2026夏季総合特集Ⅱ(1)/部長インタビュー/旭化成
2026年07月29日 (水曜日)
〈本部長・部長インタビュー/キーパーソンが抱く情熱/変革の最前線に立つ〉
原燃料価格の高騰や中東情勢の緊迫化、サステイナビリティーへの対応、業界再編――。繊維・ファッション業界は今、大きな転換点を迎えている。そうした変化の最前線に立つ各社の本部長や部長は、事業全体のかじ取り役として現場を束ね、将来の成長戦略を描く責任を担う。今回取材した11人の言葉からは、厳しい経営環境への危機感と、それを乗り越えようとする強い情熱が伝わってきた。
共通して挙がった課題はコストアップだ。原燃料や加工料金、物流費の上昇は各社に重くのしかかり、中東情勢の影響も長期化する。価格転嫁は避けられない一方、単なる値上げでは顧客の理解は得られない。帝人フロンティアや旭化成アドバンス、クラレトレーディングなどは、高機能素材や提案力を武器に「価値を認めてもらう価格転嫁」を目指す姿勢を示した。産地企業との共存を重視し、サプライチェーン全体で持続可能なモノ作りを模索する考えも共通していた。
一方で、各社は守りだけでなく攻めの戦略を加速させる。帝人フロンティアは国内外4拠点の連携を強化し、差別化素材の拡販とグローバル生産体制の構築を進める。帝人フロンティアと10月に統合して「TAフロンティア」となる旭化成アドバンスは、「ベンベルグ」を核に中東やアフリカ市場を開拓する考えだ。旭化成ロイカ事業部は中国での再編を機に、機能糸・環境配慮型糸へ軸足を移し、ブランド価値を高める。東洋紡せんいは再編が進む業界の中でも利益率を重視し、海外市場と高機能ニットの拡大を狙う。
環境対応も大きなテーマとなった。東レはサーキュラーエコノミーを軸に、繊維to繊維リサイクルや長く着られる素材提案を推進。人工皮革「ウルトラスエード」では、本革との共存を意識しながら新たな質感や用途を追求する。シキボウは環境配慮型素材と後加工技術を組み合わせて付加価値を高め、新内外綿は未利用資源や繊維廃材を活用した糸開発を深化させるなど、各社とも「環境」と「事業」を両立させる道を探っている。
また、海外市場への視線も印象的だった。中国を生産拠点ではなく市場として捉える動きや、東南アジアでの供給力強化、欧米や中東、アフリカへの販路開拓など、国内市場の縮小を見据えた成長戦略が目立つ。海外生産拠点同士を結び付ける仕組みづくりや、人材育成への投資も進み、モノ作りの競争力を維持・強化しようとする姿勢がうかがえた。
共通していたのは、目先の逆風にとらわれず、その先の産業の姿を見据えていたことだ。
現場を率い、開発や営業、生産を束ねる立場だからこそ、危機を成長の機会へ変えようと挑戦を続けている。新素材の開発、グローバル展開、サステなモノ作り、人材育成――。それぞれアプローチは異なるが、「繊維にはまだ大きな可能性がある」という信念は共通していた。
2026年夏季総合特集では、11人のキーパーソンへのインタビューを通じて、繊維・ファッション業界の現在地と未来への展望を探った。変化の時代だからこそ、次の成長を切り開こうとするリーダーたちの思いが、これからの繊維産業を支えていく。
〈旭化成 ロイカ事業部長 近藤 尚明 氏/機能衣料へのシフト加速/中国生産拠点を再編〉
――繊維・ファッション産業で気になる動きは。
ここ数年、アジア全体での業界再編やサプライチェーンの組み換えが急激に起こっています。スパンデックスを見ても中国を中心に再編の動きが目立ちます。中堅・小規模なメーカーが生産縮小や撤退をする一方で、大手メーカーは増設を進めるといったケースです。また、中国では生産地も従来の沿海部から内陸部に移動する動きが出ています。
背景には構造的な過剰供給問題に加えて中国での環境規制強化があります。
――どのように対応していますか。
当社も中国の生産拠点を再編しました。浙江省杭州市にある子会社、杭州旭化成アンロン(HAS)でロイカを生産していましたが、これを今年終了し、杭州青雲控股集団との間で設立した合弁会社の杭州旭雲アンロン(HAQ)への事業移管を進めています。再編の直接の理由はHASが立地する地区の再開発のためですが、これを機会にパートナー企業との連携によって規模を拡大するとともに柔軟で持続可能な事業体制を構築しようということです。
当社はドイツでのスパンデックス生産を停止して以降、日本、中国、台湾、タイといったアジア地域での生産に集中してきました。中国メーカーによる汎用(はんよう)糸の寡占が進む中で、機能糸や環境配慮型糸への特化も進めています。今回の再編はこうしたポートフォリオ転換の一つの節目です。機能衣料・製品に向けた糸の生産と提案にシフトします。このため今期(2027年3月期)からロイカブランドのキービジュアルを一新し、積極的にブランド発信に取り組んでいます。
――中東情勢の影響は。
3~4月こそ一部の原料の供給不安から市場でもパニック的な動きがありましたが、現在のところは大きな問題は起こっていません。ただ、原燃料価格などは後々に上昇するなどコストアップが続いていますから、価格転嫁を進めています。心配はコスト構造の変化によって価格体系が変わったことで消費が減退しないかということです。
――重点戦略は。
国際情勢が依然として不透明ですから、一つはBCP(事業継続計画)対応をしっかりやることです。その上で当社の機能糸や環境配慮型糸の価値を認めていただくことで価格転嫁を進めなければなりません。中長期的には環境配慮への取り組みが重要です。既にマスバランス方式バイオ由来原料によるロイカや生分解性を確認した「ロイカV550」、生産工程で発生する不要糸などを原料の一部に再利用するリサイクル糸「ロイカEF」を商品化しています。さらに繊維to繊維の流れに貢献できる商品開発にも取り組んでいます。取り組みや成果を報告する「ロイカサステナビリティレポート」も継続的に発表しています。今後もユーザーとの価値の共創に取り組みます。





