特集 浅野撚糸「ITよりITO」(1)/撚糸から世界を変える

2026年05月25日 (月曜日)

 浅野撚糸本社(岐阜県安八町)や双葉事業所(福島県双葉町)を訪ねると「ITよりITO」というフレーズを見かける。どんなに時代や情報技術が進化しても、撚糸の持つ可能性はそれに負けない未来を創造する――という解釈が適切だろうか。浅野雅己社長自らが「非常識な企業」と評する浅野撚糸は、どのような未来をITOで撚り合わせるか。世界に打ち出すため、協業を重ねながらさまざまな戦略を推し進める。

〈スタイレムと戦略的連携結ぶ/撚糸・テキスタイルで世界へ〉

 浅野撚糸とスタイレム瀧定大阪(大阪市浪速区)は、独自撚糸やファッション向け生地の開発を軸とする戦略的パートナーシップを締結した。共同開発による生地ブランド「SORAITO」(ソライト)を軸に、国内の有力アパレルやブランドへの販売を進めている。海外のハイメゾンに向けても訴求を強める。

 「オールジャパンで、世界に通じるモノ作り」を合言葉に、ファッション向け生地の供給と、それに適合した独自撚糸の開発を進める。浅野撚糸はタオル向けを主とした撚糸供給に関するパートナーシップを5社と結んだが、今回の戦略的パートナーシップ締結は大きく側面が異なる。独自に開発した撚糸の供給をはじめ、ファッション向け素材・製品の開発を通じて、国内外市場への開拓を推進するといった包括的な内容となる。

 浅野撚糸は独自技術による、かさ高性とソフトな手触りを持つ特注の撚糸を供給する。スタイレム瀧定大阪は原料から組み立てる企画開発力と、市場を的確に分析する情報力を生かし、国内の生地作りや染色整理企業の技術と関係性を駆使する。

 撚糸と生地販売で国内トップクラスとなる両社の強みを結集。オリジナル生地のソライトを備蓄販売しながら、アパレル製品のOEM受託や製品展開も進める。早ければ9月に製品の販売が始まる。

 パートナーシップの発表は浅野撚糸・双葉事業所で行われた。東日本大震災で甚大な被害に見舞われた双葉町で生産した撚糸を使用し、復興への思いも込められる。撚り数やスチームセットを含めた撚糸の製造工程で、双葉町の気候や環境が適していることもあり、その点も訴求に加える。

 浅野雅己社長は「スタイレムさんとタッグを組むという、夢のような日が現実となった」と感無量な表情で話した。パートナーシップ締結について「この組み方は間違いなく日本の繊維産業を刺激する。日本の繊維産業が世界に伍して戦えることを証明したい」と続けた。

 スタイレム瀧定大阪の瀧隆太社長は「浅野撚糸が双葉町で大きな撚糸工場を運営することは、とんでもない挑戦だ」と敬意を表した。今後は「オールジャパンで技術力を結集し、世界に通じる高付加価値な商材として販売していきたい」と思いを表した。

〈「SORAITO」/国内繊維加工技術を結集〉

 浅野撚糸とスタイレム瀧定大阪が共同開発する生地「SORAITO」(ソライト)シリーズは、国内繊維産地の製織、編み立て、染色整理の各工程で優れた技術を生かして作られる。ウール、綿、キュプラ、ポリエステル短繊維を中心に使った生地の備蓄販売からスタートする。ソライトを使った製品での納品要望もあり、既にOEM案件を抱えている。

 ソライトは綿糸使いで、天竺、ミニ裏毛、パイルといった4種類の編み地をそろえる。いずれも和歌山県の企業が編み立てを行う。これとは別に細番手のメリノウールを撚糸加工した糸使いのリブや天竺の開発も進めている。ウールの編み地も販売先から具体的な要望が出ているため、開発を急ぐ。

 ソライトは編み地だけでなく、織物の開発・販売も進める。製織は綿織物の産地として知られる、泉州や遠州の企業を中心に生産依頼する。先染めの織物を得意とする、播州での生産も視野に入れる。

 ソライトには特殊撚糸「スーパーゼロ」の製造技術を生かしたオリジナル糸を使用する。撚糸はいずれも、かさ高性を付与しつつ、アパレル用途に向く耐久性や抗ピリング性を持つように開発された。

 開発を主導するスタイレム瀧定大阪の金島一裕副部長は「妻がエアーかおるを愛用していて、ふわふわとした肌触りや滑らかな風合いに驚いた」と開発の原点について説明する。今後はファッション向けを中心に、スポーツの要素を融合させた分野への販売も進める。「生地の品種や製品での納入実績を増やし、将来的には当社を代表する生地シリーズに育てたい」(金島副部長)と期待を込める。