循環型へ動く世界の繊維産業
2026年04月01日 (水曜日)
海外の繊維産業で循環型への対応が本格化している。再生原料を活用した新素材開発に加え、製品ごとの情報を可視化するデジタル製品パスポート(DPP)、使用済み繊維を原料へ戻す再生インフラの整備、過剰生産を抑えるオンデマンド製造など、素材・サービス・生産方式の各側面で具体的な取り組みが広がる。欧州を中心に環境規制が強化される中、企業は単なる環境配慮の訴求にとどまらず、サプライチェーン管理や商品設計、生産方式まで含めた事業モデルの転換を進めている。
〈進むサプライチェーンの可視化〉
循環型政策を背景に注目されるのが、DPPだ。欧州連合(EU)はエコデザイン規則(ESPR)の柱として、域内で販売される繊維製品に素材構成、環境フットプリント、生産工程などの情報を記録したデジタルデータの付与を求める方向にある。施行は2027年が見込まれる。
これを見据え、英国のサステイナビリティーコンサルティング会社フランク・インパクト・カンパニーは、婦人服ブランドの「ラット&ボア」向けにDPPを導入した。
同社が運営するサステデータプラットフォーム「ザ・チェーン」を活用し、サプライヤー情報、製品データ、認証、監査、排出量などのデータを統合。衣料品に付けた2次元バーコードから製品のデジタルページへアクセスできる仕組みとした。
このシステムでは、サプライヤーが提出する監査報告書や証明書などの文書をプラットフォームにアップロードすると、人工知能(AI)がデータを整理・構造化する。賃金、認証、炭素排出などの情報を製品単位でひも付け、サプライチェーン全体の透明性を高める狙いだ。
ラット&ボアは25秋冬商品から導入を開始し、26春夏コレクションでは全製品にDPPを付与する計画。DPPは消費者向けの情報開示にとどまらず、ブランド側の調達管理やコンプライアンス対応の基盤としても活用される。
〈循環・デジタル技術を集積〉
欧州では循環型繊維を支える技術群の集積も進む。21~24日にドイツ・フランクフルトで開かれる産業用繊維の国際見本市「テクテキスタイル」では、オランダが初めて国としてパビリオンを設置し、循環型繊維やデジタル化の取り組みを発信する。
同国の繊維・衣料・皮革・履物産業は約240億ユーロ規模で、国民所得の約2・4%を占める。政府や業界団体は循環型産業への転換を国家戦略として位置付けており、企業や研究機関が連携した技術開発が進む。
出展企業には、廃棄綿を新たなセルロース原料へ転換する繊維to繊維リサイクル技術を開発したサックスセル、PFAS(フッ素化合物)フリーの高機能加工剤を提案するラモラル・コーティングス、リアルタイムのトレーサビリティーを実現するデータプラットフォームを提供するテックス・トレーサーなどが名を連ねる。
この動きは、循環型繊維が単一技術では成立しないことを示す。再資源化技術、環境負荷低減加工、デジタル追跡、素材評価など複数の要素を組み合わせ、産業全体の仕組みとして構築する必要がある。オランダはこれらを束ね、循環型繊維の欧州拠点としての地位確立を狙う。
〈再生原料を活用した新素材〉
素材分野でも循環型対応が進む。フィンランドのスピンノバは、繊維to繊維リサイクル原料メーカーのCIRCULOSE(サーキュローズ)をエコシステムに迎えた。サーキュローズはセルロース系繊維廃棄物を溶解パルプへ再生する技術を持つ企業で、これをスピンノバの繊維製造プロセスに原料として組み込む。
スピンノバの技術は、従来の再生セルロース繊維のような化学溶解工程を経ず、機械的プロセスで繊維を形成するのが特徴。サーキュローズパルプを100%原料として使用できるため、最終繊維のリサイクル含有率を高められる。両社は既に紡糸試験や織布試験を実施しており、今後は商業規模での供給拡大を目指す。
米国のユニファイも、循環型原料を活用した新糸「Luxel」(ルクセル)を発表した。再生ポリエステル「REPREVE」(リプリーブ)をベースとし、そのうち約30%を繊維廃棄物由来原料を利用する「REPREVE Takeback」(リプリーブ・テイクバック)で構成する。リネン調の外観と風合いを持ちながら、吸湿発散、防シワ、抗臭機能を備えるのが特徴で、アパレル、フットウエア、ホームテキスタイルなど幅広い用途に対応する。
〈再生インフラ整備も進展〉
欧州では再生インフラ整備も動き始めた。フランスのレジュは、同国南西部ラックのインダスラック工業団地に産業規模の繊維再生拠点を設置する計画を発表した。使用済み繊維を独自の解重合技術で処理し、ポリエステル原料であるrBHETに転換。その後再重合して再生ポリエステルを生産する。
化学リサイクル技術を手掛ける英国のウォーンアゲイン・テクノロジーズは、スイスのヴィンタートゥールに「テキスタイルtoファイバー・アクセラレーター」工場を開設した。使用済み繊維からポリエステルとセルロースを回収・再生する同社独自の化学リサイクル技術を実証する施設で、ポリエステルと綿の混紡素材(ポリコットン)におけるリサイクル技術の商業化に向けた重要なステップとなる。
同工場は、研究開発段階の技術を産業規模で検証する実証拠点となる。近年、プロセス化学とエンジニアリング設計を改良し、溶媒システムや分離技術を最適化。ポリエステル繊維とセルロース繊維を高純度で回収できるプロセスを確立した。使用する溶媒は95%以上を回収できるという。複数溶媒を用いるプロセスにより、従来のリサイクル技術では課題だった染料やポリウレタンなどの複雑な材料も分離可能。2024年以降、回収原料から再び繊維を紡糸することにも成功している。
世界では年間約1億2千万トンの繊維が廃棄されるが、新しい衣料品にリサイクルされるのは約1%にとどまるとされる。欧米では繊維to繊維リサイクルの産業化が課題となっており、こうした再生拠点整備が循環型繊維産業の基盤づくりにつながる。
〈循環型は産業基盤へ〉
米国のアップサイクル衣料ブランドのリフライド・アパレルは、大学の持続可能性活動を支援する取り組みを強化している。同社は全米の数百の大学と連携し、大学生協や書店に残るデッドストックの衣料品を回収して再商品化するアップサイクルモデルを展開。売れ残り在庫を新たな商品として再生することで、衣料廃棄物の削減と収益化の両立を図っている。このような取り組みは今後、さまざまな国や地域で広がりそうだ。
各社の取り組みに共通するのは、循環型対応が理念から産業基盤の構築へと進んでいる点だ。素材開発、デジタル追跡、再生インフラ、生産方式など複数の要素が結び付き、循環型の仕組みが産業全体に広がりつつある。規制対応を契機としながらも、企業は新たな競争力として循環型に取り込み始めている。今後は技術や制度をどう結び付け、持続可能なビジネスとして拡大できるかが焦点となりそうだ。
〈生産モデル転換で廃棄削減〉
循環型の取り組みは素材やリサイクル技術だけではない。生産方式そのものを変える動きもある。米国のプリントフルは、オンデマンド生産モデルによって過剰生産の削減を進める。
従来のアパレル産業では需要予測に基づく大量生産が一般的で、売れ残りが廃棄の原因となってきた。世界では新たに製造された衣料品の約4割が売れ残るともいわれる。プリントフルは注文後に製造する仕組みにより在庫を持たない生産を実現し、売れ残り在庫の発生を防ぐ。





