モノ作りの行方~中東危機揺らぐ供給網~①

2026年05月25日 (月曜日)

前提条件が一変

 中東情勢の悪化によってコストアップや供給不安定化が強まっている。影響や対応を追った。

 2月28日にイスラエルと米国がイランを攻撃し、それに対しイランが湾岸諸国を攻撃したことで始まったペルシャ湾岸地域の混乱は、イランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖という極めて深刻な事態に至った。ホルムズ海峡は中東地域からの原油輸送の海上交通路の要衝であり、ここが封鎖されたことで中東地域からの原油供給が大幅に制限されることになる。

 中東情勢悪化以降、原油価格が高騰する。指標となるニューヨーク・マーカンタイル取引所のWTI原油先物価格はイラン情勢悪化までは1バレル=60㌦前後だったものが3月に入ると急騰し、現在は100㌦前後で推移する。原油高騰によって石油化学工業の主原料であるナフサの価格も高騰した。

 価格高騰に加えて、原油・ナフサなどの供給が物理的に制限されていることが問題を難しくしている。日本の主要石油化学メーカーはエチレンなど基礎化学品の減産に踏み切った。これに合わせて基礎化学品を原料とする樹脂やフィルム、そして合成繊維の供給不安も高まる。

 合繊メーカー各社によると、6月までの原料は既に確保できているとする。その後に関しては日本の石油元売りや石化企業がどこまで原油・ナフサの中東地域以外からの代替供給を確保できるかにかかっている。日本化学繊維協会の内川哲茂会長(帝人社長)は「政府と協力しながら、化繊業界としても目詰まりを起こさないように安定供給に全力を挙げる」と話す。

 ただ、原料を確保したとしても、原料価格上昇による値上げは避けられない。東レは緊急措置として機能化成品、炭素繊維複合材料、繊維など石化原料を使う一部製品に対して原燃料価格の上昇分を価格に上乗せするサーチャージ的価格運用を導入するなど思い切った手を打った。さらにナイロン6とナイロン66の長・短繊維、ナイロンBCF糸、ポリエステルの長・短繊維と長繊維不織布、ポリプロピレン長繊維不織布、アクリル短繊維も4月出荷分から緊急値上げに踏み切った。

 帝人フロンティア、クラレ、旭化成、東洋紡など合繊各社も相次いで各種合繊の大幅な値上げを実施し、綿紡績や不織布メーカーも合繊を使用している製品を立て続けに値上げした。また、原油・ナフサ高騰と供給不足は世界的な問題のため、影響は輸入糸にも及ぶ。蝶理によると、韓国・台湾・中国の合繊メーカーも合繊糸を値上げしており、輸入糸の価格も大きく上昇している。

 現在の状況に対して東洋紡の竹内郁夫社長は「繊維の価格体系が根本的に変化した」と指摘し、同社の黒木忠雄常務執行役員繊維本部長も「一種のフォースマジュール(不可抗力)と位置付け、需要家に値上げを理解してもらうしかない」と話す。

 従来とは全く異なる原料価格体系が形成されつつあり、モノ作りの前提条件は一変した。その中で日本のモノ作りをどうやって維持していくのか。繊維業界が困難な課題に直面することになる。