2026年春季総合特集(5)/Topインタビュー/東洋紡 社長 竹内 郁夫 氏/幅広い分野で貢献できる/積極投資の効果を出す
2026年04月20日 (月曜日)
「幅広い分野で貢献できる。特に期待しているのは人工知能(AI)、半導体、バイオ、環境といった分野」――東洋紡の竹内郁夫社長は話す。2026年度(27年3月期)から新たに5カ年の中期経営計画がスタートした同社。中東情勢悪化で先行き不透明感があるものの、前中計でフィルム事業やライフサイエンス事業を中心に積極的な投資を続けていた成果を発現することが大きなテーマとなる。一方、繊維事業も収益改善が進んだ。引き続き投下資本利益率を高めながら、強みを発揮できる分野やアイテムを中心に収益拡大を目指す。
――高市政権となって「17の戦略分野」が提示されるなど投資を積極化する政策が明確になりました。今後、特に期待できる分野は何でしょうか。
「17の戦略分野」自体は総花的ですので、なかなかこれだと限定して話すことは難しい面がありますね。ただ、当社としても幅広い分野で貢献できると考えています。特に注目しているのは「AI、半導体」でしょうか。工業用フィルムなどでいろいろとやれることがあります。それ以外でも例えば「合成生物学・バイオ」や「創薬・先端医療」などはバイオ事業やライフサイエンス事業として力を入れてきた領域ですし、「航空・宇宙」「防災・国土強靭化」「防衛産業」もスーパー繊維や不織布などで貢献できる分野です。意外なところでは「フードテック」もバイオ農薬などをやっているので可能性があるでしょう。「海洋」ではレアアースの回収などで膜の技術が活躍できます。このようにかなり幅広い分野で貢献できる可能性があると考えています。
――25年度は中計の最終年度でした。
目標とした数字には届きませんでしたが、内容を見ると全体としては改善傾向と言えます。EBITDA(減価償却前営業利益)を見ても、新型コロナウイルス禍前の水準にまで戻っていますから、“稼ぐ力”が戻りつつあります。
一方、ライフサイエンス分野の落ち込みが課題です。フィルムとライフサイエンスを中心に積極的な投資を続けましたが、その立ち上げが遅れ、まだ十分な成果を得られませんでした。ただ、今からあれだけの規模の投資ができるかと言えば難しいでしょう。あらゆるもののコストが上昇していることなどを考えると同じ内容の投資をしようとしても、投資額がさらに膨れ上がるからです。そう考えると、先行して投資したことは今後のアドバンテージになるはずです。
事業の根幹である安全・防災・品質の徹底という面でも基盤となるインフラ整備が進みました。前中計がスタートする前は、工場火災などもありご迷惑をおかけしていましたが、そういったことを起こさないための体制ができています。また、人材や組織風土の改革も進んでいます。そういった数字に表れない基盤は成果が出ています。
ポートフォリオの組み替えも進みました。工業用フィルムの優位性を維持し、環境・機能材事業も東洋紡エムシーを中心に改善しています。売上高は当初もくろんだ規模には至っていませんが、営業利益は狙った数字に近付いています。エアバッグ事業も海外拠点はタイに集約するなど投下資本をコンパクトにしたことで黒字化の目途が立っています。一方で不織布や包装フィルムの収益が悪化したことが今後の課題になります。
――26年度から新しい中計がスタートしました。
イラン情勢もあってなかなか見通しが立てづらくなっています。特に石化由来原料は、価格の高騰だけでなく、そもそも必要な物量を確保できるのかという問題があるからです。また、原油・ナフサ価格高騰を受けて当社も含めて値上げの動きが加速していますから、この第1四半期(4~6月)で業界全体の価格体系が大きく変わるでしょう。その影響を見極める必要があります。
その上で、今回の中計は、安心・防災・品質の徹底を大前提として、これまでの積極投資の成果を発現することがテーマになります。また、新しい価格体系に対応し、価格改定をしっかりとやることが重要になります。そして、引き続き資産効率を高めることが欠かせません。金利も上昇しており、運転資金を圧縮する必要があります。不確実性が高まっていますから、当面は投資も慎重にならざるを得ません。そうした中でもAIの活用などによるデジタル技術で社会を変革するDX、当社はTX(トーヨーボー・トランスフォーメーション)と呼んでいますが、これを実装する段階に入ります。
――繊維事業については。
衣料繊維事業が中心の東洋紡せんいは分野を絞り込み、中東民族衣装用織物など強みのあるアイテムや、ここにきて強まっているニット化の流れを捉えた素材開発・販売に力を入れます。エアバッグ事業は中国子会社を売却し、タイの拠点を中心に使用資本をコンパクトにして事業運営していくことになります。アクリル繊維事業の日本エクスラン工業は汎用(はんよう)品の生産を縮小し、資材用途を含めた機能品へのシフトを引き続き進めます。そのための投資も進めています。繊維事業は、売上高は横ばいでも利益をしっかりと出すことを目指しており、資産効率もさらに高まるようにします。
――中計の中でも最終年度(30年度)の数値目標で売上高や営業利益よりも自己資本利益率(ROE)8%以上、投下資本利益率(ROIC)6%以上という数字を先に掲げています。
こうした考え方は繊維事業に限らず、全事業に当てはまることです。ですから今回の中計でも数値目標として“額”よりも“率”を重視する形にしました。
〈私のちょっとしたストレス解消法/頭から澱(おり)を落とす〉
「毎日、自宅周辺を3キロほど歩いている」という竹内さん。歩きながら考えていたことが整理され「頭から澱(おり)が落ちてくる」んだとか。それから食後にコーヒーを飲みながら家族と談笑し、寝る前に小説を読む。「頭がすっきりしたところで小説を読むと別の世界に入ることができる」。ちなみに最近よく読む作家は向田邦子、三浦しおん、宮部みゆきなど。女性だからというわけではなく、それでいてどこか人と違う視線で魅力の作家を選ぶところが竹内さんの趣味かも。
【略歴】
たけうち・いくお 1985年東洋紡績(現東洋紡)入社、経営企画室長、東洋紡チャイナ董事長などを経て2018年執行役員機能膜・環境本部長、20年常務執行役員、同年取締役兼常務執行役員企画部門の統括、カエルプロジェクト推進部の担当、21年から代表取締役社長





