ごえんぼう
2026年09月01日 (火曜日)
〈わが肩に蜘蛛(くも)の糸張る秋の暮れ〉。この句を詠んだ富田木歩(もっぽ)は、大正期に活躍した俳人だが、関東大震災で命を落とす。まだ26歳という若さだった▼木歩の人生は苦難に満ちていたといえるだろう。現在の東京都墨田区東向島に生まれた木歩は、誕生の翌年に高熱によって両足が麻痺し、歩くことができなくなってしまう。生家は貧しく、小学校にも通えなかったそうだ▼俳号の木歩は、歩きたい一心で作った木の足に由来する。冒頭の句は、肩に蜘蛛の糸があったという小さな出来事を詠んでいるが、その境涯を思うと、秋の暮れの寂しさがより深く感じられる。俳句との出会いは救いになったのだろうか▼関東大震災の死者・行方不明者は約10万5千人に及んだ。それは一人一人の人生が途切れたことを意味している。もし途切れずに続いていたとしたら。防災は、一人一人の人生をつないでいくための備えなのだと改めて思う。





