2026秋季総合特集(3)/Topインタビュー/東洋紡 常務執行役員繊維本部長 黒木 忠雄 氏/製販一体で強み高める/エアバッグ事業の改善進む

2026年10月26日 (月曜日)

 「製造業としての強みと、商社としての強みは異なる」――東洋紡の黒木忠雄常務執行役員繊維本部長は指摘する。こうした考えの下、エアバッグ事業や中東民族衣装用織物の輸出事業などで製販一体体制の強化に向けて矢継ぎ早に手を打つ。「製造業としての生産技術によって強みを発揮する。強みのあるところを積極的に〝攻める〟」と強調する。一方、アクリル繊維事業などは設備も縮小しながら、やはり強みのある機能品を中心とした事業構造への転換を進める。

  ――日本の繊維産業にとって〝攻め〟と〝守り〟についてどうに考えていますか。

 日本の繊維産業を〝守る〟ためにも、強みのあるところを積極的に〝攻める〟ことが必要だと思います。例えば当社の場合、中東民族衣装用織物の輸出などがそれにあたります。ただ、製造業としての強みと、商社としての強みは異なるということも注意する必要があります。実際に中東民族衣装用織物は、紡織加工といった生産技術によって強みを発揮してきました。このため、2027年4月から中東向け織物輸出事業を東洋紡せんいから東洋紡に移管することを決めました。これまでも当社の庄川工場(富山県射水市)が加工を担ってきました。販売も当社に移管し、製販一体とすることで強みをさらに高めることが狙いです。

 エアバッグ事業も同様です。インドラマグループとの合弁会社であるタイの東洋紡インドラマアドバンスドファイバーズ(TIAF)を10月末に完全子会社化することを決めました。これによりタイのエアバッグ基布製造子会社である東洋紡サハセーフティーウィーブ(TSSW)と一貫生産体制を構築します。意思決定の迅速化と経営資源の効率的な投入が可能になりますから、開発も一段とスピードアップするでしょう。逆にエアバッグ基布の米国販売子会社である東洋紡インダストリアルマテリアルズアメリカ(TIMA)は9月に解散しました。エアバッグ事業は商社的なやり方では難しいのです。今後、北米市場へはタイ子会社を通じて直接販売する形になります。

 一方、産業資材に関しては商社機能を持つ東洋紡せんいを含めた形で取り組んでいます。例えばインフラ分野などは東洋紡せんいの調達力を生かして重点的に攻めています。例えば新幹線の線路敷設で使用するロングチューブ、河川堤防の滑り止め材、屋上防水材などは高いシェアを持っています。メディカルディスポーザブル製品も実績豊富です。

  ――〝守り〟に関してはいかがでしょうか。

 アクリル繊維事業は〝守り〟先行です。事業子会社の日本エクスラン工業の製造設備のうち、アクリレート繊維やデシカント材料(高分子吸着材)の原料となるアクリルパウダー製造ラインを除く汎用(はんよう)アクリル短繊維の重合・紡糸設備を26年度末(27年3月末)で停止します。その上で27年度中に年産千㌧規模の新設備を導入し、自社生産は強みのある機能品に特化し、不足分は委託生産に切り替えます。今後は強みであるアクリレート繊維やデシカント材料と、機能品を中心とした特殊アクリル短繊維に特化することで収益力を強化する戦略です。

  ――26年度上半期(4~9月)も終わりました。繊維事業の状況は。

 東洋紡せんいを中心とした衣料繊維事業は中東情勢悪化の影響が大きかった。中東民族衣装用織物の出荷が一時止まってしまいましたから。現在は流通経路を含めてさまざまな工夫によって通常時の7~8割の水準まで出荷も回復していますが、工場稼働が一時停止していたことで固定費負担が大きくなっており、利益面への影響が出ています。

 エアバッグ事業は回復基調が続いています。TIAFの原糸生産が順調に立ち上がっており、取引先の認証も順調に取得できていることから稼働率も上昇しています。現在は約50%の水準ですが、28年度中には100%とする計画です。また、基布製造のTSSWはフル生産となっており、能力を増強中です。

 アクリル繊維事業については、現状でも黒字を確保しています。今回の設備再編によって強みのある機能わたや産業資材向けのパルプ材やパウダー、アクリレート繊維に特化することになりますから、さらに収益力を高めることを目指しています。

  ――中東情勢悪化による原燃料高騰の影響は。

 コストアップに対して価格転嫁を進めましたが、ある程度は浸透しました。特に産業資材分野は価格改定が進みました。価格上昇も問題ですが、それ以上に供給不安が高まったことで、需要家もまずは安定的な調達を優先した結果でしょう。

  ――26年度下半期(26年10月~27年3月)に向けた課題や戦略は。

 エアバッグ事業は10月末のTIAF完全子会社化を円滑に実施することが最優先となります。これまでインドラマグループとの折半合弁ということもあり、生産だけでなく内部の管理体制なども両社で協力しながら運営してきました。完全子会社に移行後は、東洋紡グループの子会社としての体制を整備することになります。

 衣料繊維事業は、やはり中東民族衣装用織物がどこまで回復するかです。ちょうどラマダン明け商戦に向けて東洋紡せんいが営業のテコ入れを進めています。上半期の落ち込みを可能な限り取り返していきたいと思います。

 また、繊維事業全体で見ても上半期は値上げが浸透しましたから、それによる収益改善効果を下半期に発現させなければなりません。ただ、最終的には戦争が収まるまでは依然として不確実な情勢が続くことになるでしょうから、慎重に事業運営していかなければなりません。

〈私の今年のベストバイ/ハワイ島を満喫〉

 「ゴールデンウイークに妻とハワイに旅行しました」という黒木さん。観光地として一般的なオアフ島ではなく「一度行ってみたかったハワイ島に行った」。黒木さんは米国駐在時に現地で運転免許も取得済み。それを生かしてレンタカーでハワイ島を横断した。固まった溶岩の上を歩いたり、砂浜で野生のウミガメを見たりと「ハワイ島の大自然を満喫した」。まさに〝プライスレス〟な体験となった。ただし、「ハワイの物価と円安にも衝撃を受けた」とも。

【略歴】

 くろき・ただお 1989年東洋紡入社。ザイロン事業部長やスーパー繊維事業総括部長、繊維機能材事業総括部長などを経て2022年執行役員、26年4月から常務執行役員繊維本部長