2026年春季総合特集(8)/Topインタビュー/クラレ 社長 川原 仁 氏/環境貢献へリソース投入/クラレの強さは変わらない

2026年04月20日 (月曜日)

 クラレは、今年6月に創立100周年の大きな節目を迎える。川原仁社長は「創業者の大原孫三郎氏から受け継いできたチャレンジ精神が現在のクラレを作っている」とし、「挑戦する心や粘り強い姿勢を次の100年につないでいく」と力を込める。2026年度(26年12月期)は、5カ年中期経営計画の最終年度に当たる。事業を取り巻く環境は厳しいが、主力のビニルアセテート事業でのグローバルサプライチェーンの維持、繊維事業でのポリエステル長繊維撤退など取り組む施策や課題は明確だ。次期中計を見据え、着実に歩を進める。

――26年度で最も期待している分野は。そこにどのように関わりますか。

 環境ソリューション分野が一つです。水や空気を浄化するという意味で環境に貢献している活性炭に期待しています。米国での飲料用水のPFAS(有機フッ素化合物)規制は、産業用水に波及し、欧州や日本でも広がるでしょう。今年度はリソースを投じて将来の成長・拡大のための礎を作ります。

 高いバリア性を持つ樹脂「エバール」にも期待しています。食品の包装材をはじめさまざまな分野で使われています。世界で需要は伸びていくと思っています。バイオ関連では、細胞培養担体を独自技術で開発しています。透明性や観察性、壊れにくいといった特徴があり、世界中の研究機関などにサンプルベースでの販売が進んでいます。

 高市政権が選定した17の戦略分野に上げられる半導体にも当社のさまざまな素材・製品が入っています。機能性レジンや耐熱性ポリアミド樹脂、排水などの製造プロセスで使用される膜などが一例です。周辺を含め、半導体分野に関わっていますので確実に伸ばします。

――事業に目を移します。現在の事業環境は。

 中東情勢が緊迫していますが、簡単には収束しないのではないかと危惧しています。ホルムズ海峡の封鎖で世界経済全体が先の読めない状況に陥っており、原料価格も急激に上昇しました。当社は12月期なのですが、第1四半期と第2四半期の前提条件が計画策定時とは異なりますので、想定通りにいかないのは間違いないでしょう。

 政府は、石油を確保しているとアナウンスしています。量の部分はある程度確保できていても、質は分かりません。コストの問題も残っています。石油だけでなく、中間製品の問題もあります。既にサプライチェーンが棄損されているともいわれます。日本だけに石油があっても駄目な状況です。

 毎日のように状況が変わり、今後をシミュレーションすることは容易ではありません。ホルムズ海峡の封鎖がどのようになるのかは全く分かりませんし、時期にもよるのでしょうが、海峡の封鎖が解かれた後も影響が第3四半期や年内いっぱいまで続く可能性があります。

――元々はどのような想定だったのですか。

 25年度は、イソプレンケミカル事業とエラストマー事業で大きな減損を計上しました。それ以外にも事業の縮小・撤退を行うなど、ポートフォリオ高度化の過渡期でした。26年度は、各国の貿易政策も落ち着き、後半から持ち直すと予想していました。

 その前提を見直さざるを得なくなりました。ただ、クラレの強さは変わっていません。主力のビニルアセテートは素材・製品力、事業力、オペレーション力で強さを維持しています。活性炭はPFAS規制で需要が拡大途上です。収益性が高いメディカルでは、歯科材料が欧米を中心に着実に伸びています。

――26年度は中計の最終年度です。1~3月期は。

 原料のショーテージはありましたが、製品は在庫を確保しています。このため販売数量に関してはそれほど大きな影響は出ていません。一方で、主原料を生産する川上企業の稼働率低下、副原料調達難に起因する稼働率の低下が見られます。販売を含めて大きな影響が出るのは4月以降だと考えています。

 繊維も同じような状況にあります。主原料、副原料はタイトな状況で価格も上昇しています。今年度でポリエステル長繊維の生産終了を公表していますが、生産の調整に苦慮しています。他の繊維素材も値上げの実施またはその準備を進めています。

――進めていく施策は。

 中計の施策が仕上げとしてしっかりとできているかになります。業績面では、24年度までは中計を超過達成したのですが、25年度は米関税とイソプレンケミカル事業の減損もあって落ち込みました。26年度はリカバリーしますが、上昇修正した目標の到達は厳しい状況にあります。

 ただ、ビニルアセテート関連はグローバルなサプライチェーンを維持し、さらなる高付加価値化を進めていきます。繊維関連では、クラレトレーディングが顧客との強い取り組みを軸に縫製ビジネスの維持・拡大を目指します。人工皮革「クラリーノ」は、苦戦していたラグジュアリー用途が部分的に回復しています。

――6月に創立100周年を迎えます。

 当時最先端だったレーヨンから始まり、戦後には国産初の合繊である「ビニロン」を事業化するなど、さまざまなことに粘り強く挑戦してきました。一方でレーヨンや乾式不織布の撤退などもあり、決して楽な100年ではなかったと思います。

 創業者の大原孫三郎氏から連綿と受け継いできたチャレンジ精神が今のクラレを作っています。挑戦する心や粘り強い姿勢は大切です。「世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる」という使命は、これからの100年にもつないでいきたいと思っています。

〈私のちょっとしたストレス解消法/蓄積しないように〉

 川原さんは「ストレスを蓄積しないことが大切」と話す。ストレスを感じるのは仕方がないとし、「それをため込んで積算していくと何か一つの事柄で解消するのは難しくなる。その都度のリセットが良い」とする。川原さん自身は、「散歩のようなもの」とするゴルフを含め、週末に時間がある時は歩きに出掛け、今のところはストレスに対処できている。仕事のことを考えなくても良い場合は(仕事を)忘れるようにしているが、「それができるケースはそれほど多くない」と笑う。

【略歴】

 かわはら・ひとし 1984年クラレ入社。2010年樹脂カンパニー企画管理部長、16年執行役員、18年常務執行役員ビニルアセテート樹脂カンパニー長、19年3月取締役などを経て、21年1月代表取締役社長就任