ジーンズ別冊26SS(16)/三備賛歌(1)/デニム製造/セルビッヂ筆頭に需要旺盛
2026年03月27日 (金曜日)
デニムの生産が盛んな、岡山県と広島県にまたがる三備産地ではデニムのトレンドもあり、堅調な操業を継続させている工場が多い。特にニーズが高まるセルビッヂデニムは需要が供給に追いついておらず、各工場でタイトな状況が続いている。
〈セルビッヂに熱視線〉
ジーンズのトレンドによって堅調な稼働が続く三備産地のデニム工場。さまざまな種類のデニムの中でも、セルビッヂデニムの生産が旺盛だ。この流れは2、3年ほど続いている。
セルビッヂデニムは旧式の織機であるシャトル織機で織られるデニム。エアジェット織機といった新しい革新織機に比べると低速で織られるため、凸凹感のある独特の風合いを生むとされる。生地の端に「耳」(セルビッヂ)と呼ばれるほつれ止めが付くことから、この名前が付いた。
デニム製造国内最大手のカイハラ(広島県福山市)ではセルビッヂデニムの需要が旺盛で、タイトな生産状況が続いている。稲垣博章執行役員は「(セルビッヂの)ブームがここまで長いことは過去になかった」と指摘する。昔ながらのシャトル織機で織った生地というように、「ストーリー性が受け入れられている」とみる。
アメカジやビンテージなどのトレンドもあり、セルビッヂデニムを使った高額なジーンズが売れている。海外では「ジャパンデニム=セルビッヂデニム」という認識になっているとの声も聞かれるなど、国内だけでなく海外からの評価も高まっており、インバウンドによる購買も寄与する。円安傾向にあるということが輸出につながっている面もありそうだ。
工場によっては1~2年先までキャパシティーが埋まるなど、カイハラ以外の織布工場でもセルビッヂデニムの生産が逼迫(ひっぱく)している状況は変わりない。
ショーワ(岡山県倉敷市)は、2025年11月期に増収増益を確保した。要因として「セルビッヂデニムの効果がある」(高杉哲朗統括本部長)と言い、「注文は1年半先まである」とする。「セルビッヂはフル稼働の状況。継続して注文が来ている」と話すのは日本綿布(岡山県井原市)の川井眞治社長。ショーワと同様、「1年以上先まで仕事が入っている」。
デニムの経糸を染めるロープ染色を手掛ける坂本デニム(福山市)は26年1月期に増収を確保した。坂本量一社長は「日本のデニムが堅調」と話した上で、「数万円のジーンズがこれほど長く売れるブームはかつてなかった。本物志向のブームだ」と語る。
セルビッヂデニムに限らず、日本のデニムの価値は高まっている。クロキ(井原市)が23年、モノ作り産業の成長と活性化を目的に取り組む、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループのLVMHメティエダールとパートナーシップを提携したことは一つのトピックとして挙げられるだろう。
〈人手不足など懸念点も〉
注目が集まるセルビッヂデニムだが、課題や今後への懸念もある。
シャトル織機は新しい織機に比べると織るスピードが低速で、生産性が低く、B、C反も発生しやすい。また、生産には手間がかかり、織機を扱うには人の技術力も必要となる。
シャトル織機は既に生産が終了しているため、廃業した工場から譲り受けるなど、増設のための手段も限られる。そのため、今後飛躍的に生産量が増えることは考えにくいのが現状だ。
ワン・エニー(岡山市)の清大輔社長は「セルビッヂの受注残があるほか、納期が合わなくてドロップというように、売り逃しがたくさんある」と説明する。
人手不足という問題も横たわる。ある産地関係者は「シャトルの活況で隠れているが、人の問題などで危機感がある」と漏らす。実際、ショーワでは「シャトル織機をもっと回して生産量を増やしていきたい。ただ、機械はあるものの人手が不足している」(高杉統括本部長)とする。ある織布工場も「今はデニムブームで良い状況だが、このままでいれば仕事があってもモノが作れなくなる」と不安視する。
織機オペレーターの育成や技術継承が課題となる中、篠原テキスタイル(福山市)は今年、製造業務のマニュアル化を進める考え。篠原由起社長は「シャトル織機を効率よくスムーズに動かしていくとなると、今後は技術の承継が大事になってくる」と強調する。動画も活用したマニュアル作成を進めながら、技術の継承と底上げを図る。
セルビッヂデニムのオーダーが2年待ちというケースもある中、「『セルビッヂデニムがあるならやる。なければ、セルビッヂ以外の生地で提案してほしい』という声のほか、端から『セルビッヂは見せないで』というブランドも出てきた」(産地企業)との声も。一方、「たくさん生産できないがゆえに、セルビッヂデニムの価値がある」との見方もある。
高木織物(井原市)では「この1年は織機が空くことはなかった」(高木茂社長)とし、現在も「5月まで埋まっている」。同社はレピア織機によるデニムが主力で、セルビッヂデニムを生産していないが「『このセルビッヂの企画なら同じ番手の糸を使ったダブル幅でも良い』との声もある」と言う。
セルビッヂデニムのトレンドがいつまで続くのかという見通しは不透明だ。現状、「この1年は堅調さが続くだろう」との声が大勢を占める。ただ、国内の可処分所得は伸び悩むうえ、米国とイスラエルのイラン攻撃によって石油の高騰が進むことも考えられ、服への消費が鈍化することも懸念される。
トレンドであることから、「また落ち込む時期がくる」(産地の洗い加工場)との意見がある一方、あるジーンズメーカーは「今はセルビッジが日本のデニムのようになっているが、今後は拡大解釈でダブル幅のデニムも含めた全てのデニムが“日本のデニム”というように評価されるのでは」と明るい見方をする。今後の動向についての声は多様で、各社はこのトレンドがいつまで続くのか注視している。
〈開発や施策で成長目指す〉
セルビッヂを筆頭に比較的生産が堅調なデニム。ただ、生産量を伸ばしにくい「セルビッヂデニムだけだとご飯は食べられない」との声も聞かれる中、さまざまな生地開発や施策でさらなる成長を目指す動きも進む。
一つは海外販路の拡大だ。篠原テキスタイルはイタリア・ミラノの国際生地見本市「ミラノ・ウニカ」(MU)に継続出展しながら販路開拓を進めている。今年1月の出展時は前回に比べて来場者は減ったものの「しっかりと商談できた。直接行って現地で話す機会は貴重」と話す。MUへは中国紡織(福山市)も今年初出展した。刺し子風デニムなど、生地のピックアップも多く、着分オーダーにもつながった。
カイハラは今秋、欧州の展示会への出展を予定する。これまで「グローバルで不特定多数に発信をすることはあまりなかった」(稲垣執行役員)。同社のメインの輸出先は米国だが、「マーケットを引っ張っている欧州という地で、しっかりと買ってもらえるような素材を披露していく」。
販路を拡大するための生地開発も進む。カイハラでは紡績工程を持つ強みを生かし、機能素材使いなど、ダブル幅のデニムの稼働増に向けて開発を進める。
これまでにユニークな生地を開発してきた中国紡織も開発を継続している。住友化学の固体ポリマー型温度調節材料「コンフォーマ」や、微生物由来のインディゴ使いのデニムなどを開発している。このほど開発したこれらの生地は、4月にドイツで開かれる産業用繊維、不織布などを中心とする国際見本市「テクテキスタイル」の住友化学のブースで発信する。
コトセン(倉敷市)も生地の最終仕上げである整理加工場という立ち位置から、「顧客の生地に当社の加工をプラスして新しいモノ作りをしていく」(渡邉将史社長)という提案を広げている。
設備投資面では坂本デニムが、老朽化が進んでいた染色機を基礎から本格的に改修を行う。坂本社長は「より品質が良く、高くても買ってもらえるモノを作っていく」と話す。
〈新小学1年生にデニムバッグを/広島県福山市の企業〉
備後地域を拠点に活動する社会人サッカークラブの福山シティフットボールクラブ(福山シティFC・広島県福山市)やデニム製造の篠原テキスタイル(同)など、福山市内の9社が、今春に市内の公立小学校へ入学する新1年生にデニム製のトートバッグを寄贈する。
幼いころから地域のデニム産業について親しんでもらうことが狙い。「マイ・ファースト・デニム・プロジェクト」として、今春に入学予定の3350人にデニムトートバッグを贈る。昨春に福山シティFCと篠原テキスタイルが発案し、福山通運やワークウエア製造卸のコーコス信岡、C2など計9社が賛同した。
バッグには10オンスの綿100%デニムを採用した。ムラが控えめのナチュラルな見た目のデニムとなる。大きさは横40㌢、縦30㌢、マチ6㌢。篠原テキスタイルが生地を提供し、C2が縫製した。
子供や保護者、教育委員会などの意見を参考にしながらデザイン。外側にはジーンズのバックポケット風のポケット、内側にもポケットを付与した。丸めて収納できるようにするなど、扱いやすさにもこだわった。外側には「FUKUYAMA DENIM」の白いタグが付くほか、内側ポケットには賛同企業名を施した。
先月、同市の枝広直幹市長に表敬訪問も行った。篠原テキスタイルの篠原由起社長は「デニム産業を地域の誇りとして小学1年生から定着していくことができれば、より福山が好きな子たちが増えてくる。今年だけでなくずっと続けていきたい」と話す。





