秋季総合特集Ⅳ(2)/災害から守る
2026年10月29日 (木曜日)
〈クマ専用防護ウエア/繊維の防刃技術を生かす/人身被害のダメージ軽減〉
防災・防護服製造販売のサクセスプランニング(京都府八幡市)は、クマによる人身被害の深刻化を受け、専用防護服「熊テクター」の本格販売を始めた。超高強力ポリエチレン(PE)繊維をベースにした独自開発の多層構造生地を採用。本物のクマを用いた実証実験で、表地が破れても内部の耐切創生地は貫通しなかったことを確認した。自治体や猟友会、農林業など幅広い分野から引き合いが寄せられている。
同社は産業用の防刃ウエアやエプロンなどで培った技術を生かし、昨年から猟友会などの協力を得て開発を進めてきた。実証実験では、捕獲された熊のおりに開発中の生地を投入。体重100㌔級の雄グマが牙や爪で引っかき、数分間激しく暴れた結果、表地のニットは破れたものの、内部の耐切創生地は貫通しなかった。大阪産業大学との共同研究では、クマの爪を付けた重い振り子で生地をたたく衝撃試験も行い、耐性を確認。今年5月に製品化した。
強靱(きょうじん)性を支えるのは、高度な繊維複合技術だ。超高強力PE繊維にナイロンやグラスファイバーなどを絡めた糸を強固に編み上げたニット生地に、耐突刺性に優れたPE100%のフェルト素材を重ねる2層構造を基本とする。要望に応じた3層化にも対応する。ジャケットやベストのほか、ネックガード、腕カバーなどをそろえる。顔や首など、クマとの遭遇時に致命傷につながりやすい上半身を保護し、逃げるための時間を稼ぐ設計だ。
繊維技術を応用した対熊防護ウエアの開発は、他社にも広がる。防刃装備品を企画販売するSYCO(神戸市)は、自社ブランド「SSP」で「ベア・アーマー」シリーズを展開。炭素強化樹脂層、アラミド繊維層、クッション層を組み合わせた3層構造を採用し、顔・頸部(けいぶ)や体幹部、腕などを保護する。東北地方の自治体や電力会社などから引き合いがあり、軽量モデルの開発も目指す。
ファッションニット製造の鈴治(山形県山辺町)は、防刃ウエアを一部手掛けていたことから、その製造ノウハウを生かし、クラレの高強力繊維「ベクトラン」を活用した防護ウエアを開発した。特殊横編み機で編み上げた生地は、山形県工業技術センターに依頼した試験で、引き裂き強度や摩擦強度が一般的な厚手生地を大きく上回った。軽量ジャケットやベスト、キャップ、ネックガードを製作し、生地単体の販売にも対応する。一方、主力のファッションニットの繁忙期と重なるため、生産量の拡大が課題となっている。
〈キャンプ「ノーブ」/災害時にも役立つ/快適ブラレスウエア〉
キャンプ(東京都渋谷区)は、ブラジャーを着けずに外出できるブラレスウエア「no―bu」(ノーブ)を展開する。ゴムやワイヤーによる締め付けがない構造で快適性を確保し、ファンを増やしている。日常着として開発した商品だが、災害時の避難所生活で女性が抱える悩みの解消に役立つ防災アイテムとしても注目されている。
ノーブのブラレスウエアは、服の内側のバスト部分にウレタン製の柔らかいパッドを付けている。ゴムやワイヤーを使っていないため、締め付け感がない。見た目はごく普通の日常着でTシャツやワンピース、ブラウスなど幅広いアイテムをそろえる。公式オンラインストアで販売している。
「ブラから解放されたい」と感じる女性への訴求を狙って、2024年に開発した。日常着として作ったブラレスウエアだったが、ユーザーから「防災用にも使えそうだ」「災害時に備え防災袋に入れた」という声が届くようになった。榊原美歩CEOは「全く想定していなかったニーズ」と振り返る。
福島県いわき市出身の鈴木愛子COOは、ブラレスウエアが具体的にどのように「防災」に役立つかを調べるため、東日本大震災で被災した家族や友人に避難所での生活を聞いてみた。その結果、「寝る時もブラを着けたままで肌がかぶれてしまった」「男性の目や防犯の観点から、下着を洗濯したり干したりするのが難しかった」などの課題が分かった。
鈴木さんらは、普段着と変わらないブラレスウエアならこうした課題の解消に役立ち、災害時にも活用できると考えた。「防災着」としての認知拡大を目指して動きだし、知人を介して福島県矢吹町と接点を持った。これをきっかけに、25年9月に同町の「女性防災アドバイザー」に就任し、ノーブのブラレスウエア100着を寄贈した。
年1回のペースで、町民と女性の視点で防災について話し合うワークショップを開いている。非常時でも女性が安心して過ごせる衣服のあり方や備えについて、意見交換している。鈴木さんは「防災を考える段階から女性が参画し、その声や対策を避難所運営に反映していくことが重要だ」と強調する。
防災にも用途を広げるノーブのブラレスウエア。ただ、あくまで普段着を想定して開発した商品であり、デザインにもこだわっている。
鈴木さんは「普段の暮らしで使っているものが、もしもの時にも役立つという『フェーズフリー』の考え方でノーブを使ってほしい」と話す。





