中韓メガシティーに挑む~ゴールドウインブランドの現在地~(後)
2026年05月28日 (木曜日)
高速トレンドの影響かわす
ソウル市内随一の高級感と最先端のトレンドが交錯する江南(カンナム)区中心部の島山(トサン)エリア。数々のラグジュアリーブランドが軒を連ねるこの地に、今年2月、ゴールドウインのグローバル旗艦店「ゴールドウイン ソウル」がオープンした。店舗面積延べ574平方㍍。1、2階を売り場とし、日本の美意識とミニマリズムを体現する洗練された空間が広がっている。立ち上がりは上々だ。
韓国市場は、ゴールドウインにとって長年の歴史を持つ重要な拠点でもある。1992年に現地のヤングワン、伊藤忠商事との3社合弁で事業を開始。特に97年からの「ザ・ノース・フェイス」(TNF)ブランドの展開で大成功を収めた。2013年には合弁社名をヤングワンアウトドアに変更している。
ゴールドウインブランドの韓国市場への展開では、24年にヤングワンホールディングスと新たな合弁会社「ゴールドウインコリア」を設立した。TNF事業を担うヤングワンアウトドアとのすみ分けを図るためだ。ゴールドウインの出資比率は60%で韓国内での同ブランド展開を主導する。
「ゴールドウイン500」プロジェクト完遂に向けて、韓国市場は年平均成長率(CAGR)29・0%という高い伸びを期待される戦略的重点地域である。この市場をいかに攻略するのか。現地で陣頭指揮を執るゴールドウインコリアの木村直樹社長は、真新しいソウル店のフロアを見渡しながらこう語る。「ソウル店は単なる販売拠点ではない。アジア、ひいては世界戦略の旗艦店として、ブランドの哲学と世界観を体現し、発信する極めて重要な場だ」
ゴールドウインは、スキーウエアで培った機能性の高いパターン設計や素材開発力を武器に、パフォーマンスからライフスタイルまで幅広いアパレルアイテムを展開しており、ファッション性との融合を加え訴求していく点は韓国においても同様だ。ただ、韓国のアパレル市場は移り変わりが非常に早く、なおかつトレンドの寿命が短い。また、インフルエンサーを通じたスターマーケティングが強力な威力を発揮し、同質化傾向が強いという特徴を持つ。
「韓国の市場反応が高速で瞬発力も利くことは事実だが、スターマーケティングには頼らない」と、木村社長は強調する。日本のファッション感度を注視しているクリエーター層を起点とし、自発的な着用が生まれる正統派のブランディングを目指すことで、一過性のブームではなく、品質と機能に裏打ちされた真のブランド価値を定着させる構えだ。
出店戦略においても、綿密なロードマップを描く。昨秋、韓国内で単館売上高トップの新世界百貨店江南店内に出店したのを皮切りに、百貨店や期間限定での展開を推進。2月に旗艦店となるソウル店オープンに至っている。
27~29年にかけては、ソウル市内で感度が高い人たちが集まる漢南洞(ハンナンドン)などを候補に直営2号店を検討。百貨店店舗は現在4カ所あるが、今秋冬にプラス2カ所、トータルで10~12カ所の出店を計画する。また、韓国ではライセンス事業が市場を席巻していることから、一部の商品で韓国の顧客に合わせるライセンス企画も検討しているという。設立3年目となる27年に会社としての黒字化を実現し、プロジェクト最終年度の33年3月期までに直営3号店を出店し、60億~80億円の売り上げ規模を目指している。
「先行するヤングワンとの合弁事業であるTNFは、既に韓国内の百貨店ほぼ全てに出店し、強固な基盤とネットワークを築いている」と、木村社長は自信をのぞかせる。TNF事業で培った現地ディベロッパーとの強力なパイプや店舗開発のノウハウは、ゴールドウインブランドの展開においても大きな追い風となるだろう。
経済産業省が繊維・ファッション産業の持続的成長のロードマップとして示した「2030年に向けた繊維産業の展望」(「繊維ビジョン」)では、国内アパレル産業においても優れた技術力に基づく高付加価値化と、積極的な海外市場の開拓が不可欠であると指摘する。イニシアチブが執れる自社ブランドで海外展開の道を開いたゴールドウインの戦略は、まさに日本の繊維産業の将来ビジョンを体現する試金石といえる。
(おわり)





