2026秋季総合特集(5)/Topインタビュー/クラレ 常務執行役員 繊維カンパニー長 坂本 和繁 氏/ソリューションを提供/〝クラレ・オリジナル〟追求
2026年10月26日 (月曜日)
クラレの繊維カンパニーは、独自性の強い素材を強みに「課題解決のためのソリューションを提案するところにポイントがある」と坂本和繁常務執行役員繊維カンパニー長は強調する。そのためには取引先と一緒になって用途開拓に取り組む技術的パートナーとなることが欠かせない。商材の付加価値を高め、その価値を認める取引先との取り組みによって課題解決のためのソリューションの開発と提供に取り組む。デジタルツールの活用も強化し、情報の探索と発信にも力を入れる。
――クラレの繊維事業にとっての〝攻め〟と〝守り〟をどのように考えていますか。
〝攻め〟という意味では、当社は早くから産業資材を中心とした分野に向けた原糸・原綿に特化してきたということがあります。ビニロン繊維や液晶ポリマー繊維「ベクトラン」、人工皮革「クラリーノ」などです。いずれの素材にも高付加価値用途と汎用(はんよう)用途がありますが、単純な素材販売ではなく、高機能繊維としての特性や環境配慮対応などによって社会や産業分野、取引先が抱える課題を解決するためのソリューションを提案してきたことがポイントです。もちろん〝守り〟としては、成長性が見込めず、採算も難しい汎用用途からは撤退し、独自技術や知的財産を生かした分野で事業を展開するということもあります。
この結果、ビニロン繊維、ベクトラン、クラリーノともに独自性や機能が生きる用途で販売を伸ばしています。土木や建築、防護といった分野が代表例です。環境配慮への対応としても、環境負荷の小さい製法を採用しているクラリーノや、バックコート材としてウレタンを使用しないポリエステル100%面ファスナー「マジックテープ」などが評価されてきました。
ビニロン繊維やクラリーノは海外での販売を伸ばしてきました。ベクトランも旺盛な需要が続いており、これまでも生産量を拡大してきました。さらなる増産に向けた投資も検討しなければなりません。
そこで重要なのは、取引先など顧客と一緒に用途を開拓し、付加価値を作っていくということです。単なる素材を販売する繊維メーカーではなく、一緒に付加価値を作り上げる技術的パートナーとなることが重要。今や汎用品では中国メーカーなどの力が圧倒的であり、供給力の面で太刀打ちできません。実際にビニロン繊維も汎用品は中国製が大量に流通しています。だからこそユーザーとの取り組みによって付加価値を生み出していかなければならないのです。
――2026年度上半期(1~6月)の繊維セグメント業績は売上高292億円(5・9%増)となり、営業利益41億9600万円(前年同期は5700万円の損失)と黒字浮上しました。
中東情勢悪化による原燃料高騰の影響を心配していたのですが、現場の頑張りもあって堅調な数字を確保できました。コストアップに対して値上げも実施しました。繊維に限らずあらゆる素材が高騰するといった状況もあり、取引先にも概ね理解していただけました。
クラリーノは、自動車内装材向けが欧州市場で勢いがないのですが、シューズ用途が堅調です。繊維資材はベクトランが順調です。ロープなど主力の資材用途に加えて、細繊度糸タイプなどでスポーツ・アウトドアなど衣料用途にも提案を進めており、成果も出てきました。
ビニロン繊維は建材用途の需要低迷が続いています。特に欧州はインフレを背景に住宅など建築需要が低迷している影響が大きい。そこで難燃タイプを中心に衣料用途への提案を強化しています。難燃ビニロンは日本では実績豊富な素材ですが、海外ではあまり知られていません。他の難燃素材とは異なる素材特性がありますから、それらを打ち出すことで海外市場を中心に提案を進めています。そのため海外の展示会などでも積極的に難燃タイプを打ち出すことで認知度の向上を図っているところです。
――下半期(7~12月)や来季に向けての課題や戦略について。
中東情勢の影響が上半期は後半からでしたが、下半期は期全体に及びます。このため上半期に実施し切れなかった価格転嫁をやりきることが重要になります。ただ、先行き不透明な情勢が続いていることが懸念材料です。
今期は中期経営計画の最終年度ですが、今後も戦略的な方向性は大きく変わりません。ただ、スピード感は上げていく必要があるかもしれません。いずれにしても当社の繊維事業は量を追求するようなポジションにはありません。付加価値を高め、その価値を認めていただける用途やアイテム、取引先との取り組みに集中します。
ソリューション提案を進めるためには、何より解決すべき課題を明確にしなければなりません。顧客の課題をこちらがもっと認識し、それを解決するための手段を提案しなければなりません。
また、当社が提案する素材をソリューションとして顧客に発見してもらう必要もあります。その点でまだアピールが弱い部分もある。デジタルツールの活用などで情報発信を強めていく必要があります。
いずれにしても繊維事業が生き残ることができるかは、素材と技術にかかっています。素材と技術の価値を顧客に見いだしてもらえるかにかかっているわけです。そのためには〝クラレ・オリジナル〟を突き詰めることが重要です。そうやって当社が戦えるステージを自分たちで作ることが必要だと考えています。
〈私の今年のベストバイ/AIで考えを整理する〉
「これまで無料版のAIを使っていたのですが、ついに有料版を導入しました」という坂本さん。有料版の導入に合わせて、AI利用のための講習も受講した。フルスペックのAIを使うようになって驚いたのが「プロンプト(AIへの質問文)もAIが作ってくれること」。AIと対話しながらプロンプトを作っていると思わぬ効果も。「自分が何を聞こうとしていたのかがだんだんと明確になる」。AIは利用者の考えを整理する効果もあることを発見した。
【略歴】
さかもと・かずしげ 1988年クラレ入社。クラレ西条社長や岡山事業所ビニロン生産技術部長、繊維カンパニー生産技術統括本部生産技術統括部長、西条事業所長、岡山事業所長などを経て2020年執行役員、25年から常務執行役員繊維カンパニー長





