世界市場に挑む日本企業へ五つの提言/ダイナミックオーナーズ会でサンコロナ小田の小田外喜夫社長とデビス・スービ氏が講演

2026年05月20日 (水曜日)

 関西を中心とした企業の経営者が集まり学びを深める「ダイナミックオーナーズ会」。昨年11月に開かれた定例会で、差別化した糸加工を強みにブライダル、カーテン、ファッション向けに糸・生地・製品を供給するサンコロナ小田(大阪市中央区)の小田外喜夫社長と、輸出特化型生地商社のトップとして長年にわたり海外ブランドに生地を売り歩いてきたデビス・スービ氏が講演会に登壇した。スービ氏は現在、サンコロナ小田と業務委託契約を結び、その知見を多方面で発揮している。

〈小田社長〉

 世界市場で生き残っていくために、当社は製販両面でグローバルに事業を展開しています。「人生成功の鍵は目標設定にある」という、米国の能力開発・モチベーション向上プログラム、SMI(サクセス・モチベーション・インターナショナル)の考え方があります。この考え方が当社の源流にあります。

 私の生まれは石川県小松市で、繊維の産地です。北陸産地は雪や雨が多く、湿度が高いため糸作りに適しています。そこで成長してきた糸加工の技術を誇りに「世界へ」というスローガンを標ぼうし、素材から最終製品までの一貫したグローバル展開を進めてきました。

 主要事業はインテリア分野で売上高約100億円、ファッション分野で約20億円の事業規模があります。一方、フレックスカーボンという炭素繊維製品も手掛けています。鉄の10倍強く、軽さは5分の1という特性を持っており、将来の核となる事業として開発、提案を進めています。

 社員は国内で300人、海外で300人。インテリアとファッション、そこに炭素繊維を加えていく構想です。糸加工技術に強みがあり、協力工場は国内外に100社ほどあります。糸の加工技術では世界でナンバーワンという自負を持っています。

 450㌔、一本の糸も切れないように髪の毛3分の1の細さの糸が供給できます。国内だけでなく中国やベトナムにも糸加工の工場があり、生産拠点は全部で11カ所あります。

 これからは真の意味でグローバル展開が生き残りや成長の鍵を握ると考えています。昔、東レの前田勝之助さんが、「出口を抑えないとビジネスは成功しない」「まずは川下を抑えろ」と提唱されていました。国内市場は縮小していきますから、今の出口は海外ということになります。

 海外に広く深い知見を持つデビス・スービさんと業務委託契約を結んだのはこの考えに基づいたものです。

〈デビス・スービ氏〉

 まずは、日本には、精密さ、創造性、そしてモノ作りへの深い敬意という素晴らしい強みがあることを認識すべきです。しかし世界のビジネスシーンを見渡すと、こんな疑問が浮かびます。「なぜ日本の企業はこれほどの優れた技術と品質を持ちながら海外での成功が少ないのか――」

 韓国や欧州、さらには新興国のブランドが次々と世界で注目を集めています。一方で日本企業の多くは「おとなしい優等生」のままで、世界の舞台において目立たない存在です。この状況をどう変えていけるのか。どうすれば海外販売を本質的に拡大できるのか。他国をまねるのではなく、日本の価値から生まれる新しいグローバルスタンダードをどう築いていくべきか。その方法を皆さまと一緒に考えていきたいと思います。

〈その1/最初の一歩/マインドセットを変える〉

 海外展開の第一歩は、物流でも商品でもありません。それは「意識、考え方の転換」です。

 日本企業は長年、国内市場での完璧さを追求してきました。品質、工程、細部へのこだわり――。その姿勢が日本の信頼を築き、私たちを強くしてきました。そしてこれら全てが世界に誇れるものです。

 しかし、グローバル市場では「完璧さ」だけでは勝てません。必要なのは、スピード、柔軟性、そして発信力です。

 私は以前、SMIの思想と出会ったとき、「成長とは、今の限界を超えたところにある」という言葉に強く共感しました。今、日本企業が超えるべき“限界”は、世界市場そのものです。

 「この商品をどうやって海外で売るか?」ではなく、「この商品で世界中の人々の生活をどう豊かにできるか?」「この商品を手にした人を魅了し、どう感動させられるか」。その問いに変えることが大切です。単にモノを動かすのではなく、心を動かす。企業が「人の幸せ」を目標とした時、自然と海外展開は戦略ではなく、使命に変わります。

 「成長とは、自分の限界を超える目標を持つことから始まる」――これが、その教えです。海外進出とは、単に製品を輸出することではありません。価値観を輸出することなのです。

〈その2/現地市場の理解/売る前にまず聞く〉

 次のステップは、現地市場を深く理解することです。多くの日本企業が海外で苦戦する理由は、製品の弱さではありません。思い込みです。

 「日本で成功したのだから、どこでも通用するはず」などと考えがちですが、成功は自動的には海外に移りません。生活習慣も、価値観も、感情のツボも、国によって全く違います。

 例を挙げましょう。ユニクロが海外進出したとき、単に「日本のファッション」を輸出したのではありません。ロンドンの人々の重ね着の仕方、上海の湿度への対応、アメリカ人が考える「快適さ」――。それらを徹底的に観察しました。その結果生まれたのが、「ヒートテック」や「エアリズム」です。国内の誇りではなく、世界の現実から生まれた商品なのです。

 だから私はこう言います。「まず製品を輸出するのではなく、現地の“声”を輸入せよ」と。消費者だけではありません。販売代理店、リテーラー、インフルエンサー、メディア――。それぞれが「現地市場のパズルの一片」を持っています。

 成長の早い企業は、文化の違いを尊重します。デザインも、マーケティングも、価格設定も、全てを現地に合わせて再構築しているのです。世界を「一つの市場」としてではなく、「無数の現地の市場」として見るのです。

〈その3/ストーリー/品質を「感情」に変える〉

 次は、日本企業にとって最大の課題であるコミュニケーションです。

 日本の弱点は明らかに技術ではありません。「伝える力」なのです。私たちは正確に説明することは得意ですが、自分たちの強みを謙遜してしまう文化があります。でも、世界市場では相手を“感情に響く物語”で動かすことが必要です。

 例えば、Appleは新製品を発表するとき、「今回のバッテリーは20時間持ちます」とは言いません。「朝から夜まで、あなたの一日を止めない」と言うのです。これが感情のブリッジです。

 海外で自社を紹介するとき、「何を作っているか」ではなく、「なぜそれが人々にとって大切なのか」を語りましょう。もし日本の生地を紹介するなら、「これは高品質な生地です」とは言わないでください。現地の人には響きません。

 「この生地は200年以上受け継がれてきた伝統の技によって織り上げられています」と言うべきです。

 一本一本の糸には、単なる素材としての価値だけでなく、職人の「誠実な心」と「確かな技」が込められています。この生地は、単なる布ではなく、職人たちの誇りと歴史が織り込まれた「文化の結晶」であり、大量生産では生み出せない本物のクオリティーがあるという発信をするべきなのです。

 ストーリーテリングは品質を代替するものではありません。“相手に新しい発見、感動を与え、魅了し、価値を納得させる”技です。そしてそこから「信頼」を築きます。

 かつて私の恩師から言われた言葉があります。「自分の製品を、誇りを持ち人々に語れないなら、君の代わりに誰かが出てきて、それをうまく語り、全てを持っていってしまうでしょう」

 伝えることは傲慢(ごうまん)ではない。それは自分の仕事への敬意であり、世界の人々への敬意です。

〈その4/スピードとパートナーシップ/誠実さ保ち速く動く〉

 次に必要なのはスピード、そしてコラボレーションです。

 今のグローバル市場はかつてない速さで動いています。「完璧にしてから出す」という日本流のアプローチでは、チャンスを逃してしまう時代です。

 これからは“プロトタイプ思考”が求められます。早く出す。早く学ぶ。すぐ改善する。これは軽率ではなく、機敏さです。お客さまにもパートナーにも、「この会社は反応がよく、やり手だ」と感じてもらえます。

 また、海外で成功する企業は、例外なくパートナーシップを大切にしています。現地の販売代理店は文化の壁を理解し、インフルエンサーはブランドの魅力を言葉と映像に変えて発信します。時には競合相手でさえ、仲間になったり教育や啓発になります。

 コラボすることはリスクを減らし、学びを早め、信頼を築けるのです。そして、日本企業がもっと心を開き、世界と、現地と、今以上にコラボを拡大したならば、きっと想像以上の結果を生むことでしょう。

 知っておいてください。世界は、日本と組みたがっているのです。私たちの誠実さ、信頼性、そして規律と創造性のバランス、それが信頼の源です。

 ですから、慎重さの殻に閉じこもるのではなく、海外にパートナーを作り、力を合わせ、世界を相手に未来を作っていきましょう。

〈その5/バランス/日本魂を守り世界に適応〉

 最後に、一番繊細で重要なテーマ、バランスです。

 海外に出るとき、私たちは「日本らしさ」を失ってはいけません。“モノ作りの精神”、完璧を追う姿勢、細部への心使い、そして誇り。

 これらはそれこそ世界に誇れる私たちの資産です。しかし、伝統に固執しすぎると、変化に遅れてしまいます。逆に、海外トレンドを盲目的に追えば、アイデンティティーを失います。

 大切なのはバランスを取ること。日本の魂×世界への適応力。

 例えばトヨタは「安定」と「改善」を両立させています。東レは日本の素材技術とユニクロのグローバル・ビジョンを結びつけました。この調和こそ、真のグローバル成功の形です。

 世界は、米国や欧州のコピーを求めていません。日本の良さを、現代の形で表現することを求めています。

 私たちはその誇り高きアンバサダーにならなければならないのです。

 これら五つを実践すれば、私たちは単に製品を海外に売るのではなく、日本の価値そのもの、誠実さ、職人魂、思いやり――を世界に届けることができます。その時、私たちの企業はただ成長するだけでなく、世界を感動させる存在になります。

 海外展開とは、新しい市場を広げることだけを指すわけではありません。それは、自分たち自身の可能性を広げることなのです。

(おわり)