ごえんぼう

2026年09月15日 (火曜日)

 以前、滋賀県大津市に「紅葉パラダイス」というレジャー施設があった。温泉宿泊施設が併設され、食事やショーも楽しむことができ、家族連れも多かった▼大津市を主な舞台にした連作短編小説の「成瀬」シリーズが人気を博す。『成瀬は天下を取りにいく』から『成瀬は都を駆け抜ける』まで3作が刊行されており、文庫を含めたシリーズ累計発行部数は250万部を突破している▼同小説の魅力は、主人公の成瀬あかりにある。〈島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う〉という最初の一文で心を奪われた人も多いのではないか。実際にこんな人物がいたら大変だが、読後は背中を押されるような感覚になる▼ふとした瞬間に失われた場所を思い出すことがある。大津にもう紅葉パラダイスはないが、姿を変えつつ、町はこれから息づいていく。徐々に秋が深まり、夜も長くなってきた。変化に思いを寄せながらの読書も悪くない。