2026年春季総合特集(2)/航空・宇宙/シキボウ/長谷虎紡績
2026年04月20日 (月曜日)
〈シキボウ/加工工程に独自の技術/次世代材料も研究強化〉
航空宇宙分野で欠かせない材料が炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維などと樹脂を複合成形する繊維強化複合材料。シキボウの機能材料部門は得意とする加工技術を強みに需要拡大が続く航空宇宙分野で存在感を高めている。機体部材からエンジン部材まで幅広く製造しており、次世代材料の研究にも力を入れる。
同社は製紙用カンバスやドライヤークロスなどで豊富な実績を持ち、これらで培った大型製織技術などが繊維強化複合材の製造技術の基盤にある。樹脂含浸した繊維束を成形加工した電気絶縁体での実績を生かしてきた。
現在、八日市事業所(滋賀県東近江市)、尾道事業所(広島県尾道市)、長野事業所(長野県箕輪町)の3カ所で複合材料の製造・加工を行う。八日市事業所は電気絶縁体などエネルギー・インフラ関連、尾道事業所で航空機機体と人工衛星の部品、長野事業所は航空機エンジン用の複合材料部品と金属部品を製造する。複合材料事業の拡大について機能材料部門長である田那村武司常務執行役員は「地道に認証などを取得し、先行投資を続けてきた成果」と指摘する。
複合材料は素材だけでなく加工によって必要とされる物性を実現するため、高レベルの工程管理・保証が求められる。同社は航空宇宙部品製造の国際的な特殊工程認証も取得することで航空機の機体部材やエンジン部材に参入してきた。また、開発や認証取得に時間がかかるため、設備投資から事業化までに要する期間も長い。この間の地道な開発が現在の成果につながっている。
今後に関して田那村常務執行役員は「航空宇宙用途の需要が拡大する一方、需要家からの要求もますます高度化している」と話す。このため新たな設備投資も視野に入れる。さらに「加工工程で独自の技術が不可欠」として、中央研究所(東近江市)と一体となった研究開発を強化。「需要家の要求に向けて改良した提案ができるのが当社の強み」と話す。
次世代材料の実用化に向けた研究開発も進む。その一つがセラミック繊維と母材を複合して成形するセラミック・マトリックス・コンポジット(CMC)。炭化ケイ素繊維を使用することで軽量性と高耐熱性、強度、靭(じん)性(粘り強さ)を併せ持ち、航空機エンジンなどの次世代材料として期待は大きい。同社は三次元製織による成形用基材の開発と加工に取り組む。
「国も機微技術を支援しようとする姿勢が強まっている」という田那村常務執行役員。“未来の材料”である複合材料による市場開拓を加速させる。
〈長谷虎紡績/カイノール糸、次の市場へ/宇宙産業の実績生かす〉
長谷虎紡績(岐阜県羽島市)は、フェノール樹脂を原料とするノボロイド繊維「カイノール」紡績糸の用途開拓を加速させている。ロケット部材など宇宙産業で培った実績を強みに、糸のバリエーションを拡充し、一般用途へも展開を広げる。5月13日に竣工(しゅんこう)する専用の撚糸工場で供給体制も強化し、カイノール糸の可能性を次の市場へつなげる。
同社は1977年にカイノール紡績糸の開発に着手した。繊維の強度が低い上に、捲縮(けんしゅく)がないため繊維同士が絡みにくく、「どうやって糸に紡ぐか、非常に苦労した」という。協力企業との取り組みや紡績条件の試行錯誤を重ね、約2年をかけて紡績糸化に成功した。その後もプロジェクトチームを組み、糸むらなどの課題を克服して品質を安定させた。
こうした地道な改良が実を結び、カイノール紡績糸を炭素繊維化した素材が94年の国産ロケット「H―Ⅱ」1号機の固体燃料ブースター噴射ノズルの耐熱材に採用された。以降も「H―ⅡA」や「H―ⅡB」、「H3」、「イプシロンロケット」などに採用され、H―ⅡAロケットでは昨年打ち上げられた50号機まで継続して搭載されている。
カイノールは優れた難燃性や非溶融性、耐薬品性を備え、燃焼時の有毒ガスの発生や発煙量も少ない。柔軟で2次加工しやすく、焼成によって炭素繊維や活性炭繊維へ展開できる点も強みだ。同社はこうした特性を生かし、バリエーションの拡充を進めている。
芯にアラミド繊維、鞘にカイノールを配した2層構造糸の20、30番手や、ストレッチ糸などを開発した。カイノール100%の無撚糸も1~20番手と幅広く対応する。
需要の広がりを見据え、専用の撚糸工場を新設した。現在販売するカイノール糸の多くは撚糸が必要になるが、国内の撚糸工場は後継者不足や廃業問題が懸念されている。政府が航空・宇宙を戦略分野に位置付けたことで今後の需要増も見込まれており、未来を見据えて、撚糸工程の内製化を決めた。
これまで撚糸工程が生産のボトルネックとなっていたが、外注撚糸工場と同じ型番の機械を導入し、生産能力を現行の4倍に増強した。
新工場は環境性能にもこだわった。天井裏と壁面を特殊な遮熱シートで覆うことで気密性を確保し、空調効率を向上させた。外部調査でも最小限の冷暖房で稼働できることが実証されている。二酸化炭素(CO2)排出量も削減し、「地球環境に優しい工場」を実現した。宇宙で培った実績と新たな生産拠点を融合させ、カイノール紡績糸の市場を切り開いていく。





