2026秋季総合特集(4)/Topインタビュー/旭化成 常務執行役員コンフォートライフマーケットユニット担当 西澤 明 氏/開発とマーケティングで攻める/良い合弁と言われるように

2026年10月26日 (月曜日)

 旭化成は、2026年9月に3カ年中期経営計画の中間点を迎えた。繊維関連事業の26年4~9月の業績見通しは、キュプラ繊維「ベンベルグ」が利益面で上向くなど、おおむね堅調に推移している。下半期以降は、ベンベルグのBtoC向けプロモーションの強化に取り組むほか、10月発足のTAフロンティアのシナジーの早期発現に期待をかける。西澤明常務執行役員コンフォートライフマーケットユニット担当は「TAフロンティアに20%出資する合弁パートナーとしてできる限り支援を行う」と強調した。

  ――コンフォートライフマーケットユニットのうち繊維で取り組んでいる攻めと守りは。

 攻めの部分では新製品の開発があります。連続長繊維不織布「ベンリーゼ」のスリットヤーン「ベンブリーズ」の展開を始めましたが、手芸用途のほか、フランス大手ブランドの雑貨用途でも採用が進みました。現在はセーター用途でも人気を獲得しています。高機能セルロースマイクロファイバーも開発しました。

 ベンベルグでは、短繊維である「ベンベルグBF」の生産量を今年7月から2倍に増やしました。アウターとインナーでの需要増に応じたものです。そのほかの攻めでは、マーケティングがあります。ベンベルグが中心になりますが、BtoC向けのプロモーションを仕掛けていきたいと考えています。

  ――守りの部分での取り組みは。

 さまざまな変化が起こる中、その変化をいかに吸収するかに目を向けています。それには顧客や取引先との関係強化、旭化成内部の柔軟性、販売先と調達先の分散、傷んだ箇所を元に戻す力(レジリエンス)が必要になります。単なるBCP(事業継続計画)ではない、強い体質の構築を目指します。

  ――旭化成の繊維関連事業を取り巻く環境は。

 中東情勢、日中関係、原燃料高、輸送費の上昇、環境規制、為替などが事業にどのような影響を与えているかになりますが、中でもコスト上昇は事業の動向を大きく左右します。当社の場合、衛生材料向けや資材向けのポリプロピレンスパンボンド不織布の価格転嫁は進んでいますが、衣料品分野向け繊維の価格転嫁は十分とは言えません。

 マーケットに目を移すと、サステイナビリティーへの要望と訪日外国人(インバウンド)需要は踊り場を迎えている感じがしています。店頭も金額ベースでは昨年並みを維持しているようですが、数量は落としているのではないでしょうか。あらゆる物の価格が上昇する中、賢く選んで購入する消費者が増えている気がします。

  ――そのような状況下で業績の推移は。

 26年4~6月は、価格上昇の流れの中、需要の前倒しがありました。用途的にはスポーツ・アウトドア、中国でのアウター向けのベンベルグが順調でした。そのほか、北米向けの裏地、インドの民族衣装、資材(フィルター)などの動きも良好でした。一方で、インナーとファッション関連が厳しい状況でした。

 7月以降も第1四半期と同じような状況にあり、上半期は数量についてはおおむね前年並みで推移しています。利益面では、ベンベルグが上向いているほか、子会社の旭化成アドバンスも海外を含めて前年を上回る見通しです。ポリウレタン弾性繊維「ロイカ」は前年並みを予想しています。ベンリーゼは、フェースマスクでインバウンド需要が一巡しました。

 先ほどお話した新開発の高機能セルロースマイクロファイバーは、ベンベルグの製造で培ってきた技術を基盤にしています。この繊維を配合した液体を塗布すると、繊維がネットワーク状の膜を形成するほか、液体中での均一分散性にも優れています。こうした特徴から花王のスキンケア製品に採用されました。

  ――下半期以降はどのような施策を進めますか。

 ベンベルグは、12月に火災事故からの復旧プロジェクトが完了する予定で、生産能力は事故前の約9割の水準である年間約2万㌧になります。今後の重点テーマの一つになりますが、インドでの民族衣装用途以外の生地開発に力を入れます。インド最大級の繊維展示会でも好評で、需要拡大に期待しています。

 BtoC向けのプロモーションについては、30歳前後の若手社員が中心になって「どのツールやメディアを活用するのが良いか」「どのターゲットにするのが良いか」などを検討している段階です。早い段階で本格実施を目指します。また、BtoBでも吸放湿性を持つベンベルグが夏素材として適していることなどを訴求していきます。

  ――TAフロンティアが10月に発足しました。

 旭化成アドバンスと帝人フロンティアの統合によるシナジー発揮は間違いないのですが、それをいかに早く発現させるかがポイントです。繊維では、旭化成アドバンスのセルロースとナイロンの加工技術、帝人フロンティアのポリエステル加工技術を組み合わせて商品開発を進め、それぞれの顧客へのクロスセルも追求していきます。

 また、両社の統合を前に、旭化成グループで繊維製品の製造・販売を行っている中国の杭州旭化成紡織(HAT)を旭化成アドバンスに移管し、現在はTAフロンティアの傘下となっています。TAフロンティアは中国内販に強い企業ですので、HATのさらなる成長が見込めます。冒頭の攻めと守りで言えば、攻めに近い守りになるでしょうか。

 TAフロンティアは、国内の産地で作った付加価値の高い商品を世界の市場に結び付けるという役割も担っています。産地企業に「良い合弁だった」と言われることが目標の一つです。旭化成の出資比率は20%にとどまりますが、支援・協力を惜しむつもりはありません。

〈私の今年のベストバイ/滑りにくい靴〉

 「靴」がベストバイと即答した西澤さん。1月に金沢市内で行われた同社の「マテリアル領域〈繊維〉新春ご挨拶会」に出席するため、降雪対策として、滑りにくく、防水耐久性を持つ靴を購入した。冬の金沢はもちろん、「今秋の長雨でも活躍してくれた」と話す。愛用するブランドだが、滑り止めが付いたタイプは初。「ニーズはひょんなところから生まれる。『サランラップ』もキッチンに入り込んで観察すれば、新たなニーズが生まれる可能性がある」とした。

【略歴】

 にしざわ・あきら 1986年旭化成(旧旭化成工業)入社。19年11月旭化成アドバンス代表取締役社長兼旭化成執行役員、22年4月旭化成ヨーロッパ代表取締役社長兼旭化成上席執行役員、25年4月旭化成常務執行役員マテリアル領域担当補佐〈コンフォートライフ事業担当〉、26年4月常務執行役員コンフォートライフマーケットユニット担当