ジーンズ別冊26AW(18)/三備賛歌(3)/縫製/好調の裏で迫る産地存続の壁
2026年09月30日 (水曜日)
岡山、広島両県にまたがる三備産地のデニム・ジーンズ関連縫製業は、インバウンド需要などを背景に堅調に推移する。一方、最低賃金や物価の上昇、人手不足が経営を圧迫し、縫製料金の引き上げだけでは対応し切れない状況にある。各社は自社ブランドの強化や人工知能(AI)の活用、人材確保、観光・イベントによる産地発信など、存続に向けた取り組みを加速している。
〈ブームも加工料金障壁に〉
三備産地のデニム・ジーンズ関連縫製工場は、旺盛なインバウンド需要を背景としたブームの後押しもあり、おおむね堅調だ。角南被服(岡山県倉敷市)は、「常に生産能力を超える受注がある」状況で、アパレルナンバ(同)も「受注は潤沢にある」という。業績面でも堅調さがうかがえる。倉敷スタイル(同)も国内生産が約10%の増収。アクティブ(同)も、2027年2月期上半期(3~7月)は、約20%の増収だった。
縫製工場も多くが堅調な一方で、「縫製料金の上昇が十分ではない」とする工場は少なくない。縫製料金は20年前と比べると倍近く上昇しているものの、当時の料金はデフレ下の激しい過当競争の末に下がるところまで下がった価格であり、比較にならない。
厚生労働省によると、最低賃金の全国加重平均は05~25年度の20年間で約1.68倍に上昇している。25年度は全国加重平均で66円と過去最大の引き上げとなり、今後も上昇が見込まれる。製造原価に占める人件費の割合が高い縫製工場にとって、人件費の上昇はそのまま会社の業績に影響する。同じ期間のCPI(全国・総合、年平均)を比較すると、物価上昇率は約17.6%上昇で人件費以外の経費も上昇しており、経営を圧迫している。
〈人手不足解消へ障壁〉
縫製料金が倍近く上昇しても工場の経営が苦しい理由は、産地で起こる深刻な人手不足が原因の一つとなっている。特に影響が大きいのが、19年に創設された在留資格の「特定技能」だ。
特定技能は、日本の人手不足分野で一定の技能を持つ外国人を即戦力として受け入れるための在留資格。1号と2号の二つの区分がある。
縫製を含む繊維工業には、他業種にない追加4要件が課され、技能移転を目的とした技能実習制度と比べ、掛かる経費が増加している。
追加要件の一つである「国際的な人権基準に適合し事業を行っていること」を満たす方法として、経済産業省主導のJASTI(ジャスティ)などの新たに整備された認証への対応が占められている。JASTIは、日本語で認証できる利点はあるが、制度自体が現在も変更や改定が行われており、当初必要とされた経費以上の追加費用が求められている。
もう一つの要件、「勤怠管理の電子化」も費用がかかることに加え、従業員数の少ない中小零細事業者には自動集計などの電子化の利点は少ない。パソコンを使えない高齢経営者にとって障壁にもなっている。
さらなる障壁は、政府が外国人労働者に求める日本語力の高さだ。ある縫製工場社長はこう指摘する。「政府としては、日本語能力が高い外国人労働者を受け入れ、日本の文化や生活になじめるようにすることで、孤立からの治安の悪化につながることを防ぐ思惑があるのではないか」と。「しかし、日本語を習得できる人材は、わざわざ単純作業を選ばなくても、ほかに働き口がある」と、政府の思惑と現実の乖離(かいり)を指摘する。
技能実習制度に代わり、来年から始まる育成就労制度では日本語能力検定のN5、特定技能1号にはN4以上が求められる。100時間の日本語講習を受けることでN5取得の代替とすることも可能だが、地方都市で日本語教師を手配することは難しく、費用もかかる。
これらの人手不足解消の障壁が解消されない場合、縫製料金は今後さらに上昇すると見込まれる。将来的には、産地が消滅する可能性も否定できない。
〈産地存続へさまざまな策〉
産地存続のため、産地企業はさまざまな策を講じる。その一つが、自社製品の販売による経営の安定化で、一部企業はアパレル企業へと業態を転換しつつある。縫製工場として事業を始めたTCB(倉敷市)は、「TCBジーンズ」ブランドで販売を伸ばし、現在では自社製品100%となった。
青木被服(岡山県井原市)は、自社ブランド展開のほか、積極的に自社店舗を出店することで垂直統合を図る。5月には、クラボウの旧工場を再生した複合施設、倉敷アイビースクエア(倉敷市)内に新店舗「アオキデニム―プレミアムインディゴラボ―」を開業した。現在では、倉敷美観地区(同)周辺に4店、東京の浅草に2店、直営店を構えている。
ナイスコーポレーション(同)は、公益性の高い事業を展開する企業を認証する国際制度「Bコーポレーション」(Bコープ)の取得で、志望者を増やしている。2月には、築43年の幼稚園跡の建物を改装して本社を移転。「さまざまな人の思い出が詰まった幼稚園に再び息を吹き込み、児島の産業の一つであるジーンズを次世代につなぐ場としたい」と井筒伊久磨社長は展望を語る。
AIの活用で、生産性を高め、産地存続を目指すのは、INAHO(同)。自社の情報を学習させたAIを活用して事務作業を効率化することで、従業員の業務負担を軽減する。
SNSを活用して人材採用を進めるのは、アシッドハウス(同)。4月にインスタグラム経由で採用した従業員を中心に加工事業部を立ち上げた。長尾敦社長は「3万5千人のフォロワーを抱えるインスタグラムを活用して従業員を募り、旺盛な加工需要を捉えたい」と語る。
ベティスミス(同)は7月、本社に併設する国内最古のジーンズ縫製工場で、「繊維マイスター」「繊維プレマイスター」の認定に必要な要件の一つとなる「ジーンズ縫製1、2級」の認定試験を実施した。10年後を見据え、“産地の若手”の技術向上を支援する。
ミズタニ(井原市)は、本社と併設店舗、縫製工場を移転する。新たな工場は、製織体験や工場見学ができる観光型の工場として設ける。行政とも連携して市内外から観光客や就業者を呼び込む狙い。建築資材不足などの影響で完成は年末になる見通しだ。
イベントによる産地の魅力発信も活発だ。10月24、25日、児島市民交流センター芝生広場(倉敷市)で開かれる、「コジマサーカス2026」は、全国からさまざまなブランドが集い製品を販売するほか、芸術や音楽、飲食を楽しめるイベント。実行委員会は、「観光地としての児島の魅力を発信することに加え、児島の繊維産業への就労者を増やし、県外のブランドが児島で店舗を構えたいと考えるきっかけを作りたい」と展望を語る。





