2026年春季総合特集(7)/Topインタビュー/帝人 社長 内川 哲茂 氏/みんなが幸せの方向へ/約束を果たす会社に
2026年04月20日 (月曜日)
帝人は、2025年度(26年3月期)で2年間の中期経営計画を終了した。事業ポートフォリオ改革による戦う体制の整備と基礎収益力の回復に取り組み、本業での利益は計画通りの数字を確保する見通しで、内川哲茂社長は「底を打ってしっかりと跳ねた。市場に対して約束したことを果たせる会社になった」と話した。26年度からは路線を切り替える方針で、成長を見据えた投資も行う。帝人フロンティアと旭化成アドバンスとの新会社に対しては、「当面の目標としている売上収益5千億円は必ず出せる」と期待感を示した。
――26年度で最も期待している分野は。そこにどのように関わりますか。
通常は、さまざまなことに揺り戻しが生じます。私自身は、揺れながらであっても正しい方向に進むのが良いといつも思っています。世界のあちこちで紛争が起こっていますが、再び世界が平和を取り戻してみんなが幸せの方向に向かう。そんな1年になることを期待しています。
米トランプ大統領によってカーボンニュートラルや地球温暖化も大きく揺れましたが、水や資源は取りっぱなし、排出しっぱなしではいずれ破綻が訪れます。将来を考えると、取ったものは奇麗にして戻す。もしくは使い続けることが不可欠です。そうしたことに改めて気が付く年になってほしいとも考えています。
経済面では、現在の状況ですと、ディフェンス分野がビジネス上では楽しみです。ただ、「期待」しても良いのか、複雑な思いがあります。やはり世界が平和で必要とされる産業が潤い、経済が回ることに期待します。そのほか、当社の事業では在宅医療が見直されつつあります。新しい解釈の在宅医療が進む元年にしたいです。
――新しい解釈の在宅医療とは。
これまでは患者が病院に来ることを前提とし、医師の処方に基づいて支援してきました。外来型在宅医療です。希少疾患患者の多くは家庭での自己注射が必要です。当社がやろうとしているのは、在宅で医療行為をしなければならない患者のケアであり、外来型の在宅医療から訪問型の在宅医療への進化です。
従来よりも難しい領域に踏み込むことになります。当社は、より困難な疾患を持つ患者のケアも行い、災害発生時には安否確認や酸素ボンベの提供など、他社がやらない支援にも取り組んできました。それらができるのは当社だけであり、訪問型在宅医療に対する患者や医療機関の期待は大きいと感じています。
――25年度が終わりました。業績を振り返ると。
子会社の糖尿病剤に関する減損損失やアラミドペーパー事業売却の遅れなどから26年3月期の最終損益を下方修正しましたが、本業での利益は計画通りの数字が確保できる見通しです。苦しく、厳しい施策を取りながらでしたが、しっかりと改善はできています。期初にやろうとしたことはできたと考えています。
重要視したのは、基礎収益を安定して出せることを社内外に示すことです。業績の良くない状態や事故が続き、不安を募らせた社員はいるでしょう。市場からは約束が守れる会社かどうか疑問視する声もありました。25年度は、(社員が)頑張った成果や約束を果たす会社の姿を見せることができたと思っています。
うまくいかない部分もありましたが、生産の安定化などを図ってきました。同時にレジリエント(強靭〈きょうじん〉で柔軟な状態)にも重きを置きました。事前にシナリオを立て準備をしていても想定外のことが必ず起こります。起こった時に素早く対応できる会社を志向しました。
――26年度が始まっています。
事業環境の予想はやめています。事業環境悪化の影響を受けるのはどこも同じです。竹のようなしなやかさを持ち、倒れても起き上がることが大切です。新型コロナウイルス感染症で学びましたが、誰も考えていないことが起こり得ます。何が起こってもすぐに対策が打てる臨戦体制を整えておくことが求められます。
今は従来型のBCP(事業継続計画)ではなく、オールハザード型のBCPが注目されています。従来は地震を軸に被災シナリオを書いていましたが、地震以外の水害、感染症などを含む非常事態も対象とします。サプライチェーンもオールハザード型のBCPが必要です。
――今年度はどのような方向で進んでいきますか。
先の2年間でポートフォリオを整理して戦う形の構築と基礎収益力の回復に取り組みました。ポートフォリオ改革は完了していませんが、帝人フロンティアと旭化成アドバンスの統合を含めて方向性は示せたと思います。基礎収益力も事業利益で計画通り着地できます。V字回復とは言えませんが、底を打ちしっかりと跳ねました。
その上で大きな方向性は二つです。マテリアルは、素材単品の力で利益が稼げる時代ではないと認識し、帝人フロンティア型を志向していきます。自分たちで作った製品はもちろん、外部からも調達・提供して顧客に喜んでもらうのが帝人フロンティア型です。マテリアル全体で変化していきます。
もう一つはヘルスケアです。本当の意味で在宅医療を支えるサービスの提供、先ほどお話しした訪問型在宅医療の取り組みを進めていきます。
――帝人フロンティアと旭化成アドバンスの統合新会社は。
旭化成アドバンスは、帝人フロンティアが持っていないナイロン、キュプラ繊維「ベンベルグ」を持っています。両社の強みが重ならないのが特徴と言え、クロスセルだけもシナジーが発揮できると思っています。30年ごろに売上収益5千億円が目標ですが、必ず達成できると信じています。
〈私のちょっとしたストレス解消法/朝のライト文芸〉
以前は夜遅くまで仕事をすることが多かったという内川さんだが、今は午後10時30分までと決めている。就寝時間も早くなり、毎朝午前4時30分に目が覚める。会社に出掛けるまでの余裕のある時間に読んでいるのがライト文芸だ。「異世界転生もの」などを30分から1時間ほど読むのが「仕事のことを忘れる良い方法になっている」。7時ごろに出勤するとまだ誰もおらず、社長室でJ―POPを聴きながらのんびり仕事をする。「このサイクルがストレス解消になっている」と言う。
【略歴】
うちかわ・あきもと 1990年帝人入社、2017年帝人グループ執行役員マテリアル事業統轄補佐兼繊維・製品事業グループ長付、20年同複合成形材料事業本部長、21年4月帝人グループ常務執行役員兼マテリアル事業統轄、同年6月取締役常務執行役員などを経て、22年4月代表取締役社長執行役員





