繊維ニュース

紡績企業史研究会/職場新聞が語る紡績工の素顔/生の声浮かび上がらせる

2026年07月17日 (金曜日)

 紡績を中心とした産業史・企業史の研究者と繊維企業OBの有志が参加する紡績企業史研究会の例会がこのほど、綿業会館(大阪市中央区)で開かれた。今回は大阪産業労働資料館(エル・ライブラリー)の下久保恵子特別研究員が「資料紹介:辻保治資料(近江絹糸紡績労働組合関係資料)~職場新聞を中心にして~」、元福井県立大学教授の山路直人氏が「『期待外れと企業の成長』クラレのケース」をそれぞれ報告した。

 下久保氏は、1954年の近江絹糸人権争議後に近江絹糸紡績労働組合で始まったらくがき帳や職場新聞などに労働者が自由に文章を発表する「みんなで書く運動―らくがき運動」についての資料を紹介した。

 労組でらくがき運動の中心人物であった辻保治氏が残した資料がエル・ライブラリーに保管されており、資料の翻刻や分析を通じて、当時の紡績労働者、特に女性労働者の悩みや不満、遊びや恋愛など生の声を浮かび上がらせた。当時の労働現場の実態など会社側の公式資料だけでは分からない内容が多く含まれており、企業史・産業史研究だけでなく労働史やジェンダー研究の上でも貴重な資料となる。

 山路氏は、企業にとって新規事業が「期待外れ」に終わるとしても、そこから結果的に新たな事業の技術的蓄積やシーズ(新事業などの種)が生まれる構造をクラレのケーススタディーによって分析する。ビニロン繊維の衣料用途での普及失敗が後のポバールフィルム事業の成功につながる経緯などを分析した。

〈新刊紹介〉

 1954年に基本的人権の確立と労働条件の改善を掲げた近江絹糸紡績人権争議は労働組合側の歴史的勝利に終わった。争議後、労組は職場や寮に設置したらくがき帳や投書箱に集まって「らくがき」を素材に職場新聞を発行し、これを基に職場要求闘争が組織された。

 本書は、「らくがき運動」の中心人物であった辻保治氏が残し、現在はエル・ライブラリーが所蔵する近江絹糸紡績労働組合関係資料から、56年から58年にかけて彦根支部で発行された職場新聞6紙を完全翻刻・書籍化したもの。記事には詩や替え歌、つづり方、小説、漫画なども含み、仕事への意見や不満だけでなく恋や結婚の悩み、故郷への思いなど10代から20代前半の若者の率直な声があふれている。

 50年代の紡績労働の実態や社会・文化状況を映し出しており、労働運動史だけでなく産業史、企業史、技術史、文化史、ジェンダー研究の観点からも貴重な資料である。当時の労働者への聞き取りなどによる解題と脚注を施した。B5版並製本カバー装、396㌻。4950円。発行・大阪社会運動協会、販売・耕文社。

下久保恵子編・翻刻・解説『働く・闘う・恋・らくがき 近江絹糸紡績労働組合彦根支部職場新聞集1956―1958』