2026年春季総合特集(6)/Topインタビュー/旭化成/社長 工藤 幸四郎 氏/半導体材料など成長分野で強み/投資と改革の判断を早く

2026年04月20日 (月曜日)

 旭化成は、2025年度(26年3月期)から始めた中期経営計画を推進している。初年度について工藤幸四郎社長は「成長投資と構造改革の両輪で取り組み、順調に推移した」とし、「全体としては満足している」との認識を示した。26年度の事業環境は経験したことがないほどの不確実性が高まっているとしたものの、成長投資と構造改革のスピードはこれまで以上に早める意向だ。今年10月の旭化成アドバンスと帝人フロンティアの経営統合に関しては、「できるだけ早くシナジーが発揮できるように全面的にサポートする」と強調した。

――26年度で最も期待している分野は。

 半導体と人工知能(AI)に関連するビジネスが一つです。これらは26年度も確実に成長すると考えています。当社のエレクトロニクス分野も26年度、27年度に投資を検討しなければならないほど、現状の引き合いが強いです。顧客とどれだけ深く話し合い、スピード感を持って対応できるかが鍵になります。

 もう一つがヘルスケア分野です。24年度にスウェーデンの製薬企業であるカリディタスを買収し、今年2月にはドイツの製薬会社であるアイキュリスの買収も発表しました。製薬事業はグローバルでの拡大を図っていきます。救命救急医療を手掛けるゾール・メディカルは新型コロナウイルス禍で一時期踊り場を迎えましたが、回復基調にあります。

 半導体やヘルスケアに関連する企業には追い風が吹いていると感じますが、全ての企業が同じタイミングでそれを成長に取り込み、企業価値や株価の向上につなげられるとは思いません。どれだけ強い技術を持っているか、どれだけハイエンドゾーンに食い込んでいるかで成長に差が生じるのではないでしょうか。

――25年度が終了しましたが、この1年を振り返ると。

 25年度は構造改革と成長投資の両輪で取り組みました。構造改革は事業売却や撤収、経営統合、ナフサクラッカーの統合などを実施しました。少し遅れているものもありますが、想定の範囲内です。成長投資も医薬や半導体材料、水素関連で実施・発表しました。構造改革と成長投資ともに実行できたと評価しています。

 数字面も同様です。前中計の最終年度(24年度)の営業利益は過去最高を更新しました。25年度はその延長で進んだと言え、全体として満足できる状況で推移しています。中には厳しい事業もありますが、25年度も過去最高の営業利益を確保できる見通しです。

 医薬では、24年度に実施したカリディタスの買収が25年度に花開きました。半導体もフォローの風が吹きました。現場の努力により盛り返した事業もあります。ゾール・メディカルなどがその一例です。

――繊維事業の25年度は。

 事業・分野別で分かれますが、総じて言うと厳しい状況でした。旭化成アドバンスは堅調でしたが、人工皮革の「ディナミカ」は自動車関連が勢いを欠き、キュプラ繊維「ベンベルグ」はインドとパキスタン向けが安価な中国品流入の影響を受けました。ポリウレタン弾性繊維「ロイカ」は紙おむつ用途が苦戦しています。

 一方で米国のセージ・オートモーティブ・インテリアズは健闘しています。自動車関連が勢いを欠いているのは同様ですが、ポートフォリオ改革や工場のコストダウン効果などが寄与し、24年度と比較して成長することができています。今後は貿易協定であるUSMCA(米国・カナダ・メキシコ協定)の行方がポイントです。

――26年度は中計2年目です。

 これまでに経験したことがないと言ってもいいほどに不確実で、全く先が読めません。現在の最重要事項はナフサの調達であり、工場の稼働をつなぐことです。ナフサのスポット価格はかなり高騰していますが、供給を続けるためには買わざるを得ないのが実情です。

 そうなると、上昇したコストをどうするのかが問われます。自助努力はもちろんですが、価格転嫁が不可避です。価格転嫁はBtoBではある程度進むと思うのですが、難しいのはBtoCでの価格転嫁でしょう。川上に位置する事業の業績は、工場が稼働していれば大きく落ちることはないと思いますが、川中・川下がどうなるか危惧しています。

――そのような環境下で取る施策は。

 不確実な時代には、それに耐えられる経営が重要になります。旭化成は3領域経営を行い、安定していると言われますが、単に3領域だからではなく、3領域経営を進める中で必要なポートフォリオの変革に取り組んでいるからこそ安定しているのです。

 これを続けることで不確実な時代も乗り越えていけると思っています。ただし、油断することなく、変化に柔軟に対応し、常に改善を追求し続けていくことが26年度と27年度の最大のポイントになります。加えて、市場のニーズを誰よりも早く把握し、誰よりも早く応えていくことも必要です。

――引き続き成長路線を進むと考えてよいですか。

 24年度、25年度と連続で投資を実施したので、今後はその成果が顕在化すると考えています。成長投資はこれで終わりではなく、構造改革同様、手を緩めるつもりはありません。ただ、どちらも早い判断が必要です。そのためにも情報収集のパワーを上げていかなければなりません。

 繊維では、ディナミカは踊り場の状況から、自動車関連でさらなる成長の可能性を追求していきます。ベンベルグは、今年度で火災事故からの復旧がほぼ完了します。旭化成アドバンスと帝人フロンティアの経営統合では、早期にシナジーが発揮できるよう、両親会社が歩調を合わせてサポートしていきます。

〈私のちょっとしたストレス解消法/なじみのそば店〉

 昨年に引っ越した工藤さんは、「近隣には飲食店が多く、にぎやか」と話す。数ある飲食店の中でも、知り合いに紹介してもらったそば店がお気に入り。夫婦が経営している老舗で、決まって天せいろを食べるのだとか。「月3回ぐらい通っている」と語り、そばを食べた後はマッサージ店に足を運ぶのがセット。工藤さんは元々そば好きで、これまでに住んだ場所にもなじみのそば店とマッサージ店があるという。共に大いにストレス解消につながっているそうだ。

【略歴】

 くどう・こうしろう 1982年旭化成工業(現・旭化成)入社。2013年旭化成せんい執行役員兼企画管理部長、16年旭化成・上席執行役員兼繊維事業本部企画管理部長、17年上席執行役員兼繊維事業本部長兼大阪支社長、19年常務執行役員兼パフォーマンスプロダクツ事業本部長、21年取締役兼常務執行役員などを経て、22年4月代表取締役社長兼社長執行役員に就任