特集 アジアの繊維産業(3)/タイ/高付加価値化に活路
2026年09月29日 (火曜日)
タイの経済低迷が続いている。バーツ高、米国の関税政策、安価な中国品の流入による国内製造業の疲弊に加え、中東情勢悪化による原燃料価格高騰が追い打ちをかける。既にタイは汎用(はんよう)品の生産拠点としての競争力を失っている。このため日系繊維企業も事業の高度化が不可避となる。
〈伸び悩むGDP成長率〉
タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)は、同国の2026年の実質GDP成長率を前年比2・5%と予想する。前回予想の2・0%からは上方修正されたが、見通し通りとなるのか懐疑的な見方も強い。実際に26年第1四半期(1~3月)の成長率こそ2・8%となったが、第2四半期(4~6月)は1・9%にとどまる。中東情勢悪化による原燃料高騰の影響がジワジワと現れ始めた。
タイ工業連盟(FTI)によると、26年上半期(1~6月)の自動車生産台数は71万7212台(前年同期比1・0%減)にとどまる。
うち輸出向けは44万9161台(5・4%減)と大きく減少した。中東向け輸出が大幅減少している影響が無視できない。
〈ASEAN事業のハブに〉
繊維産業も厳しい。特に衣料分野は安価な中国品との競争激化、バーツ高などによってタイの競争力が低下している影響を大きく受ける。このため日系繊維企業も生産品種の高付加価値化など事業の高度化に活路を求めることになる。タイ単独ではなく、日本やインドとASEAN地域をつなぐサプライチェーンのハブとしての役割が求められる。
東レグループは、合繊製造のタイ・トーレ・シンセティクス(TTS)と紡織加工のトーレ・テキスタイルズ〈タイランド〉(TTT)が原糸からテキスタイルまでの一貫生産による高付加価値化に取り組み、東レグループの販売・技術ネットワークを活用した開発・拡販を進める。
帝人フロンティアグループのテイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)とテイジン〈タイランド〉(TJT)はASEAN、インドへの素材供給を目指す。加えて原糸、原綿、スパンボンド不織布、加工糸を生産する同社は日本、北米、欧州、中国に向けたグローバル供給拠点としての体制整備を進める。織布染色加工のタイ・ナムシリ・インターテックスも織物だけでなく編み地生産も拡大し、織物と編み地をともに供給する「生地のワンストップサービス」を強化する。
クラボウグループは紡織のタイ・クラボウと染色加工のタイ・テキスタイル・デベロップメント・アンド・フィニッシング(TTDF)による一貫生産を強みに、価格競争に影響されない新商品開発や新規ビジネスの開拓に取り組んでいる。
〈高度なニーズに応える/顧客の競争力につながる糸提案/タイ旭化成スパンデックス〉
タイ旭化成スパンデックスは、顧客の競争力につながる糸の開発・提案に力を入れる。高度なニーズに応えることで旭化成のプレミアムストレッチファイバー「ロイカ」の最大の生産拠点としての役割を果たす。スマートファクトリー化の推進や、再生可能エネルギーへの転換も進めた。
2026年度上半期(1~6月)は、中東情勢悪化による原燃料高騰など事業環境の悪化があったが、供給不安から一部の需要家が積極的な調達に動いたこともあって販売は衣料用途と衛材用途ともに比較的好調に推移した。ただ、7月以降は上半期の反動で糸の荷動きは、やや鈍化している。
坂元盛也社長は今後の戦略として「定番糸ではなく差別化糸で戦うのが『ロイカ』の基本戦略。主力顧客・有力顧客の要望に応じた糸の開発と提案を進める」と話す。機能糸の生産品種拡大を進めているほか、リサイクル原料を使用した「ロイカEF」に加え、タイならではの独自の開発も視野に入れた環境配慮型商品の販売拡大に取り組む。
衛材用途は「顧客にとっての取り扱いやすさが重要」として、取引先である衛材メーカーの生産効率向上などに貢献する糸の開発と提案に力を入れる。アパレル用途は糸の開発に加えて、アパレルへの直接提案を強化する。
旭化成が進めている(デジタル技術で企業を変革する)DXによるスマートファクトリー化も守山工場に加えタイでも推進している。現在は生産データの収集・可視化によって課題抽出ができるようになった。今後は人工知能(AI)の活用なども視野に入れ、コストダウンや生産性の向上につなげることを目指す。
また、再生可能エネルギーの活用も進めた。I―REC制度を活用し、25年から工場で使用する電力使用量相当分の再生可能エネルギー証書を調達することで、使用電力の実質100%再生可能エネルギー化を実現した。
カーボンフットプリント(CFP)算出も行っており、サステナブルレポートを通じて需要家への環境情報提供も進めている。
〈資材中心に商材拡大/中東向けはブランディング強化/タイ蝶理〉
タイ蝶理は、資材分野を中心に取り扱いアイテムの拡充を進める。また、中東民族衣装用織物はブランディングを改めて強化し、攻勢が続く中国品との差別化に取り組む。
2026年度上半期(1~6月)は、衣料用途に勢いがないものの資材用途は比較的堅調に推移した。原料事業は衛材向けが苦戦し、カーシート原糸・生地も国内販売に勢いがない。ただ、メキシコへの輸出が安定していた。
一方、テキスタイル事業は中東民族衣装用織物が主力のため、中東情勢悪化の影響を大きく受けた。また、中国品の安値攻勢が続いており、タイ品やインドネシア品、韓国品のシェアを侵食する状況が続いている。
同社ではタイで衣料向けの原料販売を拡大することは難しいとみており、引き続き資材用途を中心に販売の拡大を目指す。特に自動車向けはタイの自動車生産台数の回復を期待すると同時に、メキシコなどへの輸出拡大を進める。また、資材分野を中心に取り扱い商材の拡大も不可欠とみており、不織布関連などで商材の拡大を目指す。
テキスタイル事業は中東民族衣装用織物のブランディングを強化する。日系メーカー品としての打ち出しを強化することを検討するほか、従来のポリエステル短繊維100%品に加えて、セルロース繊維複合品などもラインアップに加えることで、中国品との差別化に取り組む。





