対熊防護ウエア/防刃技術生かし開発ラッシュ/出没最多の10月控え需要増
2026年09月17日 (木曜日)
熊の出没が急増する時季を前に、襲撃から身を守る装備品への需要が高まっている。産業用防刃ウエアなどを手掛ける繊維関連企業の中には、自社技術を応用し、対熊防護ウエアの販売に乗り出すメーカーも出てきた。社会課題を解決する新たな市場が生まれつつある。(甘利昌史)
環境省の集計(速報値)によると、熊の出没は冬眠前の食欲が高まる10、11月に年間のピークを迎える。出没情報の統計を開始した2009年度以降で最多を記録した25年度は、10月が約1万6千件、11月約1万件に上り、前年同月比でそれぞれ約7・1倍、約8・1倍と激増している。気候変動に伴う山林の餌不足や、人との生活圏を隔てる緩衝地帯の縮小などが背景にあるとみられる。人身被害も深刻化しており、25年度は過去最悪となる238人が被害に遭い、うち13人が命を落とした。
このような状況下、熊対策の最前線に立つ行政や猟友会からの切迫した要請に応えるべく、防刃ウエア技術のノウハウを持つメーカーは急ピッチで製品開発を進めている。防刃装備品を企画販売するSYCO(神戸市)は、自社ブランド「SSP」の熊対策防護ウエア「ベア・アーマー」シリーズの開発を昨年から進めており、一般販売も順次始めている。
防護部分の素材は検証を重ねた結果、熊の爪による一点集中の貫通を防ぐため、炭素強化樹脂層、アラミド繊維層、クッション層の3層構造をベースとした。狙われやすい顔・頸部(けいぶ)、体幹部、腕などに対応したパーツをラインアップする。現在は東北地方の自治体や山林に入る電力会社などのインフラ企業から引き合いが多いという。軽量モデルの開発も目指している。
防災・防護ウエア製造卸のサクセスプランニング(京都府八幡市)は販売代理店からの要望を受けて昨年から対熊防護ウエア「熊テクター」の開発に着手。今春から本格販売を始めた。熊の爪の撃力を想定した実証実験で引き裂きや貫通への耐性を確認している。
強靱(きょうじん)性を支えるのは、高度な繊維複合技術だ。超高強力ポリエチレン(PE)繊維にナイロンやグラスファイバーなどを絡め合わせた糸で強固に編み上げたニット生地を採用。さらに耐突刺性に優れたPE100%のフェルト素材を重ね合わせた多層構造としている。アイテムはジャケットやベストのほか、ネックガード、腕カバーなどを展開。イノシシの突き上げ対策向けに下半身の防護に重点を置いた製品などもそろえ、対獣防護ウエアの裾野拡大を目指す。
ニット製造の鈴治(山形県山辺町)は、元々主力のファッションニット以外に防刃ウエアを製作していたことが奏功し、そのノウハウとクラレの高強力繊維「ベクトラン」を活用した防護ウエアを開発した。特殊横編み機で編み上げた生地は、同県工業技術センターに依頼した試験によると、引き裂き強度や摩擦強度で一般的な厚手生地を大きく上回っており、熊から襲撃された際のダメージを抑えることが期待できる。
5月に試作品が完成。その後行政や猟友会からの要望を受け、軽量ジャケット、ベスト、キャップ、ネックガードを製作した。課題は本業のファッションニットの繁忙期と重なるため生産量を増やせない点だ。生地だけの販売にも対応している。





