戦略眼 次の一手/東レ 常務執行役員 繊維事業本部長 西村 友伸 氏/暮らしを変えるGOUSEN/〝日本の繊維〟をルーツに

2026年07月10日 (金曜日)

 東レは今年、創立100周年を迎えた。2028年度(29年3月期)を最終年度とする新たな中期経営課題も今期からスタートし、次の100年に向けて歩みを速めている。そうした中で繊維事業も東レの主力事業としての存在感を一段と高めるべく、「Beyond GOUSEN,Change our Lives.」(素材を超える、GOUSENは暮らしを変える存在に)をスローガンに掲げた。4月に繊維事業本部長に就いた西村友伸常務執行役員に話を聞いた。

  ――繊維事業本部として新たなスローガンを掲げました。

 当社は今年、創立100周年を迎えました。そうしたタイミングで繊維事業本部としても将来に向けた指針を作りたいと考えており、各事業部門からの意見も集約し、5月に「Beyond GOUSEN,Change our Lives.」のスローガンを定めました。製品を作るだけの合繊ではなく、暮らしを変えるための〝GOUSEN〟が東レの繊維であり、素材の枠を超えて日常を幸せにする存在となることを目指すという考えを明確にしています。その上で三つの行動指針も策定しました。

 一つ目が「Be the Brand.」(私たちがブランドになる)。これまでも多くの素材ブランドを展開してきましたが、まだその良さを消費者に伝え切れていないという反省があります。そんな中で、吉田(東京都千代田区)さんのかばんブランド「ポーター」に当社の100%バイオ由来ナイロン繊維「エコディアN510」が採用され、製品の背景やモノ作りへのこだわりを動画で配信するなど消費者への発信を一緒になってやることで成果を上げた例もあります。こうした取り組みを他のアパレル・流通ともやっていきたい。

 二つ目は「Think Borderless.」(横断的に考えよう、価値を届けるために。)です。生産、販売、技術、開発の各部署の壁をなくし、開発から販売まで一貫で取り組む体制を強化します。ファイバー・産業資材、不織布・人工皮革、テキスタイル、グローバルSCMの4事業部門の枠も超えて、川上から川下までの領域を横断できる事業運営を推進します。さらにフィルムや樹脂・ケミカル、電子情報材料など各事業本部とも連携したい。幸いなことにそれぞれの事業本部長は同世代が多く、遠慮なく意見を言い合える関係にあります。これによって産業資材用途も自動車関連だけでなく、半導体やAI(人工知能)データセンター関連分野でも総合力を発揮し、繊維事業がリードできればと考えています。

 最後は「Global with Roots.」(世界を見据えよう、われわれのルーツと共に。)です。日本の繊維産業を大切にしたいという思いがあります。実際に産地では素晴らしいモノ作りが続けられており、日本でしかできない技術や産地とのつながりが当社の強みになっています。これをルーツとしてしっかりと位置付け、さらに世界に発信していこうというということです。〝メード・イン・ジャパン〟をルーツとして、〝メード・イン・グローバル〟を実現することが繊維事業の使命です。

  ――これまでもグローバルなサプライチェーンを構築してきました。

 中東情勢の悪化によって結果的にですが原料や素材の調達・供給力の面で中国の存在感が高まりました。そうした中で日本のモノ作りをどうするのかという問題がありますが、何も中国と対立する必要はありません。逆に活用するべきです。

 当社は既に中国に合繊長繊維織物製造子会社の東麗酒伊織染〈南通〉(TSD)などがありますが、新たに四川省達州市にもTSDの子会社として合繊長繊維織物の染色加工会社を設立することを決めました。まずは協力工場で委託生産した生機を自家で染色加工したテキスタイルの販売を担う形でスタートし、28年度にはフル稼働にする計画です。

 東レが染色加工を担うことで、TSDと同様に中国での高付加価値テキスタイルの生産・販売を拡大し、中国内需の取り込みも含めたサプライチェーンの拡充を進めます。中国でも各拠点が連携することで〝点〟ではなく〝面〟としてサプライチェーンを構築してきました。今回も、そうした〝面〟としてのサプライチェーン拡充が狙いです。

 インドネシアも引き続き重視します。短繊維織物を紡織加工一貫で供給する体制を生かさなければなりません。そのために一歩踏み込んだ構造改革も実行することになるでしょう。また、インドも注視しており、衣料品縫製やエアバッグ関連で重要性が増しました。

  ――今後の各事業の戦略は。

 テキスタイル事業は、複合紡糸技術「ナノデザイン」による商品を拡大します。特に現在の円安を考えれば、やはり輸出を伸ばしたい。スポーツ素材を中心に成果も上げていますが、加えて欧州でも猛暑が続いていることで、国内販売で実績のある暑さ対策の機能素材なども海外市場で可能性が高まりました。

 また、編み地の拡大もテーマです。ファイバー・産業資材事業は衣料用途でテキスタイル事業との連携による販売拡大を進め、産業資材はエアバッグ基布のグローバルな拡販を進めます。特にインドでの販売拡大に力を入れるほか、アフリカもチュニジアでのエアバッグ縫製の拡大を検討します。

 人工皮革・不織布事業は、人工皮革の「ウルトラスエード」と「アルカンターラ」のブランドコンセプトを明確にした上で、主力用途であるカーシートに加えて、他の用途の開拓にも力を入れます。そのためにはスエード調だけでなく銀付きタイプの提案も重要になります。不織布はポリプロピレンスパンボンドの構造改革を進めながら、適地生産体制を構築します。グローバルSCM事業は縫製品までの一貫型ビジネスが引き続き強みです。

 衣料に加えて、資材用途を伸ばすというのも繊維事業本部としての重要テーマ。特に需要増大が期待できる半導体やAIデータセンター関連での販売を拡大したい。既に極細繊維織物「トレシー」がAIデータセンターで使う光ファイバーのクリーニング材として採用されているなど実績もあります。ナノデザインを活用した原料による機能紙なども活躍の場が増えるはずです。

  ――繊維事業本部が目指す姿は。

 東レの繊維事業は生産・販売・技術・開発の距離が近いこと、それらを担う人材が豊富なことによる総合力が強み。そこで10月の「東京テキスタイルスコープ」(TTS)に大規模出展し、創立100周年を記念する意味も込めてファイバー、テキスタイル、そして東レ合繊クラスターの素材をまとめて紹介する総合提案を行います。やはり日本の繊維産業を大事にしたかったので、個展ではなく合同展に出展することで他の出展者にも波及することを期待しています。TTSを欧州のデザイナーが来たくなるような展示会に発展させていきたいですね。

 これからもプレーヤーとして日本の繊維産業をリードできる存在であり続けることが繊維事業本部の目指す姿。そのためには繊維事業本部として各事業部門が混ざり合い、融合することで新しい価値を創出することが欠かせません。当社は30年近傍に繊維事業の事業利益1千億円という目標を掲げていますから、現在はそのためのネタを仕込み、体力を付ける時期になります。屈伸しながらでも、最後には一気にジャンプできるようにしたいと思います。