特集 事業戦略(1)/事業モデルを再構築/収益体質への転換急ぐ

2026年03月03日 (火曜日)

 綿・毛紡績大手が繊維事業の再設計を急いでいる。国内外の工場の生産撤退や機能再編を断行し、固定費を圧縮。その上で、事業連携の強化、海外供給体制の再構築、開発機能の高度化を進める。コスト競争型から高付加価値型への転換を図り、“量”ではなく“質”で稼ぐ体質へ――。各社の挑戦は次の段階に入った。

〈撤退を成長の起点に〉

 改革の出発点は国内生産拠点の整理だ。昨年は生産撤退や事業譲渡が相次いだ。撤退は縮小ではなく、経営資源を成長領域へ振り向けるための“入口”として位置付ける。

 クラボウは2025年6月、紡績・織布の中核だった安城工場(愛知県安城市)を閉鎖した。「過去の延長線上のビジネスでは生き残れない」との危機感が背景にある。設備はタイ、インドネシアへ移設し、海外中心の供給網へ再編。国内は開発拠点へ再定義する。

 大和紡績は25年3月、ダイワボウスピンテック(松江市)の生産を停止し、国内紡績から撤退した。「コスト競争力のない汎用(はんよう)品からの撤退」と「最終製品に近い末端への接近」を軸に、糸・生地の“量”で競うモデルから距離を取る。国内での紡績設備を手放す一方、中国やインドネシアの縫製拠点も活用し、インナーやTシャツなど製品に近い領域で付加価値を積み上げる。

 富士紡ホールディングス(HD)も小坂井工場(愛知県豊川市)の繊維生産を25年12月に停止し、人員を研磨材事業へ再配置した。

 日清紡HDは営業利益率10%以上を再設計の基準に掲げ、「例外はない。10%から逆算して論理的に再設計する」としている。繊維事業を担う日清紡テキスタイルは昨年、採算確保が難しいと判断した綿スパンレース不織布「オイコス」の生産を終了。不採算分野の整理を進める一方で、環境負荷低減や新素材開発など次代のテーマへと軸足を移しつつある。

 毛紡績でも、事業環境の変化に合わせた“手じまい”が進む。トーア紡コーポレーションは昨年、中国・広州で自動車内装材向け不織布を手掛けてきた連結孫会社、広州東富井特種紡織品を現地企業へ譲渡した。電気自動車(EV)化で日系メーカーの減産が続き、中国事業の前提が崩れたためだ。2月に現中期経営計画の売上高目標を下方修正したが、利益目標は据え置いた。「稼げる体制へ組み替える」姿勢をにじませる。

 撤退や整理の効果は、固定費圧縮にとどまらない。供給体制、商品構成、顧客対応を含めた事業モデルを作り替える“助走”となる。26年は、その成果が数字にどう表れるかが焦点となる。

〈“売り方”を変える〉

 単独完結型から連携型へ。各社にとって26年は、組織や事業の融合で付加価値を高める年になってくる。狙いは売り先ではなく“売り方”の転換だ。

 シキボウはユニチカトレーディング(UTC)の衣料繊維事業を承継し、1月から総勢130人規模の新体制を始動した。尾﨑友寿上席執行役員は「互いの強みを融合し、“共創”することで新しい価値を生み出す」と語る。素材では短繊維と長繊維、製品では編み地と織物と、補完関係にある強みを掛け合わせ、ユニフォームや海外販売でトータル提案を強化する。営業面では重複商圏の“交通整理”を急ぎ、「営業効率を最大化させる」。

 グループ会社の新内外綿とは人材交流を進め、国内産地向け販売を同社に集約。シキボウは直販や海外営業に特化する体制に移行し、糸売りの採算改善を狙う。新内外綿の田邉謙太朗社長も「市場の理想を形にする」と述べ、受注待ちではなく“開発主導型”で別注糸比率を50%超へ引き上げる方針を示す。

 日清紡テキスタイルは社長直轄のマーケティング推進室を軸に、シャツ、ユニフォーム、ポリウレタン製品「モビロン」を組み合わせた“クロス営業”を本格化させる。岡山芳久取締役は今期(26年12月期)を「事業変革スタートの年」と位置付け、「全員が自由に提案できる組織を目指す」と強調する。昨年11月の内見会でクロス提案に手応えを得て、今月25~27日には大阪で内見会を開き、提案型への転換を加速する。

 ニッケも“仕組み”を武器に再設計を進める。衣料繊維事業は今期(26年11月期)、中長期ビジョン「RN130ビジョン」の最終年度としてスクールユニフォームの生産体制を再構築し、収益力の向上を最優先する。金田至保取締役は「売れるものをタイムリーに作る」体制確立を掲げ、需要に合わせた生産調整とロス排除を徹底する。

 循環でも連携が広がる。衣料品回収・循環プロジェクト「WAONAS」(ワヲナス)はスクールに加えビジネスユニフォームへ拡大し、2月には京成グループとの連携が決まった。使用済み制服・作業服を約4㌧回収し再資源化する。「企業のSDGs(持続可能な開発目標)需要へ積極的に応えていく」(金田取締役)とし、反毛混率を高める技術開発の重要性も指摘する。

 トーア紡コーポレーションの衣料事業を担う東亜紡織、インテリア産業資材を担うトーア紡マテリアルも連携を深める。高まる環境配慮への関心を背景に製品回収システム「トーア紡エコハーモニー」への問い合わせが急増。両社が連携し、回収した製品を反毛して自動車や建築資材へ再資源化する取り組みを加速する。「グループのシナジーを創出する」(トーア紡マテリアルの久保徹社長)ことで、中計の目標達成を目指す。

 統合や横断営業、一気通貫の仕組みづくりは、単なる規模の拡大ではない。顧客の課題を起点に、供給の形そのものを作り替える転換点となっている。

〈海外でも稼ぐ体制へ〉

 国内市場の縮小を見据え、海外展開も本格化する。供給網の組み替えと需要開拓を同時に進めるのが特徴だ。

 大和紡績はインドネシア拠点との連携を強化し、海外販売の拡大を図る。カンバス・メッシュベルト事業では国内シェアを維持しつつ、インドネシア生産を活用して海外市場を開拓。技能実習生の受け入れと人材交流を通じ、「グローバルな生産基盤の強化を図っていく」(青柳良典取締役)。

 シキボウはUTC統合で海外拠点が補完関係となり、ベトナムでは南部ホーチミンと北部ハノイの“二極”体制を手に入れた。尾﨑上席執行役員は「相互活用を加速させる」とし、中東向け生地やスポーツ分野の商権を含めた市場の拡大を狙う。

 日清紡テキスタイルはマーケティング推進室に海外担当を設け、欧州開拓を強める。3月にドイツ・ミュンヘンの「パフォーマンスデイズ」へ初出展し、エラストマーなどを提案する。海外生産では、インドネシアのニカワテキスタイルで定番品の外注化を進め、自社設備は渦流紡績糸など独自品へ特化。「将来的に独自品比率100%を目指す」(岡山取締役)。

 ニッケの海外戦略は「長く滞在してコミュニケーションを深める」スタイルへ転換し、欧州での商談が着実に進む。金田取締役は「ニッケならではの生地が浸透し、顧客数も拡大しつつある」と語り、偏芯らせん構造交撚糸「ニッケアクシオ」の機能を武器に靴下など新市場も狙う。

〈開発投資で競争力強化〉

 差別化の源泉は開発力だ。近年は「短期で形にする力」に加え、「模倣されない技術」の両立が問われている。

 日清紡テキスタイルはインドネシアに研究施設の設置を進め、現地で開発から量産まで完結できる体制を整備する。岡山取締役は「外部の知見も取り入れ、環境負荷を下げる製造技術の開発を強化する」と述べ、環境対応を成長テーマに据える。

 大和紡績は播磨研究所(兵庫県播磨町)を核に、ポリプロピレンやレーヨンなど独自技術を深化させる。市場性と競争力のある合繊事業を最注力分野と位置付け、フェースマスクやフィルター用途など「伸びる事業に経営資源を集中させる」(青柳取締役)。設備更新や環境投資も進め、CO2削減目標を掲げるなど持続可能性にも配慮する。

 ニッケは今期、8・3億円の設備投資を計画し、反毛機導入や紡績工程への投資を進める。さらに岐阜工場内に羊毛トップメーキング工程を新設し、品質とトレーサビリティー向上を狙う。「国産ウールの品質の底上げとブランド力強化に貢献したい」(金田取締役)として、国内基盤を“攻め”の武器へと転換する姿勢を鮮明にする。