秋季総合特集Ⅲ(4)/Topインタビュー/東洋紡せんい 社長 長尾 貴庸 氏/新規取引・商材が重要/ニーズに応じニット開発強化

2026年10月28日 (水曜日)

 「当社は、東洋紡の祖業である繊維事業の“最後の砦”のつもりで事業に当たっている。これを守ることがまず重要」――東洋紡せんいの長尾貴庸社長は強調する。そのために筋肉質な企業体質への転換を目指し、事業の構造改革を続けてきた。さらに事業を維持するためにも「新しい取引先、新しい商材は重要になる」と話す。

  ――東洋紡せんいにとって〝攻め〟と〝守り〟とは。

 〝攻め〟と〝守り〟が一体の部分もあるので分けて考えるのは難しいですね。ただ、歴史を踏まえると当社は東洋紡の祖業である繊維事業の〝最後の砦〟ともいえる役割を担っています。これを維持することが重要になりますから、まずは〝守り〟から入らざるを得ません。そのために東洋紡グループも1990年代以降、構造改革によって国内生産を縮小し、繊維の国内工場は紡織加工の庄川工場(富山県射水市)だけになりました。当社も国内工場はスクールシャツ縫製子会社の河原ソーイング(鳥取市)と、スポーツウエア縫製子会社であるトーヨーニット(鹿児島県霧島市)だけになっています。

 構造改革は現在も続いています。2026年度(27年3月期)から東洋紡の5カ年中期経営計画が始まりましたが、それに基づき当社も利益率とROE(自己資本利益率)を高めることが基本方針です。売上高はKPI(重要業績評価指標)に含めていません。得意な領域に集約し、総資産も圧縮します。個々の事業を見極め、成長性の乏しい分野からは撤退することになります。25年度はスクールシャツ縫製の酒田ソーイング(山形県酒田市)を停止し、トーヨーニットも四日市工場(三重県四日市市)を停止して本社工場に集約しました。26年度はスクールセーターからの撤退を決めました。それくらいシビアなわけです。

 一方、工場がなくなれば人材こそが資産ということになります。当社の従業員の年齢構成を見ると35~45歳が5~6%しかいない。1990年代から2000年代にかけて採用を絞り込んでいたためです。そこでこの10年間は毎年4人以上の新卒者を採用してきました。これにより34歳以下は25%まで高まっています。こうした取り組みも〝守り〟と言えます。

  ――〝攻め〟としては。

 新しい取引先の開拓と新しい商材の開発が重要です。今期から営業本部直轄にニットテキスタイルグループを新設し、ニット生地の開発を事業部横断で進める体制を整備しました。各事業のニーズに応じた開発を進めます。ブランド戦略にも力を入れます。商標管理を強化するだけでなく、産業資材事業などでは知財戦略が重要です。例えばメディカルディスポーザブル製品向けでさまざまな滅菌処理に対応した素材を確保しました。屋上防水や新幹線の線路敷設に使うロングチューブなど知財を強みにした商材があります。衣料用途では、ポリエステル長繊維編み地「スクラムテック」、ナイロン長繊維編み地「シルファインニット」、ピン方式仮撚り加工糸「バウンザ」、改質による消臭・吸放湿機能ポリエステル短繊維「グレファージュ」などが〝攻め〟の商材です。

  ――26年度上半期(4~9月)も終わりました。

 やはり中東情勢悪化の影響が大きかったです。輸出織物事業は中東民族衣装用織物の販売数量が大きく落ち込みました。円安の効果で売上高は数量ほど減っていないのですが、庄川工場の稼働率が低下したことで固定費負担が大きくなり、利益が減少しています。一方、ユニフォーム・スポーツ事業は悪くありません。スクール事業も流通在庫の整理がようやく進んだことで回復傾向です。マテリアル事業は原糸販売が健闘しています。産業資材事業は中東情勢悪化の影響による供給不安からやや仮需も発生したこともあり堅調でした。

  ――下半期の課題や戦略は。

 やはり輸出織物事業でどれだけ挽回できるかです。ただ、中東情勢の先行きが見通せないのも事実です。ただ、当社は比較的下半期型のビジネスが多いですから、なんとか計画を達成したいと考えています。その上で目線を上げて2、3年後を見据えた取り組みも進めたいと思います。

〈私の今年のベストバイ/神話が残る壱岐・対馬〉

 「今年、初めて壱岐と対馬に旅行しました」という長尾さん。学生時代からの友人と3人でレンタカーを借りて島を周遊。「壱岐は古い神社が多く、神話の世界が残っているようで神々しかった」。対馬では満潮時に社殿の近くまで海水が満ちることで知られる和多都美神社にも足を運んだ。両島とも朝鮮半島との交流の痕跡も多い。古代史や神社に造詣の深い長尾さんにとって、古代の日本や東アジアに思いをはせる楽しい旅となった。

【略歴】

 ながお・たかやす 1988年東洋紡入社。繊維・商事企画管理部長兼東洋紡STC管理部長などを経て2022年機能繊維事業総括部長兼東洋紡せんい取締役管理本部長、25年機能繊維事業総括部長兼東洋紡せんい取締役営業本部長、26年4月から執行役員兼東洋紡せんい社長