新春アンケート(4)/2026年は跳ねるか?どうなる繊維産業
2026年01月06日 (火曜日)
〈人手不足が懸念される業種は?/縫製・染色に集中〉
繊維業界では、サプライチェーンの要となる「縫製」と「染色整理」で人手不足が深刻化している。設問12の「特に人手不足が懸念される業種」(複数回答)では、「縫製」が81社で最多、「染色整理」が72社で続いた。川中(製造・加工)段階のボトルネックが、国産品の供給体制を揺るがしている。
背景には高齢化と技能継承の断絶がある。「入庫量不足によるコストアップと納期遅れにより、国内生産の縮小」(シキボウの尾崎友寿上席執行役員)が進み、「技術継承ができなくなる」(しまむらの高橋維一郎社長)と、危機感は強い。
特に品質を左右する「染色整理」の現場では危機感が切実だ。「若い年代から魅力ある産業とは見られていない。染色整理加工業は『夏は暑く、冬は寒い』。今のままでは技術の継承ができない」(サンコロナ小田)と、労働環境の厳しさが採用難に直結している実態を明かす。
川中の弱体化は製品供給全体に波及する。「熟練技能や伝統技術が必要とされる『染色・仕上げ』分野において、品質の維持、生産スピードの維持が難しくなっている」(学生服メーカー)とし、「品質、納期やコストに影響」(アパレルメーカー)を懸念する声が上がる。「キャパシティー不足のためのリードタイムの長期化により、海外移管が増えて、日本の繊維産業が空洞化するリスクが高くなる」(帝人フロンティア)との指摘もある。
人手不足は川下の小売りにも及ぶ。「販売人員の不足による機会損失が起こると考えている」(紳士服メーカー)、「店舗販売員などは柔軟な働き方がしにくい」(インナーメーカー)と、人材確保の難しさが浮き彫りだ。
「サプライチェーンの弱体化と競争力低下が懸念される」(東レの沓澤徹専務執行役員)との総括が示す通り、人手不足は単なる労働問題にとどまらず、日本の繊維産業の持続性を左右する構造的な課題となっている。
〈自社の人手不足をどう解消する?/賃上げ・DXで人材確保へ総力戦〉
設問13の「自社の人手不足と、その対応策」では、「人手不足を感じているか」との問いに69%が「はい」と回答し、「いいえ」(31%)を大きく上回った。約7割の企業が人材不足に直面している実態が浮かび上がった。
不足が目立つ職種は、企業収益を支える「営業職」や、モノ作りを担う「技術・製造職」だ。店頭の「販売職」に加え、デジタル化の進展に伴い「DX・IT人材」の不足も深刻化している。
設問14の「人材確保策」としては、「賃上げ」や「人事制度改革」に踏み切る動きが広がる。オンワードホールディングスは24年3月に人事制度を改定。「ファッションスタイリストの平均年収を引き上げたほか、25年卒採用より初任給を引き上げた」(保元社長)と、待遇改善で人材の定着を図る。
採用手法の多様化も進む。「新卒採用の増員、中途採用の増加、リファラル採用の活用。DXによる省力化。BI(ビジネスインテリジェンス)ツール活用によるデータ分析効率向上。物流配送の効率化、スキマバイトによる業務への流動的対応」(クロスプラスの山本大寛社長)、「退職者・離職者向けの『カムバック採用制度』およびキャリア採用を導入している」(クラボウの中川眞豪取締役)など、既存人材を生かす動きも広がっている。
人手に頼らない体制づくりとしてDX・省人化への投資も加速する。「AIを用いた自動採寸プラットフォームの開発」(学生服メーカー)のほか、「店舗のDX強化(自動釣銭機、清掃ロボット導入など)」(しまむらの高橋維一郎社長)と、現場の少人数運営を進める例も出てきた。
ただし限界もある。「賃金のベースアップは最低賃金のアップに迫られて行っているので、特別な対策としては講じることができていない」(菅公学生服の黒田健介専務)と、コスト負担増に苦慮する声も聞かれた。
「優秀な人材確保・育成を重点施策に掲げ、グローバルな商事活動を自律的に推進する基幹人材の確保と育成を強化中」(東レインターナショナルの片岡智彦社長)との指摘にあるように、人手不足は単なる人数の問題にとどまらず、企業成長を左右する人材の「質」を巡る競争へと移行している。
〈サプライチェ―ンの持続可能性は?/分業がゆえに約8割が危機感〉
設問15の「サプライチェーンの持続可能性」では、約8割の企業が危機感を抱いていることが分かった。「非常に感じる」が37%、「ある程度感じる」が42%で、合計79%に達した。
最も多く挙がったのは、国内の染色加工や縫製工場の減少と、それに伴う技術継承の断絶だ。「原糸、織り、染色など加工工程に従事していた熟練技術者の高齢化・後継者不足が深刻。根本的な人手不足による納期遅延・品質低下が顕在化する」(学生服メーカー)との懸念が示された。
分業体制が確立している繊維業界では、一工程の欠落が全体の停滞につながる。「老齢化が進み後継者がいない業種は年々廃業を余儀なくされている」(サンコロナ小田)と、供給網の寸断を危ぶむ声が相次ぐ。
海外調達では、中国依存や物流リスクへの警戒が強い。「チャイナリスクはサプライチェーンに影響を与える最大リスクと考える」(岡本の岡本隆太郎社長)。「国内生産縮小の流れはコスト上昇を招き、一層の海外生産とのコスト差拡大につながる」(双日ファッションの由本宏二社長)と、安定供給とコストの両立に苦慮する実態が浮かぶ。
サステイナビリティーやトレーサビリティー対応も新たな焦点だ。「川上にさかのぼり透明性が求められるようになるとみており、管理体制の構築に課題を感じている」(紳士服メーカー)と、対応への負荷を指摘する声もある。
対策としてDXを進める動きも出てきた。「PLM(製品ライフサイクル管理)を導入し、サプライチェーン全体のデジタル化、生産リードタイムの短縮などを通じて、トレーサビリティーが向上」(オンワードホールディングスの保元社長)と、成果を挙げる例も見られる。
「現状のサプライチェーンは一定の安定性を保っているが、地政学リスクや物流コスト上昇など、長期的な持続性には課題を感じている」(ユニフォームメーカー)との声に象徴されるように、各社は構造的な課題を抱えながら、難しいかじ取りを迫られている。
〈26年の注目は?/トランプ政権・脱デフレ・五輪・W杯〉
最後の設問16では「26年の注目」について聞いた。最も多く挙がったのは、政治情勢と経済環境の変化だ。特にトランプ政権の動向には引き続き関心が高く、「アメリカ建国250周年と中間選挙があり、政権評価により世界経済への影響が大きく左右される」(モリリンの森俊輔社長)と、政策変更の波及を注視する声が相次いだ。
地政学リスクへの懸念も根強い。ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の不安定化などで「エネルギー価格変動、米中対立の激化によるサプライチェーンへの影響が懸念される」(大和紡績の野間靖雅社長)、「独裁政権による国際秩序の機能不全」(川越政の川越浩治社長)と、不安定な国際情勢がビジネスの足かせになるとの見方が示された。
国内では脱デフレの行方が焦点。「新政権による景気対策。特に物価や賃金上昇、金利や為替の動向など」(しまむらの高橋社長)、「実質賃金の改善状況」(双日ファッションの由本社長)など、消費回復への期待と慎重姿勢が交錯する。
こうした不透明感の中、明るい材料として期待されるのが大型スポーツイベントだ。2026年はミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪・パラリンピックと、サッカーのワールドカップ(W杯)北中米大会が開催される。「スポーツ市場の盛り上がり」(デサントジャパンの嶋田剛社長)に対する特需を見込む声が目立つ。
このほか、「欧州の動向を受けて、日本でも衣服廃棄に関する規制が強化される可能性がある」(エアークローゼットの天沼聰社長)として、規制対応や技術革新への適応も重要テーマとなってくる。





