが、輸出や内販、第三国向けといった外需の獲得だ。
ただ、トランプ政権による相互関税問題や、欧州、中国など巨大市場の景況悪化などにより、思うように伸ばせない生地商社が相次いだ。為替も追い風に一気に拡大という思惑を各社が抱いていたが、関税と景況悪化のタイミングが重なった。
しかし一部では、北米向けの伸長によって前期比17%増収(2025年12月期)を見込むデビス(大阪市中央区)のような例もあった。
輸出拡大を阻む要素には、認証問題も大きい。欧米ブランドは環境配慮などを担保する国際認証の取得を日本の生地にも求めている。しかし分業で成り立つ日本の繊維産業にはそのハードルが高い。この改善に向け、産地企業や染工場と協力し、取得を急ぐ生地商社も現れ始めた。
「国産のサプライチェーンを守る」という意識もさらに高まった。国内服地最大手のスタイレム瀧定大阪(大阪市浪速区)が二つの工場を産地企業と合弁で設立したことは、その象徴と言える。





