ごえんぼう

2026年08月24日 (月曜日)

 江戸時代、上田秋成が著した怪異を題材とする読本『雨月物語』に「浅茅(あさじ)が宿」がある。主人公の勝四郎は下総(千葉県)で、足利染の絹を商う京の商人に同行し、白絹を仕入れて京都で売る。華美を好む都で絹は売れ、商売は成功する▼だが関東の戦乱を案じて帰路に就くも、盗賊に荷を奪われ、病に倒れる。妻・宮木との「秋には帰る」との約束を果たせぬまま、7年が流れる▼ようやく故郷へ戻ると、妻が待っていた。二人は一夜を過ごすが、翌朝、家は浅茅の生い茂る廃屋となり、宮木は消えていた。既に亡くなっていたのだ▼宮木は死を前に歌を残した。「さりともと思ふ心にはかられて世にもけふまでいける命か」。それでも夫は帰ると信じ、今日まで生きてしまった――。幽霊となった宮木は、夫を責めも呪いもせず、長年の恨みも再会で晴れ、会えた喜びを伝える。怪異の物語というより、その一途な思いが何とも切ない。