特集 コットンの日(2)/綿を極める/機能と循環で新次元へ
2026年05月08日 (金曜日)
天然素材ならではの心地よさで支持を集める綿素材が、新たな価値を見せている。紡績各社は、綿花産地との信頼関係や備蓄機能を生かして高品質な綿糸の安定供給を支えながら、機能加工やリサイクル技術の活用も進める。環境対応と高付加価値化を両立し、綿素材の魅力をさらに高めている。
〈綿花備蓄が支える独自の糸作り〉
綿花は通常、コンテナ単位で輸入するため、最低でも20㌧から手配する必要がある。国内紡績が多彩な綿花を使い分け、試作や別注に対応できるのは、綿花商社や紡績各社が国内で原料を備蓄しているからだ。こうした綿花の備蓄機能が日本のモノ作りを支えている。
日本に残る数少ない綿花商社の山忠棉業(大阪府貝塚市)は、自社倉庫を活用した綿花備蓄と、国内唯一の「1俵からの小口出荷」を強みに原料調達を支える。貝塚市に2万俵を保管できる自社倉庫を備え、米綿や豪州綿に加え、ギザ96やタンギス、スビンなど常時約10種類を備蓄する。
こうした備蓄機能は、グループ会社の山忠紡績(同岸和田市)との連携が支える。デニム向け太番手糸を生産する同社で綿花を使用できるため、在庫リスクを抑えながら小口出荷にも対応できる。
仕入れた綿花は山忠紡績で実際に紡績し、工程での扱いやすさや品質面を確かめる。綿は天然繊維のため、天候や栽培状況によって年ごとに品質や収穫量が変動しやすく、安定した品質の綿花を届けるには、産地に直接足を運んで現地の状況を見極め、綿密に情報をやり取りすることが欠かせない。そうして得た産地情報に、グループ内で実際に使用した際の評価を重ね、次の調達や顧客提案の精度を高めている。
紡績企業が自社で持つ綿花の備蓄も、独自のモノ作りを加速させる。新内外綿(大阪市中央区)は、スビンやオーガニックなど多彩な綿花を取り扱い、近年増え続ける「原料からこだわる」別注糸の需要に応える。20㌔の小ロットから本番ラインで試作を行うことで量産時の再現性を高め、高度な差別化糸の開発を後押しする。
別注比率が7割を超える旭紡績(大阪府泉南市)も、豊富な綿花のラインアップを強みに顧客の細かな要望に応える。オーガニック綿でもインド産やトルコ産を選べるなど、多彩な綿花の中から最適な原料を選び、コンパクトやオープンエンド紡績などの手法を組み合わせてオリジナル糸を生み出している。
〈企業価値を高める国際認証〉
環境配慮だけでなく、人権や労働などの基準も含む国際的なオーガニック認証「GOTS」は、欧州などに向けた海外ビジネスで重要性を増している。オーガニック綿の使用証明にとどまらず、企業としての信頼性を示す基準としても注目され、GOTSのデータベースによると、国内の認証企業は70社近くに上る。
国内の紡績各社でも取得の動きが加速する。昨年はシキボウや近藤紡績所(名古屋市中区)が新たにGOTSを取得した。近藤紡績所は「オーガニックピマ」を用いた60番手や80番手などの細番手糸も展開しており、認証対応と合わせて提案力を高めている。
GOTS認証を追い風に国内向けオーガニック綿糸の販売も拡大している。山忠紡績は、国産デニム向けを中心にオーガニック綿糸などのSDGs(持続可能な開発目標)関連製品が「売上高の3割を占める」までに成長した。旭紡績でも「この3年でオーガニック糸の引き合いが2・5倍以上に増える」など、着実に需要を取り込んでいる。認証取得は、日本のモノ作りを海外へ広げる上で欠かせない基盤になりつつある。
〈綿花産地と築く信頼〉
綿は、産地や年によって繊度や繊維長、色などが変わるため、安定した品質の綿花を確保するには産地との信頼関係が欠かせない。長年築いてきた結び付きが安定供給を支えるとともに、綿花調達を通じた産地との関わりは支援活動にも広がっている。
長谷虎紡績(岐阜県羽島市)は、20年以上前から豪州の農場と直接契約を結び、豪州綿「HASE―1」を使用してきた。長年の取引を通じ、HASE―1と伝えるだけで、独自の品質規格値の綿花が安定して供給される強固な信頼関係を構築している。
山忠棉業は、世界でも貧しい国の一つとされるブルキナファソへの支援を続ける。同国産綿花を仕入れ、売り上げの一部を寄付することで現地のインフラ整備につなげてきた。2012年には武田忠治社長が日本ブルキナファソ友好協会の理事長に就き、同協会を通じて小学校15校、ポンプ式深井戸51基、公衆トイレ62基を建設した。綿花調達を通じた産地との関わりが現地支援にもつながっている。
〈「COTTON DAY2026」開催〉
日本紡績協会と日本綿業振興会は、15日にグランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)で「COTTON DAY2026(第31回コットンの日)」を開く。コットンの日は、国産綿糸の振興を目的に始まった取り組みで、今年で31年目を迎える。参加者は紡績業界にとどまらず、綿花、糸、生地の商社やアパレル、小売りなどサプライチェーン全体に広がっており、レセプションも含めて交流の場として機能してきた。
イベントは午後1時に開会し、第1部の冒頭で日本紡績協会の有地邦彦会長(大和紡績会長)が開会あいさつに立つ。続いて、「服装は重要?―消費者の声」(仮題)「アパレル・繊維産業に求められるESG開示」(仮題)などをテーマに四つの講演を予定する。
第1部では、コットンの魅力を体現する著名人を表彰する「コットン・アワード」授賞式も行う。昨年はタレントやモデルとして活躍するゆうちゃみさんに授与された。
近年は欧州規制やESG開示、二酸化炭素(CO2)排出量算定など、「商売の土台に乗るための備え」としての講演も増えている。綿花業界を取り巻く環境変化への理解を深めるとともに、コットンの価値や魅力の認知拡大につなげる。
〈可能性広げる機能加工と複合糸〉
綿の快適な風合いを生かしながら、高度な機能を付与する技術開発が進んでいる。クラボウの原綿改質技術を用いた機能糸「ネイテック」シリーズは、天然素材の着心地を保ちながら吸湿発熱性や消臭性を付与し、洗濯を繰り返しても優れた性能が持続する。さらなる機能の追加に向けた開発にも力を注ぐ。
大和紡績の「ミラクルドライ」は、綿100%でありながら合成繊維並みの優れた速乾性を発揮する。その進化版となる「プレミア」は、紡績と加工技術を一段と追求し、吸水速乾性やストレッチ性、寸法安定性を高めながら、綿本来の肌触りのよさを両立させた。
後加工では、日清紡テキスタイルが消臭加工「ナノフレッシュ」シリーズを打ち出した。綿などのセルロース繊維を含む生地に後加工で消臭剤を化学結合させることで、高い洗濯耐久性を実現している。
ポリエステルを綿でカバーした2層構造糸の展開も広がる。綿ならではの肌触りを持ちながら、強度や吸水速乾性を備えるため、ユニフォームやスポーツ分野などで採用が進む。
シキボウは、芯にポリエステル短繊維、鞘に綿を配した「ツーエース」や「クイックドライコットン」の展開に「パルパー」を加え、複合糸のラインアップを広げた。
綾部紡績(京都府綾部市)は、多様な芯糸を綿で包む独自のカバーリング技術に優れ、ポリエステルや麻、ウールなどを組み合わせることで高付加価値な差別化糸を生み出している。複合技術を生かし、綿素材の新たな可能性を広げる。
〈リサイクルで進む循環型社会〉
環境配慮への意識が高まる中、綿製品や端材を回収して再び糸に戻すリサイクルの取り組みが加速している。日本紡績協会は、「リサイクルコットン紡績糸」の日本産業規格(JIS)化の検討を約2年間重ね、2026年度中の制定に向けて調整を進めている。リサイクル原料とバージン原料の識別が難しいという技術的課題があるため、国内でトレーサビリティーを確保し、「供給者適合宣言書」を添付する自己申告型の仕組みを想定する。将来的には国際標準化機構(ISO)化も見据え、リサイクル繊維の品質と信頼性を高める。
各社の技術開発も進む。東洋紡せんいは、従来の反毛手法とは異なる新しい開繊方法を導入し、繊維長を保ちながら高品位なリサイクル綿糸を紡績する技術を確立した。
新内外綿の廃棄繊維を活用したアップサイクルシステム「彩生」(さいせい)は、提供された生地を顧客専用に反毛して再製品化する“マンツーマン”方式が支持を集めている。昨年開発した反毛わた混糸の定番化も決めた。
シキボウは廃棄される綿を微細なパウダー状に加工する量産体制を、シキボウ江南(愛知県江南市)に構築した。パウダーを樹脂に練り込んだバイオマスペレット「コットレジン」や、臭気対策剤「デオマジック」と組み合わせたパウダー型消臭剤などへ展開し、循環型社会の実現を後押しする。
〈日本紡績協会/幅広い役割で業界の発展支える〉
日本紡績協会は、行政や関係機関との連携、業界情報の共有などを通じて日本の紡績業を支えている。2025年度には会則を見直し、4月1日付で2社が加わり会員数は17社となった。人材育成や環境対応、海外情報の収集にも取り組み、業界の共通課題に向き合っている。
協会内には商標や特許、労務、技術など分野別の委員会を置く。委員会活動に加え、異業種の工場見学や外部講師を招いたセミナーも開き、「会員同士の横のつながりを深める機会」につなげている。日本化学繊維協会ともセミナーへの相互参加などを通じて連携を広げ、繊維業界の活性化を促す。
人材育成では、関連組織の日本綿業技術・経済研究所が紡績や織布運転職種の技能試験を担う。外国人技能評価試験では実技試験を行い、初級、専門級、上級の区分を設ける。技術者の減少が進む中、試験委員の人手不足という課題を抱えるものの、受験者数は増加傾向にある。多様な人材の活躍に向け、女性活躍推進を後押しするセミナーなどにも力を入れる。
綿製品の認知拡大に向けて、「ジャパン・コットン・マーク」の普及活動も推進する。中国人を中心とした訪日客に「日本で管理された品質の良い商品」として認知されており、こうした信頼感が購買を後押しするという。
海外情報の収集にも力を入れ、4月には豪州の綿花畑を視察した。海外セミナーや視察で得た情報は報告書にまとめて会員企業に共有し、原料動向や海外市場への理解を深めることで、業界のさらなる発展に寄与する。
〈消費者の意識調査/天然繊維の支持高まる〉
日本綿業振興会とコットン・インコーポレイテッドが共同で実施した「グローバル・ライフスタイル・モニター調査」によると、日本の消費者の天然繊維への支持の強さが明らかになった。1月に発表した調査結果で、日本では1001人が回答した。
環境に優しい素材としての認知では、綿が76%で最も高く、麻69%、羊毛61%を上回った。天然繊維の衣料品に「高い価格を払ってもよい」とする回答も35%に達した。
一方、サステイナビリティーを意識して衣料品の購入行動を変えた人は13%にとどまり、サステな衣料品だけを購入する人も4%だった。綿は環境配慮素材として広く認知されているが、その評価はまだ実際の購買に結び付いていない。こうした消費者意識を購買行動につなげられるかが、今後の消費拡大の鍵を握る。





